インフルエンサーを目指す幼馴染が僕の前だけで見せる姿が可愛らしいから語りたい
ちゃんきぃ
第1話 インクリ科を紹介してみた!
観美坂市内でも有数の進学校であり、体育科があることからスポーツでの実績も多数残している本校は今年で創立55周年を迎える。
その5年前の50周年。
観美坂高校に新たな学科が創設された。
インフルエンサー・クリエイター養成科。
現在では通称インクリ科と呼ばれるようになったこの学科は、名前の通りネットやSNS等で活動するインフルエンサー及びクリエイターを育成することを目的としている。
それだけ聞くと、わざわざ50周年記念で新設するような学科なのかと思われるかもしれないし、実際のところ新設前後でそういった人材を育成する必要性について一部の大人から問われ、本当に活躍できるインフルエンサーやクリエイターは誰かに教えられて生まれるものではないと、何人かのネット評論家的な方々から批判されていた。
しかし、インクリ科は単に名前に入っている人材を育てる学科ではない。
ネットで活動する上の情報リテラシーなどを学びつつ、進学校としてのベースを活かした普通科教育を組み込んだ学科だ。それは長年あった体育科も同じで、基本的な普通科の授業の中に体育科のカリキュラムを組み込んでおり、その部分をインクリ科のカリキュラムへ置き換えたのである。
それによって保身と言えば聞こえは悪いかもしれないが、インクリ科としての人材を育てるだけなく、普通の進学ないし就職にも切り替えられる学校教育を受けさせられるようになっていた。
しかも、メインとなるインクリ科の知識や技術力はインフルエンサーにならなくても役立つ。
昨今は普通の仕事においてもSNSの運営や動画制作もしくは動画配信を事業の一環や宣伝で活用することは珍しくなく、そこに強い人材は重宝されるものだ。
現在学科を卒業している第1・2期生の中にも企業に就職してインクリ科でのスキルを存分に活かしている人もいるという。
もちろん、本来の目標であるインフルエンサーや動画投稿者、それに携わるクリエイターとして活躍している人も多数おり、その両方の実績が相まって創立から5年経過した現在のインクリ科は、市民権を得ると共に市を越えて全国から注目されるようになっている。
それと同時に普通科と体育科の入学希望者もこの5年間は微増傾向にあるらしい。
最初からそれを狙って新設したのかはわからないが、少なくとも今の観美坂高校にとってインクリ科自体が宣伝効果を持つようになっているのだ。
ただ、インクリ科は決して広き門ではない。
各年度で1クラス男女15人計30人(半々なのは平等性を考えた結果らしい)で構成されており、入学試験は自己推薦に限られ、まるでオーディションの如く何回も面接が行われる。
そのことから、インフルエンサーや動画投稿者になるための想いや動機が生半可なものでは受かることが難しく、入学時点である程度素質や才能を選別されてしまう。
そして、インクリ科の生徒は入学後も想いの強さや才能を試されることになる。
1年生からそれぞれ動画投稿サイトと各種SNSのアカウントを所持し、カリキュラムの一環として動画投稿や配信をしていかなければならない。
その上1ヶ月に1回その月の登録者数推移などから算定された学年男女別のランキングが発表されるので、彼ら彼女らは否応なしに自分の実力を知らしめられ、他者と比較されてしまうのだ。
その注目は同じ校内の普通科と体育科でも当然のように集まっており、特に同年に入学した同級生の投稿やランキングは日常的な会話の元になっている。
自分が人と比べられるのは気が進まないが、他人が競い合う姿は自分の評価に関係ないので気軽に楽しめる。そのような気軽な娯楽が身近にあるのは、この学校以外だとあまりないだろう。
そんな中、今現在最も注目が集まっているのは、2年前に入学した現高校2年生――卒業後は第4期生と言われるようになる生徒たちだ。
「続いて5月の2年女子ランキングを発表! 第1位は絶対王女・
「第2位はなつみかん! 天真爛漫ギャルの進撃は止まらない! 今月投稿の【踊ってみた】パイナップルダンス・ダンスが踊りのガチさと可愛らしさがあると話題になり、YouTubeとTikTokで再生数&フォロワーを多数獲得! もちろん、普段の体を張ったバラエティー企画も好調!」
「そして、第3位はインクリ科の誇る電脳桃色ツインテガール、ショッキング・トロワ! 7月末開催のバーチャルカーニバルの出演予定も発表され、VTuberとして波に乗っているぅ! 今月は長らくかかっていたマイクラの地下神殿の完成動画が最も再生数を稼いでおり、その他にも直近のゲーム生配信で過去最高の同接2,500人を達成!」
特にこの2年女子ランキングの上位である3人は、再生数やフォロワー数が他の年代のインクリ科と比較しても群を抜いており、現在のインクリ科を象徴する存在になっている。
……などと、長々とインクリ科の始まりと現在を語ってきたが、肝心の語り手である僕――
それどころかインクリ科にすら所属していないのだから、校外の人間にこれを自慢げに話してしまうと、虎の威を借る狐になってしまう。
だったら普通科の分際で何故インクリ科のことを語ったのかというと……確かに上位3人――いや、その3人を含めたインクリ科の29人とは全く話したこともないけれど、たった1人だけ知り合いがいるからだ。その人物とは……
「最後は今月の注目株! インクリ科2年女子ランキング4位で徐々に人気を集めている
このように紹介されているが、僕からするとその内容は彼女の半分の要素でしかない。
なぜなら僕にとっての彼女はインフルエンサー兼動画投稿者の小豆とあではなく、10年来の幼馴染で同い年の
だがしかし、そんな幼馴染との関係が現在も良好かつ順調かと言われると……必ずしもそうとは言えない。
「――礼人~! 今日はこのまま直帰? だったら一緒に帰ろ?」
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