song of frontline

亜未田久志

第1話 音楽塔


 戦争は終わった。

 異能力者戦争ミュータントウォーから数週間後、日陰百合亜ひかげゆりあは日本に帰って来た。

 目的はただ一つ、幼馴染の日向奏ひゅうがかなでに会いに来たのだ。

 重力を操る百合亜はビルの屋上から屋上へと飛び移って目的地を目指す。

 そこは音楽塔ミュージックタワー

 日本の新たなランドマークだった。

 東京タワーがへし折られ十年。

 本来、異能力者の百合亜と、一般人の奏が出会うのはご法度のはずだった。

 その禁を破ってでも会いに来た。

 いや彼女の歌を聴きに来た。

 チケットが届いたから。

 それは奏からの招待状だった。

 それだけが百合亜の生きる意味だったし。

 戦う意義だった。

 無事に生き残って帰還した彼女はこうして今、音楽塔へと向かっている。

 ライブまであと三十分。

「間に合え……っ!」

 思いっきり飛び上がった重力を細かく制御して空中を滑空する。気分はスーパーヒーローだ。

 その時だった。

 ポシュッという間抜けな発砲音が聞こえたのは。

 ロケットランチャー。明確に百合亜を狙ってきた一撃。路地裏からそれは飛んで来た。

 爆発する前に弾は軌道を変えられ落ちていく。地上で爆発が起こる。パニックになる地上を後目に会場へと向かおうとして。

「む……厄介なのを引き連れていくのはマズいか」

 そう考えて踵を返す。

 ロケットランチャーの射手の下へと舞い降りる。

「あんたが主犯?」

 そいつはハンドガンを向けて来た。躊躇なく発砲。

 百合亜は銃弾を眼前で止める。

「異能力者め!」

「そうだよ、だから何?」

「お前らは今日駆逐されるんだよ! 歌姫のレクイエムでな!」

「歌姫……? レクイエム……? 何を言って……」

 すると男はこめかみに拳銃を当てて発砲、自決した。

「チッ! 命を大事にしないヤツはこれだから!」

 何人も殺して来たヤツがそれを言う。

 そんな矛盾を抱えながら、妙な不安を抱きながら。

 音楽塔へ再び向かう。

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