毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
第1話:プロローグ1・婚約破棄投獄
アバコーン王国暦287年1月15日王城・エマ視点
「ハミルトン公爵令嬢エマ!
身分を笠に着て下位の貴族達に対する悪行の数々許し難い!
よって、私との婚約を破棄したうえで修道院預かりとする!」
「あら?
わたくしには、何も身に覚えがありませんわ。
身分卑しい者を王太子妃にしたい一心で、代々忠誠を尽くしてきたハミルトン公爵の名誉に傷をつけるのは、止めていただきたいですわ」
「だまれ、ダマレ、黙れ!
どれほど言い訳しようとも、もはや逃れられんぞ!
多くの貴族家の公子や令嬢が、お前の横暴を告発しているのだ!」
「あら、あら、あら、あら。
ろくにしつけもされていない、帝王学から逃げ回っているような殿下ですから。
後の栄達を目当てに媚び諂うような者をの言う事と、真に王国の未来を憂う者の諫言の違いがお分かりにならないのでしょうね」
「おのれ女郎!
私が何時勉学から逃げたと申すか!?」
「以前も今現在も、逃げ回っておられるではありませんか。
今朝も、昨晩ベットに引きずり込んだ売女との逢瀬が激しくて寝坊され、朝の剣術も帝王額もお休みになられたそうではありませんか?!」
エリオット!
ナサニエル!
ベン!
貴男達はいったい何をしているのですか?!
それで王太子殿下の側近と言えるのですか?!
本当に殿下の事を想うのであれば、厳しく諫言しないで側近と言えますか!」
「だまれ、ダマレ、黙れ!
私が何時剣術をしようと勉学をしようと、お前の知った事か!
私はこの国の王太子である!
好きな時に好きな事をして当然であろう!」
「愚かな王太子殿下を補佐するために、わたくしは幼い頃より厳しい帝王学を学ばされたのです。
ハミルトン公爵家は、王家を護る藩屏としての義務を果たしています。
殿下にも王太子としての責任を果たして頂きたいのです。
エリオット!
ナサニエル!
ベン!
貴男達も王侯貴族の公子ならば、その責任を果たしなさい!」
「だまれ、ダマレ、黙れ!
公爵令嬢ごときに、王太子の私がとやかく言われるいわれなどない!
これ以上女郎のざれごとに付き合い必要などない!
近衛騎士、この者を王太子侮辱罪で投獄しろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「たかが騎士の分際で触らないで!
いくら王太子殿下の命令とは言え、わたくしに触ってただで済むと思ってらっしゃるの?!
後で家ごと叩き潰されたくなければ、案内だけしてちょうだい。
牢であろうと自分で行きますわ。
わたくしは王太子殿下と違い、何事に対しても逃げ隠れしませんわ」
「……こちらにどうぞ、ハミルトン公爵令嬢」
誇り高きハミルトン公爵家の令嬢として責任は果たしました。
もうこれ以上愚かで身勝手な王太子に付き合う義理はありません。
せっかく向うから婚約破棄してくれたのです。
穏当な婚約解消ではなく、ハミルトン公爵家の名誉と誇りを著しく傷つける、婚約破棄をしてくれたのです。
これを機会に、アバコーン王国から分離独立してしまいましょう。
元々ハミルトン公爵家は独立した国だったのですから、チチェスター家が主君に相応しくない態度をとるのなら、忠誠を尽くす義務などありません。
ただ、問題は王と宰相ですわね。
王太子は色欲に狂った馬鹿でしかありませんが、王と宰相は違います。
それなりに先を読む力はあります。
あの2人が、父上やわたくしと正面から争うとは思えません。
何か裏があるのでしょうか?
謀略を仕掛けているのでしょうか?
「エマ嬢、こちらでございます」
……貴族用の塔でもなければ、士族用の軟禁室でもない。
平民犯罪者用の地下牢ですって!
「分かりました。
ハミルトン公爵家との連絡も禁止されているのかしら?」
「はっ、誰とも連絡させないように命じられています」
「国王陛下も王妃殿下もこの事をご存じなのかしら?」
「申し訳ありませんが、私達ごとき騎士は王太子殿下の命令に従うだけです」
「そう、大変ね。
しかたがないから、ここで待たしていただきますけれど、せめて騎士として令嬢に対する配慮はしてくださらない?」
「はっ、私ごときが持つ物は、ハミルトン公爵令嬢エマ様にお貸しできるような物ではありませんが、ここの毛布よりは多少ましだと思われますので、直ぐに持って来させていただきます」
「ありがとう、騎士殿。
貴男の親切は決して忘れませんわ」
「光栄でございます!」
わたくしを犯罪者用の牢屋に入れたという事は、王太子はハミルトン公爵家と正面から戦う気ですわね。
わたくしが知る王家の財政と軍事力を考えれば、ハミルトン公爵家と戦っても勝てないはずです。
正面から戦って勝てないのなら、謀略や暗殺を仕掛けるしかありません。
わたくしを人質にして降伏させようと言うのでしょうか?
ここ数代続いた王位継承争いと疫病により、王家も我が家も家督を継げる正嫡の血筋が激減しています。
特に教団の力を借りて王位継承争いに勝ち残った当代のハリー王は、側室によって王族を増やすことができなくなっています。
チャーリー王太子が執拗にわたくしを排除しようとしているのも、身分卑し愛妾を側室にできないからでもあります。
我が家も父上に庶弟はいますが、家を継げる正嫡の血筋はわたくしだけです。
だから、ハミルトン公爵家の血筋を残そうと思えば、どれほど無理無体な要求をされても、人質となったわたくしを見捨てることができないのです。
でも、全く抜け道がないわけではありません。
母上と形だけ離婚して、子供を生める若い女性を正室にすればいいだけです。
基本離婚を認めない教団ですが、腐敗した教団は金さえ渡せば大抵の事は見て見ぬ振りをしてくれますから、大丈夫でしょう。
問題があるとすれば、愛情深い父上と母上が、事前の約束通りわたくしを切り捨ててくださるかどうかです。
ルークお爺様が亡くなってしまわれて、王都と領地の両方を完全に掌握するためには、父上と母上には領地に戻って頂くしかありませんでした。
家臣や使用人がいるとはいえ、王都に1人残るわたくしは、何時王家に人質にされるか分かりませんでしたから、万が一の時の事は十分話し合っていました。
父上と母上が約束通りわたくしを見捨ててくださればいいのですが……
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