第14話:短編悪役令嬢小説
アバコーン王国暦287年3月28日街道・エマ視点
(ミサキ、貴女はこの世界が物語の作り物だと言いますの!)
(……私が見ている夢だという可能性もあるけど、ここまで話してもらわないと思いだせないような短編小説を夢見るとは思えないわ)
(だったらなんだと言うのですか?!)
(その短編小説を書いた人が、エマ達の世界を覗き見た可能性があるわ。
ただ、細かい真実ではなく、表面的な現実だけを見たのよ。
あるいは、後に編纂された歴史書を読んだのかもしれないわ。
だから、本当は王太子やイザベラが極悪非道な悪人だと知らないのよ)
(ミサキの読んだ物語では、わたくしの方が悪人ですのね?)
(うん、そう、だから思い出せなかったの。
全部王太子がエマに虐められるイザベラを助ける立場で書かれていたわ。
その事件の裏にある真実は無視されていたわ)
(……その物語では、王太子がイザベラを妃にして幸せに暮らしたのね)
(あ、そこまで書かれていなかったわ。
自分の悪行を反省したエマが毒を飲んで死んだ所で終わっていたわ)
(ミサキがこの身体に憑依して生き返った事は書かれていないの?
わたくしが幽体となった事も書かれていないの?)
(ええ、全く書かれていなかったわ。
だから、物語に縛られる事なく復讐できるわよ。
先ずは誰に復讐するの?)
(ジェームズよ!
ハミルトン公爵家の誇りを忘れ、王太子とイザベラに媚び諂い、王家の犬に成り下がったジェームズは絶対の許せないわ!)
(という事は、ハミルトン公爵領に向かうのよね?
この事はアビゲイル達にも秘密にしていたわよね。
私達だけでハミルトン公爵領に行って勝てるの?)
(大丈夫よ、何の心配もないわ。
領都はもちろん、周辺の都市にもハミルトン商会の者達が潜んでいるわ。
わたくしが行けば、一斉に蜂起してくれますわ)
(分かったわ、全てエマにまかせるわ。
砂糖を舐めながら歩くから、エマは魔力を蓄えておいてよ。
あ、分かれ道になったらどちらに行けばいいかだけは教えてよ)
(分かりましたわ、今後のために魔力を蓄えておきますわ)
悪役令嬢を書いた物語とは、信じられない話ですが、それを言ってしまったら、わたくしが幽体になっている事も、ミサキに身体を奪われた事も信じられません。
信じられない事が実際に起こっている以上、この世界が物語だと言う可能性も考えておかなければいけません。
実際、ミサキに話していなかった細々とした王太子とイザベラの意地悪を、ミサキは知っていました。
逆に、わたくしにはとてもつらかった出来事を、ミサキは知りませんでした。
ミサキは物語にするのに王太子やイザベラに都合のいい部分だけを書いて、都合の悪い部分は書かなかったのだろうと言っていました。
わたくしもその通りだと思います。
ミサキの言う事を信じて、生き返ったわたくしが復讐を成し遂げる物語に書き換えて差し上げましょう。
わたくしが悪役で、正義感の強い王太子に捕まり、反省する物語なんて絶対に許せません!
極悪非道なイザベラの本性が暴かれて、卑怯で下劣な王太子の本性も暴かれて、共に討伐される復讐物語にして見せます。
「おう、待ちやがれ!
そのロバと有り金全部置いていきやがれ。
武器を捨てて抵抗しなければ命だけは助けてやる」
王太子の見張りと暗殺者は上手くまいたのに、こんな山賊に待ち伏せされるなんて、何と運がないのでしょう。
「命だけは助けると言っているけど、どうせ奴隷にして売り払うつもりでしょう?」
「お、女か?
これはいい、さんざん嬲り者にした後で、売春宿に売ってやるよ」
「はん、やれるものなやらってみなさいよ!
あんたたちのような三下にやられる私じゃないわよ!」
あら、あら、あら、威勢のいいこと。
ミサキのいた世界は平和そのものだったと言っていたわね。
実際の戦いでどれほどやれるか確かめさせていただきますわ。
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