妻が亡くなった。歩けなくなった。
風戸輝斗
プロローグ
side0-0 いつかの記憶
「目を覚まして、登校して、眠りについて。
決められた曜日に、決められた授業をこなして。
いつもと同じ時間に、いつもと同じ帰り道をたどって帰る。
そんな繰り返しの毎日のなかで、やりたいことなんて見つけられるはずがないよ」
「そう? わたしは毎日、違う今日だと思うけどなー」
「たとえばなにが違うの?」
「うーん。……天気とか、交通量とか! あとは花の香りとかひとの情緒なんかも、日によって全然違うよ。挙げだしたらキリがないなー」
「なるほど。君の見ている世界は、僕の見ている世界よりもはるかに広いみたいだ」
「そんなことないよ。
この青くて丸い地球にいる限り、見えてる世界はみ~んな同じだよ」
「……なんでなんだろうね」
「ん?」
「どうして僕なんかがのうのうと生きられて、君みたいに明るくて感受性豊かな子が不治の病に侵されてるんだろうね。絶対、君の方が将来必要とされるのに」
「文句言っても仕方ないよ。そういう宿命だったんじゃない? 知らんけどさ。
あ~あ、神様も酷いよ。こんなうら若き乙女に過酷な運命を強いるだなんてさー」
「君はすごいよ。降りかかった不幸を笑い話にするなんて、僕にはできないよ。
……ほんと、進路なんてちっぽけな選択ですら苦痛に感じてる僕とは大違いだ」
「うわ、悲観的~。ま、負の循環は際限なく続くからさ。
いつでも前向きでいることが人生を楽しむコツだよ。
ほら、今のわたし、大病に罹ってるのに君より楽しそうでしょ?」
「ごもっともで」
「むー、歯応えがないなぁ。そこはそんなことないって、食ってかかってほしかったんだけどなぁ。……やりたいこと、ほんとうにないの?」
「うん。誰かと関わることを避けて、なんとなくの日常を満喫してたツケが回ってきたみたいだ。同級生とこんなに話し込むなんて、人生ではじめての経験だよ」
「お、脈ありかなっ?」
「からかってるってバレバレだよ。顔がにやけてる」
「いやいや、大マジだって。
わたしの秘密を知ってるのは、このひろ~い世界のなかで、わたしの家族と君だけなんだよ?」
「え、先生も知らないの?」
「こらこら、揚げ足を取るような陰湿な子はモテないぞ?
そこは、どうして僕に? って首を傾げるところだよ。わかったら返事」
「どうして僕に?」
「……はぁ。拗けてるんだか、素直なんだか……ま、なんでもいいや。
君を選んだことに特別な理由はないよ。ただ偶然、誰かに秘密を告白したいなぁって思ってたら、君がこの場所にやってきただけ」
「それで、その話のどこに運命的な要素があるの?」
「偶然って、捉え方次第では運命的な出逢いって言える気がしない?」
「そうかもしれないけど……僕だよ? 君とは真反対の根暗な僕だよ?」
「ほ~んと、さっきから自分を卑下してばっか。
もっと自分を褒めないと、おかあさん、そろそろ本気で怒っちゃうんだからね」
「いつから君は僕のお母さんになったんだよ。
……特技がない。夢がない。こんな人間のどこを褒めろっていうのさ」
「いいや、君はこんな人間なんかじゃないよ。
何故なら今この瞬間をもって、わたしのなかで特別な誰かに昇格したからです!」
「……つまりどういうこと?」
「
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