02
叫んだ者に続いて誰も彼もが駆け出した。
現れた装甲車は、逃げ出してく者たちへと標準を合わせて機銃を発砲。
廃墟の町並みに血が飛び散り、メロディと共にオートマティックとの戦いで生き残った人間たちが死体へと変わっていく。
「アームド·ホイールって……。賞金首のオートマティックがなんでこんなとこに……?」
タキジが思わず呟いた。
アームド·ホイールとは、懸賞金がかけられた装甲車である。
まだ世界が崩壊する前に、各国が協力して生み出したシステム――ゾロアスター·システムによって、賞金首に認定された凶暴なオートマティックの一体であり、政府でもネオリベラでもうかつに手を出せない全人類の敵だ。
ゾロアスター·システムは、崩壊後も善悪について常に自動処理で更新を続けており、賞金首を選び、さらに始末した者には報酬として仮想通貨――この世界の通貨であるフリーを与えている。
このゾロアスター·システムは、機械襲来後に開発したコンピューターというのもあって、セキュリティ対策をしているためオートマティック化はしない。
そのシステムは世界各地に残っており、ゾロアスター·システムがある場所には人が集まって町ができていることが多く、ネオリベラに捕まらない強者は賞金首を狩って生きるハンターとなる。
当然ハンターでもないメロディやタキジでは、ゾロアスター·システムによって賞金首にされたオートマティックに敵うはずもない。
単純に考えても、鉄パイプや金属バットで装甲車を破壊することなど不可能である。
「考えてもしょうがない。早く逃げるよ、メロディ!」
タキジは、その場で立ち尽くしてしまっていたメロディの手を取って走り出した。
アームド·ホイールは、今もまだ先に逃げ出した人間たちを狙っている。
その間にどこかへ隠れるのだと駆け出す。
当然子供の足で装甲車の機銃から逃れられるはずもなく、タキジは背中から撃たれてバタリと倒れた。
「タキジ!? タキジィィィッ!」
メロディは血塗れになったタキジに駆け寄って声を張り上げたが、優しくしてくれた少年の目は虚空を眺めているだけだった。
「うそ……。なんで、なんでよぉ……」
両目から流れる涙が、死体となったタキジの顔にポタポタと垂れる。
こんな人を人と思わない世界で、彼はメロディに優しかった。
歳が近いというのもあったのだろう。
メロディがネオリベラの人狩りで連れて来られてから、タキジはずっと彼女のことを気にかけていた。
だが、そんな優しかった少年はもういない。
メロディたちがいるウィノウのコミュニティでは、タキジだけが他人を気遣える人間だった。
頼れる大人などこの世界には存在しない。
他人を利用しようとする人間か、少女と同じ弱者しかいない。
誰もが自分のことしか考えていない。
崩壊後の世界で力を持ったネオリベラが常識とした能力主義――弱肉強食の世界では、非力、無力、能無しは死ぬ場所すら自分で選べないのだ。
タキジの亡骸を抱いて俯いているメロディに、装甲車のオートマティック――賞金首であるアームド·ホイールがゆっくりと近づいて来る。
彼女の肩ではケダマが「早く逃げなきゃ」と言わんばかりに鳴いている。
メロディはタキジを地面にそっと寝かすと、側に転がっていた鉄パイプを拾って立ち上がった。
そして流れる涙を拭うことなく、向かって来るアームド·ホイールを睨みつける。
「タキジ……タキジだけだったのに……」
声を発すると、アームド·ホイールが機銃の標準をメロディへと合わす。
それでも少女は怯まない。
まるで貯水量が限界を超えたダムのように、これまで堪えてきた感情を爆発させる。
「ぶっ壊してやる! お前もこんな世界をつくった奴らもぜんぶ、ぜんぶぅぅぅッ!」
叫んだメロディは、無謀にも鉄パイプ一本で装甲車へと飛びかかった。
タキジの死が恐怖を忘れさせ、彼女を怒りに染めていた。
トリガーが引かれてしまった弾丸は、もう後には戻れない。
メロディの肩ではケダマが鳴き続けているが、その声も聞こえてはいない。
「うおぉぉぉッ!」
しかし、彼女の怒りは機械には届かない。
振り上げた鉄パイプをぶつける前に機銃で撃たれ、その場に屈する。
運良く即死はまぬがれたものの、もう向かっていけるほどの力も残っていない。
「くッ!? このまま死ぬの……? ヤダ、ヤダよぉ……。わけもわからないうちに奴隷にされて機械に殺されるなんて……」
メロディは、今頃になって死の恐怖を感じていた。
痛みが意識を覚醒させ、冷静さを取り戻した彼女は、恐ろしさでガタガタと震えが止まらなくなる。
アームド·ホイールが機銃の標準を直し、再び少女に銃口を向ける。
もう足も動かない。
「あたし……まだなにもしてないのにぃぃぃッ!」
メロディの悲痛な叫びが、周囲にあった半壊している町の建物に響き渡った。
それでも傍にいるのは毛の塊のようなチンチラと、後は死体となった者たちだけだ。
言葉など返ってこなかったが、静まり返った廃墟の町から、ブーツのコツンコツンという足音が聞こえてきた。
するとアームド·ホイールは、目の前にいたメロディを無視して、その足音のするほうへと機銃を動かし始める。
「ずいぶん無鉄砲な娘だな。賞金首を相手に武器もなしで」
メロディが足音のするほうを見ると、そこにはホワイトメッシュの入った黒髪の女性が立っていた。
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