おいてかないでッ!勇者殿!! ~聖なる刀は爆炎少女を今日も追う
鳴海なのか
第1話「犬も歩けば棒に当たる」
青空も空気も澄み渡る、のどかな片田舎の昼下がり。
「天候ヨシ、気温ヨシ、湿度ヨシ、酸素濃度ヨシ、人の気配は……ナシっ」
手早く指差し確認を終え、小柄な少女がにんまり笑った。
使い込まれたヘルメット&ゴーグル。
実用性極振りなツナギ。
グリップ抜群の革製グローブ。
編み上げ式の古いブーツ。
全身防備も万端。
ワクワクを
「…………
――ドガァアアァァアァンッ
渾身の勢いでハンドルが押し込まれた瞬間。
爆炎とともに
少女は、ただただ呆気にとられていた。
もうもう立ち込める煙が静かに消える。
現れたのは、ぽっかりえぐれた
遅れること数秒。
少女は飛び上がって喜んだ。
「やった~実験成功だっ♪」
ツナギを上だけ脱ぎ、「ふぅ」と軽く涼んでから、邪魔な袖はザックリ腰に結ぶ。
散らばる装置は魔法で雑に圧縮しポイポイ収納。替わりに取り出した
*
すぐに爆発跡地に到着。
ヘルメットを外し、ゴーグルを上げて観察開始。
「あっちもこっちも焼け野原。生えてた木も、住みついてた魔物も消滅したねぇ……うんうん。想定以上に炎上しまくり、いい感じっ♪ ……おや?」
岩だらけの茶色い荒地を飛び回り、メモを取っていた少女は、
地面にささる短い棒。
形状は地味だが、どう見たって人造物。
「……へぇ。さっきの
キュッと手袋を引っ張り直す。
棒の端を両手で掴み、力の限りに引き抜い――
――しゅぽん
「きゃッ?!」
ワインのゆるゆるコルクを抜いたぐらい間抜けな音。
勢い余った少女が尻餅をつく。
「あいたたァ……って、何これ?」
上半身を起こす彼女の右手には、1m程の棒状アイテム。
やや弧を描く形状。手元側だけ布が巻かれ、端から30cm弱には丸い金属板。残りは赤く塗られている。つまりは
興味深げにガチャガチャいじくり回したところで、
「バールじゃないな? ……ちぇっ、ソードかよ」
布が巻かれた部分は
赤い部分は筒状の
中に仕込まれた細い
「しかも
少女が剣を投げ捨てようとした、まさにその時。
「
響き渡るは
「……ソードが喋った?」
「拙者“
「ニホントーって何?」
「知らぬのかァ……」
刀はちょっぴり肩を落とす。
「日本刀は、遥か遠き島国の刀剣での。最たる特徴は『折れず、曲がらず、よく切れる』でござる」
「そういう君、曲がってるけど?」
「こりゃ元からよッ。この
「ていうか武器って普通喋んないよね。何で君は喋れるのさ?」
「良くぞ聞き申した! 何を隠そう拙者、
「神話級? 何それ?」
「なッ! それも知らぬ、だとォ……」
地面に倒れ込む刀。
明らかに先の何倍もショックなようだ。
「……まぁ良い、教えてしんぜよう。並の武具では自ら動き喋るなぞ叶わぬが、道を究めし
「へぇ。道って究めるとそんなコトできるんだ」
静かに興味を示しつつ少女は質問を続ける。
「君の使命って?」
「選ばれし勇者殿と共に、この世を破滅へ導く悪しき者……即ち魔王および配下の魔物共を倒し、天下泰平を実現致すことでござる」
「うわぁ~大変だねぇ」
「という訳にて本日より宜しくお願い致す、
「勇者? どこにいるの?」
「またまたァ~冗談きついでござるよ勇者殿ッ。
「……は?」
ぽかんと固まる少女。
一方、刀はウキウキ話を進める。
「いやはや勇者殿をお待ち申して早100年。ようやくこの時が参ったと思うと感慨深いでござるなァ~~。して、勇者殿の名は?」
「アッシェ・フリーエンだけど……ってか何であたしが勇者なわけ?」
「貴殿は拙者を抜いたであろう。古来より『聖刀を抜きし者こそ勇者』と――」
「あ~そういうのパス。他あたって」
「なッ……」
今度は刀が固まり、打って変わって慌て出す。
「……な、な、何を言うか勇者殿ッ⁉ そもそも勇者とは限られた者しか賜れぬ栄誉ある称号で――」
「やだよぉめんどい。それにあたし他にやりたい事あるし」
「そッ、それは天下泰平より大事でござるかッ⁉」
「当然っ♪ 少なくともあたしには“
自信ありげに少女が胸を張った。
「あいや待たれよ。爆炎道とは?」
「えっとぉ、
「詳しくはござらんが……炎由来の魔法を発動する装置の総称、よな?」
「正解っ。
とアイテムを並べ始める少女。
「……まずは
続いて取り出したのは、小型の球体と、T字ハンドル付きの箱。
「んで“爆炎道”は、この
「ほう、具体的には何を致すのだ?」
「人にもよるけど、あたしは1回1回の実験を大事に、ちゃんとデータ取って分析とかするタイプだよ。
「さすれば先の爆発も貴殿が?」
「そー! さっきのは自信作でさ~」
「確かに物凄い炎でござった」
「でしょでしょ♪」
「霊峰に加え、巣食いし魔物共をも一撃とは……あの凄まじき破壊力なれば魔王軍と渡り合えるでござる。やはり貴殿は勇者にふさわしき力を持つ逸材よ!」
気持ちよく語っていたはずの少女が真顔に戻った。
「はァ? 勇者なんかやんないって言ってんじゃん」
「貴殿に拒否権はござらんよ」
「だからあたしは爆炎道で忙しいんだって!」
「勇者業も爆炎道も共に究めれば良い」
「ムリムリッ!」
「無理ではござらん。拙者が勇者殿を導くゆえ、大船に乗りしつもりで――」
「
いらついた少女が、ぴしゃりと遮る。
無言で
刀は安堵した。
だが結果として刀を旅路へ同行させた。
しかも
魔物を一掃する破壊力を見るに、選ばれるべくして選ばれた存在だろう。
跳ねるように疾走する
*
――チャリーン
「はいよ、銅貨2枚だ」
「さんきゅ~おやっさん」
ムキムキ筋肉な大男が小銭を差し出す。
受け取った少女は表裏を軽く確認してから、ひょいっと鞄に投げ込んだ。
訪れたのは近隣の街の武器専門店。
店に入るなり、手持ち品の売却を依頼したのだ。
その傍らで刀は興奮していた。
100年ぶりに訪れた街では、目にする全てが新鮮。
武器屋では、端から端まで所狭しと武器が並ぶ光景に心奪われる。
「じゃよろしくね~」
足早に店から去る少女。
刀も後を追おうとするが――
「行かせねェよ!」
ガシッと刀を掴む大男。
「何をするッ。拙者は勇者殿と旅する身、貴殿に構う暇など――」
「いんや、お
「はッ……ま、まさか貴殿は魔王の手の者かッ⁉」
「
「ならば何故――」
「お
ようやく
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