Ⅲ‐9
高校生の年上ってなると1つか2つだけか、教師か親みたいに歳がかなり離れた人が多いけど、バイト先で触れ合う人達ってある程度年が近くて、テンションも似てる年上だったから刺激があって楽しかった。入学式以来、変なやつのレッテルが貼られたままの学校よりも全然。
まあでも学校にはなじめてなくても昼休みの飯とかは高杉とか沢ちゃんと食ってたし、それなりに生活のリズムを作ってたんだけど、いつだったか、クラスの男数人が「お前うざいんだけど」なんていう酷いことを俺に言って絡んできたんだよ。
そいつら日常会話の大半が「昨日どこどこの××さんが何々やった」「それ、ヤバくね?」「だりぃ」で構成されてて、自分が何かやった話は一切出てこないトークを女子の周りで一日中してる。
喧嘩はしないし、走り屋系でもない。何してんのって先輩の小間使いか、真面目なやつに威張るかどっちかしかしてない、本当にしょうもないやつら。一応俺達の学校の同い年の中では何故か顔が売れてて、クラスの中では一番目立つグループなんだけど、俺はこいつらが大嫌いだった。
こんな千葉の片田舎で、族でもねぇのに粋がるんじゃねぇよこの狐野郎がって思ってたし、喧嘩弱そうだったし、不細工だし頭も性格も悪そうだし、ムカつくな、お前らムカつくなっていう俺の気持ちが相手にもしっかり伝わっちゃってた。
お互いに表立った衝突は今まで無かったんだけど水面下でチリチリと火花が
警戒してたっぽいんだけど、いよいよ俺の態度に我慢ができなくなったのか勝算でもあるのかついに喧嘩を売ってきた。何かの拍子に「あいつ喧嘩強いのか?」みたいな話を誰かがし始めて「いや全然大したことねぇだろ、何ならあいつやろうか?」ってたぶんそんな感じで盛り上がって絡んできたんだよね、絶対に。
超うざいでしょ? リーダー格の俺がアゴと呼んでるやつが近寄ってきてさ、見たら「元気ですか~!」とか「っしゃあこの野郎!」って言いたくなるような立派な顎をお持ちで、俺が一番嫌いなやつ。
人のことをバカにしたような目付きやセンスがなくて自己主張の強い香水。狂ったように無駄にでかい笑い声、焼きそばみたいな髪形。全部が全部、俺をイライラさせる。こんなやつに頭下げたりしたら俺はこの先一生ダメな男になりそうだから謝りたくないし謝る理由も無い。けど先輩とか出てきて人数揃えられて囲まれたら間違いなく俺はボッコボコだしどうしようか迷ってたんだけど、俺の右足は半歩下がってつま先に重心を乗せてた。分かってんじゃん。
そうだ、どうせ俺1回はボコられるの決まったようなもんだし、それならこいつらじゃない方がいい。
俺は覚悟を決めると取り巻きの1人(仮にここではザコAとしよう)に殴りかかるふりをする。ザコAはビクっとなって、それを見て俺はケタケタ笑いながら「ビビった? ビビった?」とコメントを求めた。俺がやるつもりなのがよっぽど意外だったんだろうね。アゴやザコAやBやCに動揺が見えた。
ここで「テメェらやるつもりなのか?」なんて聞いてあげる程俺は親切じゃない。いつもなら無言&無表情で何の前触れもなく殴るんだけど、この時俺はちょっと面白くなっちゃってて、こいつら、からかってやろう的気分がもりもりと湧いてきてた。悪い癖だとは思うけど、でもこっちの方が明らかに面白いんだから仕方ない。心臓がヒンヤリとするこの瞬間は好き。
「来い! この野郎!」とわざと顎を突き出し
「テメェ!」
逆上したアゴのパンチは期待通りの大振り。待ってましたと俺はパンチを外に弾いて懐に飛び込んだ。あとは腹に置いてくるように、右膝を前に突き出しとけば黙ってても腹にめり込んでカウンターになる。
期待通りに右膝に十分な手応えがあって、アゴは食らった瞬間に崩れ落ちた。はたから見てると分かりづらいだろうし、何が起こったか分からなくて、でも俺に一瞬で何かされて倒れたんだってことだけは分かるこの状況は、俺が武術の達人か何かに見えたと思う。
アゴは内臓破裂しちゃったかなってくらいのたうち回ってて、それを
喧嘩が終わり、シーンと静まりかえる教室で、俺は「やったぁ!」とニコニコしながらガッツポーズ。初め、アゴ達の一方的ないじめが始まると思っていたクラスメイト達は何が起こったのか理解できていないようだった。本当は大番狂わせでもジャイアントキリングでも何でもないんだけど、クラスメイト達はそれが起こったのだと理解したのか、ある瞬間を境に、クラス中が一気に沸いた。
「すげぇ!」とか「やるじゃん!」みたいな声援から
ちなみにその後なんだけど、アゴに対して横柄な態度を取るでもなく、以前通りに振る舞った俺の対応は、クラスメイト達はもとより、アゴとの一件を聞きつけた同学年の男達にも好感を持たれた。それにアゴは周りからそれほど好かれちゃいないのも手伝って「先に喧嘩売ったのあいつだし」で終わり。
そもそもよく考えたら俺の中学時代のことも知らないし、高杉が喧嘩強くて有名だって沢ちゃん言ってたのに、そいつと互角にやり合った俺にちょっかい出す時点で、俺の地元でも高杉の地元でも無名の、ホントにしょうもないやつらだってことでしょ?
そんなションベンハゲに俺がどうこうされるわけないし、あいつらが言ってた先輩ってのも知り合いの知り合いの知り合いくらいを、さも自分達の身内や近い間柄の先輩みたいに
高校デビューがバカ校で調子こいて失敗したら、その後の高校生活は終わったと思っていい。アゴも残りの2年10か月はおサブいことになるだろうけど、俺のせいにしないでね。喧嘩売ってきたのもお前だし、お前に人を見る目が無かっただけだし、仮に今回のことが無かったとしても、きっとお前は絶対に間違いなく確実に落ちぶれたはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます