第8話:魔術
アバコーン王国暦287年2月15日ガーバー子爵領アームストン城・美咲視点
「アビゲイル、ガーバー子爵に魔術の本を借りたいと伝えてちょうだい」
「魔術の本でございますか、エマお嬢様?」
「ええ、魔術の本よ」
「なぜ魔術の本が必要なのでしょうか?
理由を教えていただけなければ、とても貴重で高価な魔術の本を貸して欲しいなどと頼む事はできません。
そもそもガーバー子爵閣下が魔術の本を持っているかどうかも分かりません」
「ガーバー子爵は元々商人として大成功された方よ。
その莫大な資金力で、最初にゴート王国で伯爵位を買われ、次にアバコーン王国で子爵位を買われた程の方よ。
売買で莫大な利益を生む魔術の本は必ず持っておられるわ。
今は原本を持っておられなくても、写本されてから原本を売られているはずよ。
知識は莫大な利益につながりますからね」
「そのような貴重な知識を、いくらエマお嬢様が望まれているからといっても、何の代償もなく教えてくださるでしょうか?」
「そもそも、王家が殺そうとしたわたくしをかくまってくださった時点で、わたくしに価値を感じておられるはずです。
その価値がどれほどのものなのか確かめておかなければ、いつ王家に売り飛ばされるか分かりませんよ。
わたくしに魔術の本以上の価値があるかどうか、ここで確かめておくのです」
「それは大切な事だと分かりますが、そのような事を口にして魔術の本をお貸しくださいとは言えません。
なにか他に理由はないのですか?」
「そうですね、だったらこう言ってくださいませ。
イザベラがわたくし達に使った、空気を介して伝わる毒と言うのが、本当に毒なのか、あるいは魔法や魔術なのか確かめたいと言ってください。
それと、私の記憶を取り戻すための魔法や魔術があるのか、魔術の本を読んで確かめたいと言ってくださいませ」
「……毒の正体を知るのと記憶を取り戻すためでございますか。
そういう理由なら、とても貴重で高価な魔術の本でも貸してくださいと言えます。
お嬢様が直接頼まれるのならともかく、ブラウン侯爵閣下の陪臣でしかない私達では、話しかけるのも大変なのですよ」
「アビゲイル達に無理な事を頼んでいるのは分かっていますが、わたくしも自分の命と敵討ちがかかっているのです。
遠慮などしている余裕はないのです」
「承りました、エマお嬢様。
そもそも私達がエマお嬢様を護りきれなかったことが原因です。
ガーバー子爵閣下を怒らせないようにしながら、魔術の本を借りてみせましょう」
「頼みましたよ、アビゲイル。
それと、頼んでおいた武器と料理もできるだけ早くここに運ばせてください。
毒を身体から抜くには、たくさん食べなければいけません。
今度イザベラがわたくし達の前に現れた時には、毒を受けていても戦える身体にしなければいけません」
「そのような武張った事は私達に任せてくださいと申し上げたいところですが、前回の大失態がありますから、とても言えません。
エマお嬢様が武術を学びたいと申されるのでしたら、できる限りお手伝いさせていただきますが、とても厳しい鍛錬になります」
「分かっています。
生半可な覚悟で、修道院騎士に武術を教えてくれとは申しません。
手加減する事なく、厳しく鍛えてください。
その代わりといっては何ですが、食事も頼みましたよ」
「分かっております、エマお嬢様。
修道院騎士の鍛錬はとても激しいもので、普通の男性騎士以上に食べないと、とても鍛錬についていけません。
パンだけでは必要な量を食べられませんから、肉をたくさん食べ、ワインもたくさん飲んで鍛錬していました。
エマお嬢様も肉を食べワインを飲んでください」
「分かっていますわ。
アビゲイルが魔術の本を借りて来てくれる間に、カミラとスカーレットに給仕してもらいますから、できるだけ早く魔術の本を借りて来てください」
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