4話:あそびはぜんりょくで

イヴォンの突風によって吹き飛ばされるところを救ったリナの土壁。

しかしその土壁から6本の水色の腕が伸びてきて、アルゥを土壁に拘束してしまう。


「へへへぇこの土壁はアルゥのじゃないから私でも水になって浸透出来るのー」


しまった、と状況を鑑みてリナは思った。

アルゥであれば水の精霊が潜れない土を造り出せるが、自分にはそんな技能はない。パートナーを助けるつもりが、むしろ追い込む結果になってしまった。


「いいざまねアルゥ」


アルゥを嘲笑したイヴォンは右手で握りこぶしを作り、そっと口につけると吹き矢のように息を吹いた。

ズドンッという大音量がアルゥの顔の右横で鳴った。

恐る恐る目線を右側へ向けて見ると、リナによって造られた土壁に大きな穴が空いていた。


「忘れたと言わせないわよ。私は本気を出せば岩にすら穴を空けれるのだから。さぁアルゥ降参なさい!」


「敗北宣言しないと綺麗なお顔に穴が空いちゃうよー」


容赦ないイヴォンとエクリルの脅迫に、アルゥは絶望からか顔を俯かせた。

そして一言こう呟いた。


「イヴォンは本当に学習しないねぇ...」


バリッと口の中の飴を嚙み砕いたアルゥが、イヴォンを睨みつける。とつらら形状の石が空から降ってきて、イヴォンの脳天に直撃した。

イヴォンは一言も発さずにその場に崩れ落ちた。

と次の瞬間、アルゥを拘束していた6つの水色の腕が膨張していき、アルゥを飲み込んだ。

息ができない!外に出ようと水を掻いても、水の精霊エクリルによる水流操作によりままならない。


「アルゥ―ッ!」


アルゥを飲み込んだ水の塊に1人の少女が飛び込んでくる。魔導士リナ・アーリンだ。

エクリルは"飛んで火に入る夏の虫"だなと心の中で呟く。

しかしリナ自身、考えなしに精霊の操作する水の中に飛び込んできたわけではない。

リナは水の塊の中に入るなり、アルゥの華奢な身体を抱き寄せると、戦闘前に貰った飴をアルゥの口に入れた。


「んー♪リナちゃん最高だよ」


水中の為、声は聞こえなかったがリナには確かにアルゥがそう言ったように思えた。

そして水の塊が崩壊する。突如地面から現れた天を貫かんとする勢いで出てきた土の槍によって。

その槍によってリナが造り出した土壁――そしてエクリルが潜り込んでいた土壁――が打ち砕かれたのだ。


潜る土が無くなり、水を操作できる状態ではなくなったエクリルは、水の姿から少女に変身して現れた。

それに対しアルゥは容赦なくかかと落としを決める。


「ちょっと待って――」


エクリルの叫びは届かず、アルゥのかかと落としがきれいに決まった。

イヴォンとエクリルの両者が気絶している為、この勝負はリナとアルゥの勝利で幕を閉じた。



 *



「ところでアルゥ様はまだ飴を食べないと、能力が使えないのですか?」


闘技場からの帰り道、アルゥはイヴォンをリナはエクリルを背負いながら帰路についていた。

戦闘終了からしばらく待ったがイヴォンもエクリルも一向に目を覚ます気配がなかったからだ。


「そうだねモチベーション?が湧かないみたいな」


アルゥの回答に半ば呆れかけるリナ。危うく溺死するところだったのに、モチベーションが湧かないから脱出できないとはこれ如何に。


冷静になって先ほどの戦闘を振り返ってみると、精霊たちの容赦の無さがよくわかる。

精霊たちからすれば戦闘も一種の遊びであり、死ぬことのない――死んでも蘇る――精霊たちは限度というものを知らない。

改めて精霊の恐ろしさを知ったリナ・アーリンであった。

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