Ⅴ‐2

 パンチさんとの初打ち麻雀が終わって、パンチさんだけは仕事があるからって先に帰ったものの、俺と沢ちゃんと高杉は今日の麻雀とパンチさんについてあれこれ喋った。まあ、主にパンチさんの異常な麻雀の弱さと見た目のいかつさについてだけど。


「言っとくけど、パンチさん、エグいくらい喧嘩強いよ」

「えっ、だってお前ら、パンチさんがかわいそうになるくらいカモにしまくってたじゃん」

「そりゃ勝負だから。っていうか、お前が調子に乗りまくっていつぶっ飛ばされるのかなって楽しみにしてたんだけどな。お前、結構気に入られてるっぽいよ」

「だよね、秀ちゃんはパンチさんに気に入られてるよね」

「そうなの?」

「パンチさん、見た目あんなだけど優しいじゃん? で、中学の時は金髪じゃなかったし、あだ名もチン毛頭とか呼ばれてバカにされててさ。そのバカにしてるやつらの1人が、当時のうちの中学で一番威張ってた先輩で、何かっていやぁ、バカにしてたんだけど、パンチさんがついに爆発した時があって…」

「あっ、眉間の傷はその時の?」

「いや、あれは小学校の時に、ジャングルジムから落っこちた時の傷らしい」

「ややこしい!」

「まあな。そんでブチギレた時に、その場にいた8人全員ワンパンだったらしいよ」

「えっ、パンチさんのパンチってパンチパーマじゃなくてパンチ力の方なの? お前、天然パーマだから、そう呼ばれてるだけって言ってたじゃん」

「初めからパンチ力の方だよ。お前がうるさいから嘘ついてただけ。あと、ややこしいで言うならパンチさんの名字が佐藤なのもなんだけどな」

「パンチにまつわるかぶり方エグくない?」

「俺に言うなよ」

「へえ~、そうなんだ。意外。いや意外でもないか、見た目通りじゃん」

「やーさんではねぇだろ」

「そこはね。優しそうに見えるけど、キレたらヤバいって印象はブレてないから。でも、あの見た目で喧嘩も強いのに何で有名になってないの? 俺、知らなかったよ」

「十分有名だから。っていうかお前の情報網が弱いの」

「知らんよ。別に男のことなんか興味無いもん」

「ちなみに、北総中じゃ、秀ちゃんと他の2人も有名だったよ」

「あ~、ヨッチとバンブー?」

「そう。2人は北高きたこう高美台たかみだい行ってるっしょ?」

「うわっ、キモいんだけど。追っかけ?」

「俺達の中にも北高と高美台行ってるやつくらいいるから。最近は会ってないの?」

「ヨッチと約束したからね」

「何の約束?」

「う~ん、しばらくは俺一人で何かやってみるわみたいな」

「何だよそれ」


 そういえば中学のやつら元気かなぁ? 何も成し遂げなかったくせに卒業の時にすっげぇでかい口叩くだけ叩いたけど色々あり過ぎて言ったことも約束してたことも完全に忘れてたわ。それだけ今を楽しんでんのかな?


 まあ、あいつらのことはあいつらのことで置いといて、パンチさんを麻雀でフルボッコにした色々とスリリングな夜から2日後に、パンチさんとの約束通り実家のサトウモータースで白いおしゃれなカブとやらを見せてもらった。パンチさんの実家の店は結構おっきくて、かなりの台数が店頭に置かれてたんだけど、やっぱり一番気に入ったのはパンチさんお薦めの白いリトルカブだった。


 中古といっても走行距離が1,000キロ未満のほぼ新車。白くてピカピカで確かにおしゃれ。限定カラーだけあって、めったに見かけないし抜群にカワイイ。


 う~む、でも15万かぁ。恥を忍んで正直に話そう。中型免許のお金は親が出してくれるって言うから気にしなくてもよいのだ。それでも保険とか色々入れると25万くらい。毎月のバイト代が平均で7万くらいだから約4か月分だし、手元に14万しかない。


「どうする?」

「毎月4万のローン払いでお願いします」

「はいよ。サトウモータースでのご利用ありがとうございます」


 結局、洗車用にコンパウンド、クリーナー、ブラシ数種類、バイクカバーやら原付のスペアキーを作ったりして予算を大幅にオーバーしたけど気にしない。俺は超絶おしゃれなカブを手に入れたのだ。


 学校休んで合宿で中型免許取りにも行ったし準備は整った。ちょっとスピードの向こう側に行ってくるね。

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