第7話 ヨールティ散策休暇

 朝のバニさんの食堂は人でごった返していた。お客さんは綺麗なお姉さんたち、子どもを連れている人もかなりいる。

 夕食時にガラガラで不思議だったけど、夜働いている人が仕事帰りに通うお店なのね。

 他のお客さんの邪魔にならないよう、私たちは食事を受け取って部屋で食べることにした。


「アイシャ、これからの予定の相談なんだけどね」

「うん」


 食事をしながら、これからについて話し合う。今日はうにぴーもテーブルのわきで一緒にお食事だ。


「魔王領に行くには、北の大森林を通らなきゃならないでしょ?地上から徒歩で抜けるには、二ヶ月程度かかるって聞いたわ」

「そんなにかかるんだ!」

「装備やアイテムの準備のためにも、ここでしっかり働かないとね」

「うん!」


 私たちは回復手段が手薄なので、回復薬は大量に用意しなくてはならない。大森林ともなれば、様々な毒や病気の薬も必要になると思う。


「来月は拝命のお祭があるから、きっと実入りの良い仕事が増えるわ。それまでギルドで依頼を受けながら貯蓄をして、お祭の後に大森林越えに挑みましょう」

「わかった!」

「今日は街を散策しながら、生活に必要なものを買い出しに行きましょう。それで帰りに冒険者ギルドに寄って、良い依頼がないか見てこよう」

「うん」

「…………」


 あまり肯定ばかりされても、不安になるな……。何か思うところはあったりしないのかしら?


「私が一方的に決めちゃってるけど、意見とか……不満、とか……ない?」

「えっ、大丈夫だよ!」


 アイシャはあわてて否定する。


「テルテがしっかり計画してくれて助かる!私じゃ、何も考えずに大森林に向かってたよ」

「そ、そう。それなら良かったわ。あと報酬についてなんだけど」


 私は収支のメモ書きと、二万ポンデを差し出す。


「先日の輸送報酬の二十万ポンデ、とりあえずバニさんに一ヶ月分の宿代六万ポンデ払ったわ。来月の生活費分に、念のため十万ポンデは保管しておきたいの。個々が自由に使えるお金として、今日のところは二万ポンデずつでいいかしら?」

「ええ!?そんな悪いよ、私何もしてないし」


 報酬を受け取ることは出来ないと、アイシャは困った顔をした。

 でも私たちは仲間であって、家族ではないのだ。お金についてはキッチリしておきたい。


「確かに荷物を運んだのは私だけど、アイシャだって魔物と戦ったり野営の準備をしたでしょ?」

「そうだけど……」

「それに私じゃ、こんな良い条件の拠点は借りられなかったわ。お互いに得意な事で協力してるんだから、報酬も平等に受け取りましょう」

「あ…うん……わかった」


 少しどもりながら、アイシャは報酬を受け取った。もしかしたら村育ちで、お金のやりとりに抵抗があるのかもしれない。

 でもこれから旅を続けるにあたって、一人で対応できるようになって欲しい。お金に無頓着であることは、トラブルに巻き込まれる要因になるから。


「食事は……もう食べ終わってるわね。少ししたら出発しましょう。お皿はまとめて片してくるね」

「うん。ありがとう、テルテ」


 今日、街を散策する目的は二つ。一つは好みの物を売っている、馴染みの店を開拓すること。

 もう一つは、東西北の外壁門を訪問すること。夜限定だけど闇魔法の影移動で、一度訪れた場所に移動できるようになるからね。

 各門を回っておけば今後のクエストのときに、時間短縮と体力温存に繋がるし。



「西門が一番近いから、西から行こうか。それから北門、東門の順にまわって冒険者ギルドを目指しましょう」

「わかった」

「ピピー!」


 西門に向かう道は、壁の向こうの碧く高い山並が印象的だった。飛龍すら越えられないことから、大地の西の壁とも言われている。

 西地区の市場は肉や果実の店が多いのも、その先に高原や山に通じているからだろう。


 そこから北門に向かって歩いていくと、徐々にお店が減ってくる。代わりに増えてくるのが、騎士団や傭兵団の施設だ。

 北は魔王領のある方角だから、警備も厚くなるよね。通行人も騎士やお役人さんが多いから、ちょっと緊張するわ。


 北門を抜けて東門に向かうと、またお店が増えてくる。東は海のある方角なので、魚貝類や加工品の店が多い。

 魚介商会の鮮度へのこだわりは強く、漁港からヨールティまでの街道を自費で整備しているとか。平地のド真ん中で生の魚が食べられるなんて、ヨールティぐらいじゃないかしら?


 南の広場に着く頃には、日が傾き空を赤く染めていた。ヨールティをほぼ一周した私の両腕には、大量の荷物がぶら下がっていた。


「テルテ、すごいたくさん買ったね」

「お店見てたら、色々欲しくなっちゃって……つい……そろそろ入れられるかな」


 ようやく日が落ちてきたので、影の中に荷物をしまった。やっとこの重さから解放される。

 そんな私とは対照的に、アイシャは何かを買った様子はなかった。それどころか、お店ではしゃぐこともなかったな……。


「アイシャは必要なものとか欲しいもの、なかったの?」

「え?……うん。特に思いつかないかな。生活に必要なものは、部屋にあったし」

「そう……」


 私なんか部屋にソファも欲しいとか思ってるのに、アイシャは不便に感じてないのかな。

まぁ本人がそれでいいなら、いいのだけど……。


「それじゃ、最後にギルドに寄って帰りましょうか」

「うん!私、もうお腹空いてきちゃってるんだよね」

「ふふ、じゃあ急がないとね」


 本日最後の仕事を終えるために、私たちは冒険者ギルドへ向かったのだった。

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