Ⅲ‐5

 初めてのバイトをやり終えた次の日、いつもと変わらず高杉と昼飯を食ってたんだけど俺のテンションが別人のように違う。久々にお母さん以外の女性とまともに喋って興奮してたし、手応えがあったっていうか、「あの子達、もしかしたら俺のこと好きなんじゃね?」的な危険思想まで芽生えてきている。


「高杉、昨日は面白かったね」

「お前は面白そうに話してたな」

「『お前は』って何よ? つまんなかったの?」

「何で長州藩から奇兵隊っていう軍隊が生まれたかとか、ニーハオって字面がカワイイとか知らんわ」

「あれはお前、俺が喋るしかないと思って、最近閃いた考察を述べてただけだよ」

「村田も中谷も、よく聞いてられるなと思ったよ」

「幕末ネタは食いついてたのお前だけだったから、すぐにやめたじゃん」

「他のも大概だからな」


 人が気持ち良く喋ってたのにうるせえなこの野郎と思って「ジュワッチ!」って言いながら高杉の肩にチョップ。


「何だよ、お前」


 俺は高杉を無視して「デヤッ、ヘアッ!」って言いながらさらに高杉にチョップ。


「だから、何なんだよ、お前」

「今の俺ならスぺシュウム光線が出せるかもしれない」

「やってみろよ」

「じゃあお前ちょっと俺の小指の付け根、見ててみ」


 めんどくさそうにしながらも至近距離まで近づけてきた高杉の顔面にチョップ。したら高杉が「この野郎!」っつって俺のチンコ揉んできた。


「うわっ、ざっけんなバカ」

「うっせぇ。テメェこそざけんな」


 すかさず俺もやり返す。昨日の話をする予定だったのに、いつの間にか俺達は真っ昼間に非常階段で笑いながらチンコ揉み合ってた。女性には馴染みがないと思うけど、知能指数の低い男子中高生の間じゃこれ、結構あるからね。ほんで、しばらくチンコ揉み合ってたんだけど高杉の方が俺より金玉を握るのがうまくて負けた。


「やめろバカ! 参った参った!」

「勘弁してくださいは?」

「ハハッ、こいつ無理…。勘弁…、勘弁してくだされ…。ハハハハッ」


 高杉にチンコ揉まれて笑ってるとこへ、沢ちゃんと村田さんが来て「何してるの?」って村田さんが聞いてきたから「高杉にチンコ揉まれて笑ってるだけ」って答えたら沢ちゃんと村田さんが笑った。


「やめろバカ野郎! 変な言い方すんじゃねえよ!」

「だって本当のことじゃん」

「仲良しなんだね」

「違うよ、高杉が無理やり…」

「だからやめろって言ってんだろ!」

「っていうか村田さん、同じ学校だったんだね」

「そうだよ、気付くの遅くない?」

「いや説明すること多くて順序がさ…」

「私と学校が一緒だってことより、チンチンいじられてることの方が先に喋りたかった?」

「ハハハハッ、そうだね」


 笑いながら言った俺を見て村田さんがまた笑った。沢ちゃんが村田さんに「この2人、見てると面白いでしょ?」って。


「うん。あんまり見たことないかも。っていうか何で笑ってるの?」

「いや、別に理由は分からないんだけど何か男にチンコ揉まれると笑っちゃうんだよね」


 女の子にやられると別の反応が起こるけどって俺とたぶん高杉も沢ちゃんも思ってただろうけど、男達は、それは言わず、変な沈黙が訪れた。不穏な空気に気付いた村田さんが「私、何か変なこと言っちゃった?」って言い出して「いや、別に変なこと言ってないよ」って俺は言ったんだけどその場にいた男3人が意味も無くうろたえ始めたところでチャイムが鳴って救われて、でもよく考えてみたら、そもそも女子にチンコ揉み合ってるとこ見られて変な空気にならない方がおかしい。

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