Ⅰ‐1

 俺の住んでる所ってのはマジで田舎で、都会ではレアなカブトムシも、ここじゃカナブンと同列程度の価値しかない。


 都市開発計画だか何だか知らないけど、未来都市をイメージした前衛的な住宅街と、のんびりとした空気が広がる田園風景、馬糞臭い畑が不思議と共存した千葉県のとある町が俺の地元。


 全国でも指折りに高い電車賃のせいで、結構近いのに簡単に東京にも出られないような刺激が欲しい十代にとって最低最悪な町。


 俺はこの最低最悪な町から、自分の可能性や将来を奪い取られる前に抜け出さなければと思うし、毎日携帯ゲームで朝昼晩のログボを欠かさず受け取ったり、イベの不具合が起こる度に運営に詫び石せびったりする、この勤勉さと情熱は、どこか別の場所で使うべきだと思っているのは正しい判断だと思う。


 でも他に何かしてるかっていえば何もしてなくて、したいこともない。司馬しば遼太郎りょうたろうの『坂の上の雲』に出てくる秋山あきやま真之さねゆきみたいに「本気で喧嘩できる相手が見つからん」とかカッコイイこと言いたいけど、あの人ほどの才覚を俺は持ち合わせちゃいないのだ。


 う~ん、チート能力で異世界を征服してハーレムつくりたいわぁって思いながらぇこいて、におい嗅いで「くっさ!」っつってる、そうです、私はかの有名な屁こきくさカメムシマンなのです。


 今はしがない屁こき臭カメムシマンでしかないけれど、そんな私にだって、男子一生の仕事を成し、本懐を遂げたいもんだという志くらいある。でも、私は七転八倒、苦心惨憺さんたんの末、男子一生の仕事を成すのと、異世界でのハーレム生活だったら、異世界生活を選択する、ドぐされゲロたむしさんでもあるのです。


 七転八倒しながら苦心惨憺の末、異世界を征服して、ハーレム生活だったら完璧じゃんとか折衷案は却下。何をするにせよ、中途半端はよくない。中途半端はよくない? 俺、今、中途半端はよくないって言ったよね? 屁こき臭カメムシマンでド腐れゲロたむしさんのくせに、たまに俺の口からは自分で言っといて後悔するような大言壮語が飛び出しちゃう時がある。


「もう一遍、自分がどんなやつなのか、のぞいてみたくなった」


 中学を卒業する前、確かそんなことを友達に言ったような気がする。


「まっさらな状態で、誰も自分のことを知らない場所で、自分がどんなやつなのか、何ができるやつなのか知りたい」とも。


 さっきの異世界の話をしたら、あいつ怒るかな? 広げた風呂敷は畳めないから、ほっぽりだそうか考え中。ドラクエ1で、レベル49まで上げてあとは竜王倒すだけで終わりなのに何となくで放置した俺の性根に乾杯!


 もともと大陸的な英雄譚が好きだから、中学校の頃はひとたび男児に生れ落ちたからには何ちゃらかんちゃら的なものに憧れて、色々頑張っちゃったけど、もうそういうの、や~めっぴ。さっき、やりたいことないっつったけど、よく考えてもよく考えなくてもSEXはしてみたいわけだし、やっぱり俺もみんなと同じように彼女だって欲しい。


 彼女さえいれば、こんなゾッとするような無意味な生活もしてないだろうし、思い出すと鳥肌が立つくらいしょうもない空想もしてる暇はないはずだ。そもそも、さっきふわっとしたノリで自分から言ったけど屁こき臭カメムシマンって何だよ?


 人並みの幸せに憧れるっていうかさ、そういうのがちゃんとできてればさ、このクソつまんねぇ最低最悪の町だってどうでもよくなるはずだしさ、こんな俺にだって心に余裕ができて優しい人間にだってなれるかもしれない。この世からド腐れゲロたむしさんが一人いなくなるわけだから、世界は平和に一歩近づくってわけだ。


 あ~、彼女欲しい、めっちゃ彼女欲しい。俺の理想の彼女には髪の毛はセミロングかショートでnon-noノンノ系の服を着ててほしい。黒目の割合が他の人より多くて夜に会うと星空が瞳の中に映るような目をしていてほしい。肌は血管が透けて見える色白で、触り心地はクレープの皮と間違えるくらいやわらかいとなおよし。性格は真面目。ちゃんと部活に一生懸命で、バスケ部か弓道部か陸上部で大学生になったらラクロス部に入ってそうな感じの子。バレンタインデーで男にチョコはあげずに、女子同士でチョコを作って贈りあってる子で、そんないい子なのになぜか俺のことを好きになっちゃう女の子が、この地球上に絶対にマジでホントのホントに存在していてほしいし、むしろ存在するべきだ。


 ここまでの能書きにかかった時間は90秒。自分の欲望の総量からすると、これはまだまだ氷山の一角に過ぎない。激イタで激キモで混ぜちゃいけないものまで混ぜて発酵させて一度寝かせていい感じに腐らせたこの欲望は、もしまかり間違って公の場で全て吐き出そうもんなら、国家転覆を企てたっつって内乱罪で公安警察に逮捕されてしまうまである。

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