第7話:暴飲暴食

アバコーン王国暦287年2月14日ガーバー子爵領アームストン城・美咲視点


「エマお嬢様、そのように食べられてはお腹を壊してしまいます!」


「アビゲイル、昨日食べられるだけ食べろと言ったのは貴女ですよ。

 令嬢にあるまじき姿ではありますが、食べた物を戻してしまったとしても、それで毒が身体からでれば、早く元に戻れるのです。

 今は行儀が悪く多少負担がかかっても、身体から毒を出すのが先です。

 わたくしが食べられるだけ料理を持って来てください」


「……分かりました。

 確かにできるだけ食べてくださいと言ったのは私でした」


 話すのに一拍遅れてしまいますが、エマが注意してくれるから、令嬢らしい言葉遣いができるようになってきました。


 言葉遣いだけでなく、食事のマナーも最低限は守れています。

 マナーを気にする余り、味がしない食事になっていますが……


(昨日よりもマシになってはいますが、もう少し何とかなりませんの?

 わたくしが直々に注意して差し上げていますのに、見苦し過ぎますわ!)


(身についた立ち振る舞いはなかなか直せないの!

 これでも精一杯がんばっているのだから、もう少しだけ待ってよ。

 この身体には、貴女の立ち振る舞いが身についているはずだから、そのうち奇麗に動けるようになるはずよ)


(できるだけ早くそうしていただきたいものですわ。

 このような見苦しい食べ方では、わたくしが恥をかいてしまいます)


 昨日思いつく限り試したおかげで、色々な事ができるようになった。

 その1つが、心で思うだけでエマと会話ができる事だ。


 しかも筒抜けではなく、伝えたい事と秘したい事が使い分けられる。

 プライバシーを保てるのはとてもありがたい。


(分かっているわよ。

 マナーや立ち振る舞いも大切だけど、それよりも魔力が優先よ。

 それはエマだってわかっているわよね?)


(……分かっていますわ。

 今のままだと全てお爺様任せだもの。

 修道院の件で思い知りましたわ。

 自分自身の力を付けないと、この身1つ護れないわ!)


(だったら食事で少々見苦しいくらいは我慢してよ。

 たくさん食べないと、魔力を蓄えられないのよ)


 昨日寝不足になるくらいがんばって色々試して分かった事があります。

 それは、魔力を作るのにカロリーが必要だという事です。


 アニメやラノベには色々な設定がありますが、この世界では周囲のある魔力を取り込む事はできないようです。

 少なくとも今の私にはできません。


 今の私にできると分かったのは、食べた物を魔力に変えられるという事です。

 他にも、食べずに、あるいは食べた分以上の魔力を作ろうとすると、筋肉や脂肪を分解してしまいます。


 脂肪を分解してくれるのはありがたいですが、筋肉を分解されてしまったら、戦う事も逃げる事もできなくなってしまいます。


 筋肉を維持して魔力を作ろうと思ったら、出来るだけたくさん食べないといけないのです!


(そんな事、ミサキに言われなくても分かっていますわ!

 だからしばらくの間は目をつむって差し上げますわ。

 でも、アビゲイル達以外には絶対に見られないでくださいませ!)


(そんな事、エマに言われなくても分かっているわよ!

 切り札になる魔力や魔術の事は、出来るだけ秘密にしなければいけないもの)


(そうですわね、秘密にしたいですわね。

 ミサキには何かいい手段があるますの?)


(そうね、試してみたい方法は色々あるわ。

 まずは身体強化ね。

 魔力を幽体ではなく肉体に流す事で、通常以上の速さと力を使えるようになるの。

 これなら魔法や魔術ではなく、武術だと思わせられるわ。

 食事の量が増えるのも、激しい鍛錬の為だと思わせられるわ)


(そうですわね、その方法なら、淑女にあるまじき暴飲暴食の言い訳になりますわ)

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