2話:ひのせいれいをすくえ
アトリア宗教国の路地裏で三人の少女が密談を交わしていた。そもそも路地裏の為、誰かに聞かれる心配もないのだが、少女たちは小声で話し合っていた。
「それでアルゥ、火の精霊クレルトは見つけたの?」
「うん、クトトリア広場にいる」
「やっぱり!そよ風たちの話は嘘じゃなかったわ」
「となると雨たちの話もホントだったのねー」
イヴォンはガッツポーズをとり、エクリルは空を見上げながら呟いた。もともとアトリア宗教国に滞在していたアルゥとは違い、イヴォンとエクリルはそれぞれ独自のルートを使い情報を集め、火の精霊クレルトを追っていた。
「ところでアルゥ、1つ聞いてもいいかしら?」
「んーなにー?」
イヴォンがニッコリと笑顔でアルゥに問いかける。それにアルゥもニッコリと顔を傾ける。
「な・ん・で・火の精霊を見つけたとき、私たちに連絡しなかったわけ?」
「あー...めんど...じゃなくて、いひゃいひゃいひゃごめんなひゃい」
当然のイヴォンの質問に怠慢を示したアルゥは頬を捻られていた。そんな光景を見ながらエクリルは寒くなって来たし、日向ぼっこしようかなと汗と水で濡れた白いワンピース姿のまま悩んでいた。
*
「あいつが例の笛吹き男ね」
「ファッションセンスが壊滅的・・・」
「えー?かっこよくない?」
路地裏での密談を終えた3人はアルゥの案内で、クトトリア広場を訪れていた。そこには3人の目的である火の精霊クレルトを誘拐した犯人、白いスナップ・ブリムを目深に被り、朱色のトレンチコートで身を隠した笛吹き男が演奏を披露していた。
少女姿の精霊3人は誘拐犯の壊滅的なファッションセンスに対する感想を各々口にし、クトトリア広場の近くにある家の物陰に隠れた。3人の目的は言わずもがな火の精霊クレルトの救出である。
「パッと見た感じ、ただの人間ぽいから3人で襲えば楽勝ね!」
「そうねー魔法を使えない奴が相手なら、あまり大事にせず対処できるかもー」
楽観的な意見を述べるイヴォンとエクリル。しかし2人とは対照的にアルゥは懸念を抱いていた。何故なら自分たち3人がこっそり物陰から笛吹き男のことを覗いた瞬間、目が合ったのだ。笛吹き男の前には大勢の人が行き来していたのにも関わらず、男はまっすぐにこちらに目線を向けていた。まるで最初からいることは分かっているぞ、と言わんばかりに。
アルゥがその懸念を口にしようとした時、イヴォンとエクリルは既に広場に向かって歩を進めていた。そしてアルゥが付いてきていないことに気づくと、イヴォンが「はやくー」と手を振りせかしてくる。
アルゥは取り敢えず"当たって砕けろ"の精神で、2人の案に――精霊魔法による笛吹き男奇襲作戦――参加することにした。
*
――数分後、そこにはクトトリア広場で目を回す3人の少女の姿があった。
「あーもう、誰よあのファッションセンス壊滅男が魔法使えないって決めつけた奴は!」
「それはイヴォンとエクリルじゃ、ぐふっ」
イヴォンの問いにアルゥが答えると、黙れと言わんばかりにイヴォンとエクリルから拳が飛んでくる。
「取り敢えず作戦はちゃんと立てないとだめ―かもー?」
エクリルの言葉にイヴォンとアルゥが頷く。
冷静に考えれば当たり前だ。ただの人間が火の精霊を誘拐できるわけない。この世界で魔法を使える人間は少ない。その知識が今回の早とちりに繋がったのだろう。
取り敢えず作戦会議をと、3人はクトトリア広場の美しい彫刻が刻まれた大理石の地面に腰を下ろした。すると一人の女性が近づいてきた。
「こら貴女たち、こんなところに座ったら通行の邪魔でしょ」
イヴォンとエクリルは声の主のことなど無視して、作戦会議を始める。人間は魔法を使えない為、魔法を使える精霊は基本的に人間をなめている傾向がある。しかし掛けられた声にどこか聞き覚えがあったアルゥだけは、例外として声の主の方へ顔を向けた。
「リナちゃん?」
「・・・えっ?アルゥ様?」
アルゥの反応が気になったイヴォンとエクリルが、自分たちを注意してきた女性の方に顔を向ける。そこには腰まで伸ばした飴色の髪と赤いローブが特徴的な、幼い顔つきの女性が立っていた。
「彼女、魔導士ね。それも土属性の力を授かってる」
イヴォンの呟きにエクリルはこくりと頷き、事情を知っていそうなアルゥへと目線を向けた。しかし魔導士の女性、リナの誘いによってアルゥの事情説明は一先ず後回しになるのだった。
「3人ともこんなところにいたら通行の邪魔だし、私の家に来ない?」
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