　高杉と沢ちゃんも言ってたけど、俺はパンチさんに気に入られてるのかな？　何かパンチさんとやたら仲良くなって２人でよく遊ぶようになってた。パンチさんはプータローで日雇いの仕事とかして金が入るとパチ屋に向かい、金をむしり取られると釣りをするっていう生活をしてる人で、パンチさんに「今、何やってんですか？」って聞いて「釣りしてる」って言ってきたら金が無い状態だし「パチンコやってる」って言ってたら金がまだ残ってるんだって分かった。ほんでしょっちゅう釣りばっかりしてる。パンチさんには博才が無い。

　俺はスロットもパチンコも好きだしやってたけど、釣りにはあんまり興味が無くてやってなかったんだけどパンチさんが釣り好きだったから、よくくっついて回ってた。この人が好きなものなら、自分も興味を持つかもしれないって軽い気持ちでつるんでたんだけど結構いい経験ができたんだよね。

　パンチさんは他の人と同様、ギャンブルをやっちゃいけない人だったけど釣りバカの才能はある人で、何かに夢中になっててそのことに精通してる人の話っていうのは何を聞いても面白い。

　海釣りも行ったし、バス釣りもやった。竿とかルアーみたいな釣り道具は全部パンチさんから借りてやらせてくれて、ほんで、海釣りならここ、バス釣りならここって場所も決まってて、そういう場所を何か所も知ってた。

　ホントよくこんな場所見つけましたねっていう場所ばっかりで、中にはここには入っちゃいけませんって看板が立てられてる場所もあったし、よくニュースとかで立ち入り禁止エリアで釣りして叩かれてるの見てたけど、パンチさんみたいな人達だったんだって納得したもんね。

　ほんでパンチさんに色々と興味深いことを聞いたんだけど、釣りっていうのは、ただ闇雲に竿を投げて魚を釣るものじゃなくて、魚の生態を知り尽くして釣るから面白いって言ってた。

　魚もそうだし、自然や魚の餌となる生物のことにも詳しくなくちゃいけなくて、水面下の状況を予測して、魚が今どこにいるかを予想する。そして、ここに魚がいるだろうってポイントに正確に餌を落とせる技術が無いと狙って魚は釣れないらしい。

　何回か予想したポイントに餌を落として、ダメだったら次のポイントへ、トライ＆エラーを繰り返していく。いい釣り人ほど、そこに魚がいるかいないかの見極めが早くて、何回か竿を投げてみてダメだって分かったらすぐ場所を移すらしい。

　適当に竿を投げて魚を釣るのも楽しいけど、俺はそういうのじゃなくて予想して魚を釣る釣りが好きなんだってパンチさんは言ってた。たまたま釣れたんじゃなくて実力で釣ったって言いたいんだって。

　道具についても色々とうんちくがあって、魚の形をしたルアーは１個1,000円から1,500円くらいするのに対して、ゴムで虫を模したルアーみたいなのもあるんだけど、それは500円くらいで５～６個セットで売ってる。最初、魚の形をしたルアーの方がよく釣れるんだと思ってたんだけどパンチさんいわく、どっちも状況に合わせて使い分ければ同じくらい釣れるらしい。

「じゃあ、ルアーは高いから安く何個も売ってるゴムの使えばよくないっすか？」って聞いたんだけど、それは何となく嫌なんだって。

　竿だって、１万円の竿と15万円の竿で15倍の性能の違いがあるわけじゃなくて、単純に釣りがしたいだけなら１万円の竿でも十分らしいし、それも釣りバカはみんな分かってるんだけどみんな高い最新式の竿がやっぱり欲しいんだって。

　ここからは俺の推測だけど、竿もルアーも全部そうだけど釣り仲間から見れば、金かけてるかどうかなんて、道具一式を見れば一発で分かるから、釣り仲間から金かけてないのがバレるのが嫌なんじゃないかな。釣りバカ達は見る目のある他の釣りバカ達に、俺はこんなに釣りを愛してるんだぞって言いたがってるのかも。世の中ってホントよくできてる。

　他にもルアーを何種類も持ってるのは、雨が降ってる時にはこのルアー。夏の暑い日に釣るにはこのルアーって状況によってそれ専門のルアーがあるらしい。単純にコレクター心がうずいてってわけでもないってパンチさんは言ってた。その割には似たようなルアーを何個も持ってたしホントにお気に入りのルアーはめったに使わないし、コレクターになっちゃってる部分も絶対にあるっぽいけど。

　俺はパンチさんに何回も釣りに連れてってもらったけど、結局釣りには興味が持てなくて、そういう釣りバカ達の心理みたいなのばっかりに目が行っちゃってドハマりはしなかったかな。やっぱり釣りバカっていうくらいだし、空手バカ一代と一緒でバカを付けるくらいに突き詰めてる人種ってヤバいんだよね。

　朝間詰（あさまづ）めっつって朝の方が魚が活発に動く時間帯があるんだけどその方が釣れるからってわざわざ午前３時とかに起きる気になれなかったし、バチ抜けっつって大潮の時に魚の餌になるバチが産卵のために大量発生するタイミングがあって、それに合わせて釣りに出かけたりする行動力が俺には無かった。有名な釣り場スポットに何時間もかけて行って釣れない時にめげないでいられる忍耐力っていうのか根気っていうのかそういうのだってもちろん無い。

　だから最初はきっと釣りバカ達っていうのは釣りが好きだから自然と釣りの勉強もできるし、釣れなくても好きなことをやってるから楽しめるんだって思ったんだけど違うみたいで、俺が釣りにそんなにハマってないのに気付いたパンチさんに「あんま面白くないか？」って聞かれて「釣れない時って面白くないんすよね」って言ったら「そりゃ釣れなかったら俺だってつまんねえよ」って。

　それ聞いて、じゃあ何でやってんのって思ったんだけど、釣りバカ達と俺の違いは、釣った瞬間の喜びをより多く知ってるかどうかなのかもなって。

　努力して苦労して釣ることに喜びや楽しさを見いだせるほど好きじゃないと釣りバカなんてコスパの悪い生き方できないのかも。

　まあ、パンチさんは釣りのことに対して散々能書き垂れて俺よりも釣れない時もあったけど、その時も俺が釣れたことを素直に喜んでくれてた。