Ⅱ‐4

 高杉と昼休みに遭遇した次の日、俺は沢ちゃんに連れられて高杉に会いに行ったんだけど、やっぱヤンチキ同士って出会い方とかタイミングで全然対応が違うよね。地元が違ったり、出会った時に知り合いがいないと喧嘩になる率が爆上がりするし、喧嘩してお互いのこと認めると話が早い。


 最初はやっぱりちょっとピりついたんだけど、沢ちゃんの仲介もあって、高杉が先に折れてくれた感じで話しかけてくれて、俺もちょっとずつ話してって、そのうち話が弾んで盛り上がって、入学式の喧嘩の話になってさ、俺が高杉が背負い投げ食らって、のたうち回らなかったことを素直に褒めたり、高杉は高杉で俺にボディーブローを食らわせた時、決まったと思ったのに根性あるなって。まあ、あれは食らった瞬間、この世から消えてなくなりたいって思ったけど言わないでおいた。


 お互いに「やるなこいつ」って思ってたのが伝わってさ、やっぱりマジ喧嘩した後にいい感じに和解するとマブダチになっちゃうよね。「いやいや、いいって、いいって。こっちこそごめんね」みたいなノリをお互いにやりだした。


 というか、俺と高杉の間に入った沢ちゃんって何者なんだろ? 自分のことただのアイドルオタクだって言ってたけど、単なるアイドルオタクは俺と高杉にこんな距離で接してこないと思うんだよね。話す感じとか、何げない所作を見てると、沢ちゃんは沢ちゃんでそれなりに喧嘩強そうだしさ。


 何かなぁ、最初に予定してたキラキラ一軍女子とのあれやこれや、ハーレムつくってのムフフな展開も出会いも一切無いけど、これはこれでいいのかもなぁ。高杉とか沢ちゃんの作る空気感は居心地がいいっていうか、中学時代の柔道部を思い出させるなじみのある空気感なんだよね。ラブコメが無くても、カワイイ女の子がいなくてもいいかなって思うようなそんな空気をこの2人は出しよるわけ。


 完全に安心しきっちゃってさ、家で飯食ってる時くらい油断してて、よく考えもせずに思い付いたままオチの無い話をだらだら喋ったり、女子のこともそうだけど、クラスになじめないとかそういった俺の悩みとか、暇で暇でしょうがないから「このままならいっそ俺はパンチパーマでも当ててグレるから一緒にやんない?」とかって聞いたりするようにもなってた。


 ほんで、俺もアホだけど高杉も高杉で結構なアホなわけ。もうね、俺も高杉も言われなくても分かるよってこととか、おんなじことばっかり言う。話すこととやることが無くなるとすぐ「暇だ」とか「彼女欲しい」とかってさ、「それを俺に伝えてどうしろっていうの?」って聞き返したくなることしか言わなくなるわけ。暇なのも一緒だし見りゃ分かるし、彼女いないのも散々聞いてるからお互いに知ってるけど口に出すのよ、アホだから。


 別に俺も高杉も「暇だ」って言って、何か面白い話をしろよってその場にいる誰かに言いたいわけじゃなくて、脳みそで認識した単語をそのままダイレクトに口に出しちゃう残念な習性が俺達にはあって、それが分かってないと、頭が良くて気の回るやつはすごいストレスになると思う。


 だって俺達「暇だ」とか「彼女欲しい」って1日に30回は言うもん。それを「暇だから何かしろよ」とか「女の子を紹介してくれ」っていう意味で受け取ってたら嫌になるでしょ? ほんでもっと残念なのは、自分も散々実りの無いことを口に出しておいて、自分以外のやつが言うと「それを俺に言ってどうしろっつうんだよ?」ってたまに言っちゃうこと。「別に暇だから暇だっつったんだよこの野郎」って大抵喧嘩になるからね。


 沢ちゃんはよく俺達と一緒につるんでるなぁって関心するよ。俺と高杉のことをカブトムシかクワガタと思ってるんじゃないかな。「あっ、また喧嘩してる」みたいな。じゃないとやってらんないと思うもん。

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