見ない方がいい都市伝説

@mia

第1話

 まず最初に、二十歳になっていない方はお引き取り願います。ここから先の内容が内容ですので。

 二十歳以上の方も、お引き取りになった方がいいかもしれません。

「お願い」ですので、どうするのかは自由です。「自己責任」というヤツですね。



★             ★            ★         ★




 有名な都市伝説の中のひとつに二十歳までに覚えていると死ぬと言われる呪いの言葉「紫の○」がある。

「○の鏡」には「病気の女性が鏡を紫に塗ったが後悔して落とそうとしたが落ちずに、二十歳前になくなった」「棺に納められた紫の手鏡を悪く言った女性が成人式の日に行方不明になった」などの話がある。


 しかし、この都市伝説の怖いところは「紫の鏡」を覚えていることじゃない。「紫の鏡」の呪いを解除する言葉がちゃんとある。

「水色の鏡」「白い水晶」などが呪いを解除すると言われている。

 怖いのは「紫の鏡」を調べると、「紫の○」(鏡ではなく別物)「赤い○」「血なんとか」「イ○○○」などが二十歳までに覚えていると呪われる言葉として併記されているが、これらの言葉の呪いを解除する言葉は無い。

 

 呪われっぱなしになってしまう。


 これが「紫の鏡」の本当の怖さではないだろうか。



★             ★            ★         ★



「―――って話を書こうと思ってるんだ」


 仕事の都合で火曜日と木曜日にしか一緒に社員食堂でお昼ご飯を食べられない友人と、日替わり定食のサバの塩焼きを食べながらそんな話をした。

 

「紫や赤など色がついてるのは意味があるのかしら。血も色を連想させるしね。『赤い紙、青い紙』っていうとしでんせつもあるし。全然関係ないのは、『イ○○○』だけだし色+名詞がポイントなのかな」


 熱心に話す友人とは違い私はそういう話に興味がないけれど、楽しそうに話しているのを見ているのは好きだからそれっぽい話をして友人に合わせる。


「でもさ、見ただけで呪われるなんてひどいじゃない。立ち入り禁止の場所に入ったとかお札を破ったとか、何かした人が呪われるのならともかく」


 友人の返事は「理不尽なのが呪いなのよ」という身もふたもないものだった。


「そのうち投稿するから、また読んでね」


 友人のその言葉で別れ仕事に戻ったのが、先週の木曜日だった。


 日曜日、お風呂を出てのんびりしながら友人の投稿ページをチェックすると、昼休みに聞いた話がそれらしい文章になって投稿されていた。

 十八人に読まれたらしい。これが多いのか少ないのかは分からない。

 投稿日は金曜日の夜だった。

 

 火曜日に社員食堂へ行くと友人はいたが様子が変だった。

 疲れた顔をしている。忙しいとは聞いていなかったが、急な仕事でもあったのだろうか。

 友人の前にあるのは、コーヒーだけだった。


「定食、食べないの?」


「うん」


 口数も少なく心配だが、とりあえず自分の定食を買ってくる。今日の日替わり定食はレバニラ炒め。

 隣の席に座り何があったのか聞くと、少し間があって答えた。


「呪われたかも」


 食べる手が止まり、友人を見つめてしまう。

 一言話したら、続けて話始めた。


「金曜日、うとうとしてたら話し声が聞こえたの。両親はとっくに寝ているし、弟は帰ってきてないし、スマホの動画消し忘れでもないし、初めは聞き取れなかったけどだんだんはっきりしてきて、『しねしねしねしねしね』って言っているように聞こえたら、そうとしか聞こえなくなって、寝たかどうかも分からないまま朝になって。土、日も寝ようとすると話し声が聞こえて、うとうとするだけしか眠れないの。さすがに仕事中に寝るわけにいかないから昨日今日とコーヒー飲みすぎで気持ち悪い」


「何で呪われるの? 病院、行った?」

 

 呪われたと信じたわけじゃないが、友人がこんな冗談をするとも思えない。

 中途半端な、はっきりしまい気持ちになる。


「病院は行ってない。行ってもどうしようもないと思う。呪われたのは何か見たのかもしれない。ソレ系のサイトを巡っていたから。どこで何見たのか分かんない」


 そう言って友人はコーヒーを一口飲んだ。

 今日は天気もいいし食堂は照明もついているのに、なんか薄暗く感じた。


「の、呪いを解く呪文は唱えたの」


 とっくにやってみたと思われることを聞いてしまった。

 返事は「やった」の一言だけ。

 そりゃそうだよね。そういう話に興味がない私でも真っ先に浮かんだことだもの。

 

「でも、おかしいよね。二十歳過ぎてるのに、何で呪われなきゃいけないのよ」


 定食を食べるのも忘れて腹を立てている私を見て、友人は少し笑ってからコーヒーを飲み干す。

 先に仕事に戻ると言って席を立った友人の背中は、つかれていた。


 家に帰ってから都市伝説のサイトを巡ったが、ピンとくる記事はなかったし、寝るときに声も聞こえなかった。

 

 翌日、気になっていたのでメールしたが返事はなかった。


 木曜日、友人は社員食堂に来なかった。

 友人の所属する課へ行ったら、休みだと言われた。ここだけの話として聞いたら、昨日は家に帰っていないらしかった。

 それを聞いてすぐに電話したが、つながらなかった。その後、何回掛けてもつながらなかった。

 

 家族から失踪届が出されたと聞いた。


 数日後、ふと思い立って友人の投稿ページを見た。

 背景はいつも白だったのに……。

 おどろおどろしく見せるために黒にしたらいいのにと以前言ったが、めんどくさいと断られたことがあった。

 

 これは友人の投稿じゃない。


 友人は本当に呪われたんだ。

 次はこれを見た私なのか。

 自殺は自分を殺すこと。


 黒い背景のページに一言。


               


             『青い   ろ そく』    





Aoi Ro SoKu

 


 


 

 


 


    








 



 


 




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