君を巡る旅行

如月倫音

プロローグ

 「あんた、その指輪...」

 「え?あぁこれか。部屋の掃除してたらたまたま見つけたんだよ。」

 高校を卒業して大学生になった僕はひとり暮らしを始めた。

 大学入学後初めての夏休みに入った今、数カ月ぶりに実家に帰ってきていた。

 僕が使っていた部屋は引越し先に持っていった物がなくなっていること以外はまだそのままの姿で残っている。

 その部屋にあった僕の3段で構成されている小物入れの一番下の段で見つけたそこそこおしゃれな指輪を左薬指にはめてみている。

 「向き合うことにしたのね、”愛衣めいちゃん”と。」

 母の口から飛び出した”愛衣”という人物に思い当たりはなかった。

 「誰だ?その”愛衣”って子は。」

 母は深いため息を吐いたあと、唾を飲んで語り始めた。

 「高校1年生の夏から2年の終わりくらいまでの間、あんたに彼女がいたの。名前は来ヶ谷愛衣くるがやめい。彼女になりたてのときに私にも嬉しそうに紹介してくれたわ。でも愛衣ちゃんは3年にあがる前に死んだのよ。」

 母が何を言っているのか全く分からなかった。

 僕に彼女がいたことも、その彼女が死んでいることも。

 母曰く、この指輪はその愛衣って子からもらったものらしかった。

 「まだ思い出していないことはよく分かった。でもいい機会だしこの夏休みにいい加減愛衣ちゃんに向き合ってあげなさい。あんたが辛い真実から逃げ続ける限り一番辛いのは忘れられた愛衣ちゃんなのよ?もう見てられないのよ...」

 目に涙を浮かべながら母は押し入れの中から一つのデジタルカメラを僕に渡してきた。

 「これはあんたと愛衣ちゃんの思い出が詰まったカメラよ。この中に残っている写真の背景を手かがりにその場所を訪れてみなさい。」

 母の勢いに流されるまま、半信半疑でカメラを受けたった。

 残っているデータを見てみると確かにほとんどの写真が僕とポニーテールが特徴的な美少女のツーショットで埋まっていた。

 これを見せられると信じざる負えなくなる。

 このまま思い出さずにいるのは愛衣ちゃんにもそのご家族にも申し訳無さすぎるし、それに今僕自身が愛衣ちゃんのことをもっと知りたいと感じている。

 真実と向き合うことを決めた僕は母から確かにカメラを受け取り、さっそく部屋に戻って背景を手がかりに思い出の場所を探ることにした。

 「本格的に思い出巡りするのは明日からにして今日はこのカメラで情報を集めよう。」


 

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