第23話:火あぶり
アバコーン王国暦287年5月9日ハミルトン公爵領テンペス城・美咲視点
「イザベラが処刑されたと言うのは本当の事ですか?」
「イザベラに似た女の死体があったのは確かでございます。
ですが、イザベラ本人であるかどうかは断言できません。
エマ様が毒を受け火を放たれたのと同じように、毒を飲ませて火あぶりにしたと言っていましたが、偽者と分からなくするために焼いた可能性あります」
「レオンお爺様は偽者の可能性が高いと思われているのですね」
「はい、ほぼ間違いなく偽者だろうと仰られていました。
そうでなければ、あの王太子が大人しく軟禁されているはずがないとも申されておられました」
「それで、レオンお爺様は王家にどのような条件を出されているの?」
「はい、ブラウン侯爵閣下は王太子の処刑だけは絶対にゆずれないと申されておられました」
「あの国王と王妃が飲むとは思えないですわね」
「はい、エマ様の申される通りでございます。
王も王妃も、王太子の王位継承権剥奪と、生涯塔への軟禁で許して欲しいと言っているようですが、ブラウン侯爵閣下は拒否されておられます」
「他の条件はどうなっているのかしら?」
「王と王妃は、王太子の助命を認めてくれるのなら、ブラウン侯爵家とハミルトン公爵家が大公を名乗る事を許すと愚かな事を申しているそうです」
「本当に愚かね」
「はい、愚かすぎて吐き気がいたします」
「このまま王家を滅ぼしてしまいたいですが、そう言う訳にもいかないのよね?」
「はい、少々困った状況になり始めております」
「アバコーン王国の西北部にあるダウンシャー王国が侵攻の機会をうかがっているのですわよね?」
「はい、ブラウン侯爵家とハミルトン公爵家がこれ以上力を持つのを恐れているようでございます」
「ダウンシャー王国と領地を接している西南部のオレリー王国は、それを見過ごす気なのかしら?
それとも、好機ととらえてダウンシャー王国に攻め入る気なのかしら?」
「ブラウン侯爵家の調べた範囲では、アバコーン王国の南西部にあるカニンガム王国と、オレリー王国を牽制する密約ができているそうでございます」
「カニンガム王国は、わたくしの領地と接していますが、わたくしの事を舐めているのかしら?」
「お待ちくださいませ、公爵閣下。
ブラウン侯爵家の使者に聞かれる前に、我々に答えさせてください。
我らハミルトン公爵家諜報部隊も役目を果たしております」
「貴方方の事は十分信用していますわ。
貴方方の集めた情報を聞かせてもらう前に、レオンお爺様と配下の方々の見解を聞かせてもらおうと思っただけよ。
我が家の家臣が無礼な事を言ってごめんなさいね。
引き続きレオンお爺様と貴方方の見解を聞かせてくださいな」
「はい、王家を中心とした王都周辺の情報もありますので、ハミルトン公爵家の方々が集められた情報とは違う内容があるかもしれませんので、続けさせていただきますが、決してハミルトン公爵家の方々を軽んじている訳ではありません」
「分かっていますわ、愚かな家臣達の事は許してあげてくださいな」
「とんでもないことでございます。
カニンガム王国がそのように動けるのは、国王と王妃がカニンガム王国とウェストミース王国を仲介したからでございます。
カニンガム王国とウェストミース王国は、当主となられたエマ様を警戒しながらも、うら若き令嬢である事で油断もしているのでございます」
「わたくしが当主の内に、ブラウン侯爵家の誰かを婿に迎える前に、攻め滅ぼしたいと思っているのですね?」
「王と王妃が、両国の王がそう思うように仕向けております」
「そうなると、軍を率いて王都に攻め上るのは難しいですわね」
「はい、本来なら敵対するはずのカニンガム王国とウェストミース王国が、王と王妃の許可を受けて、早い者勝ちでハミルトン公爵領を切り取れるのです。
この機会を見逃すはずがございません」
「ウェストミース王国がハミルトン公爵領に攻め込む気なら、東北部にある3小国は自由に攻め込んで来られるわね。
ウェストミース王国と敵対しないようにするなら、ブラウン侯爵領を狙っているのではなくて?
それも王と王妃が裏で糸を引いているのね?」
「はい、エマ様の申される通りでございます」
「レオンお爺様はどの辺りを落としどころと考えておられるのかしら?」
「ブラウン侯爵家とハミルトン公爵家のアバコーン王国からの分離独立、王国建国宣言は最低限の条件だと申しておられました」
「王太子の処刑は諦められるのね?」
「ダウンシャー王国軍を粉砕し、東北部の3小国を併合した後で、改めて殺せばいいと申されておられました」
「1度許した王太子を処刑するとレオンお爺様の名誉が傷ついてしまうわよ?」
「時間が経てば、何の罪もない女性を身代わりにして殺した、イザベラの隠れ場を突き止められると申されておられました」
「先に約束を破って、処刑すべき人間を隠した罪を理由に、王太子を処刑すると申されているのね」
「はい、エマ様が受けられた恥辱は必ず報復するので、それまでの間カニンガム王国とウェストミース王国の侵攻に耐えて欲しいとの事でございました」
「分かりました。
レオンお爺様には、必ず領地と領民を護ると言っていたと伝えてください。
しばらく休んでから王都包囲軍に戻られてください」
「お気遣いありがとうございます。
しかしながら、ブラウン侯爵閣下と戦友達が野陣の中で頑張っております。
私だけが安穏と過ごすわけには参りません」
「その気持ちは分かりますが、休める時に休むのも戦士の役目ですよ。
ここでしっかりと身体を休め、戻って直ぐに戦えるようにしておくのです。
今新鮮な食料を用意させています。
貴男が持ち帰ってくれるなら、ハミルトン公爵家の戦力を領地から離すことなく、レオンお爺様に支援物資を届けることができるのですよ」
「……エマ様のお言葉に甘えさせていただきます」
★★★★★★
『アバコーン王国を取り巻く周辺国』
「ダウンシャー王国・ヒル家」
アバコーン王国の西北部にある中規模国
「オレリー王国・ ボイル家」
アバコーン王国の西南部にある中規模国
「カニンガム王国・カニンガム家」
アバコーン王国の南西部にある中規模国
「 ウェストミース王国・ニュージェント家」
アバコーン王国の南東部にある中規模国
「ゴート王国・ヴェレカー家」
アバコーン王国の東北部にある小規模国
「ハワーデン王国・モード家」
アバコーン王国の東北部にある小規模国
「ドニゴール王国・チチェスター家」
アバコーン王国の東北部にある小規模国
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