第121話 襲撃が終わり
―――時は数十分前まで遡り。
「シュナイゼルさん、今すぐアルマイルさんのところへ向かって下さい!」
突然叫び声を上げた俺をこの場のほぼ全員が怪訝な表情で見つめた。
「坊主、その言葉を今すぐ取り消せ!」
「取り消せません!」
「阿呆が!自分が何言ってるか分かってんのか!?」
シュナイゼルは王族の盾としてこの場にいる。
襲撃が既に発生している状態で彼を別の場所に向かわせるのは、王族を軽視するのと同義なのだろう。
多くの貴族がいる公式の場でそれを口にすれば、俺の社会的生命は無くなっても不思議じゃない。
そんなこと、分かっている。
「ガルディアス大将軍とアルマイルさんが連絡を取れなくなってるんですよ!?」
「それでもだ!あの二人が遅れを取るはずがねえ!」
そう言えるのはシュナイゼルが魔術王の恐ろしさを知らないからだ!
くそ、でもアルジャーノの存在を俺の口から説明することはできない。俺が彼を知っているなんてあり得ないのだから。
どうしよう。どうやって納得させればいい?
必死に頭を回しながら言葉を放つ。
「ここまで大きな襲撃を企てる相手が意味のない行動をすると思いますか!?シュナイゼルさんがいるこの場所を中途半端な戦力で襲ったのは、ほぼ間違いなく時間稼ぎです!」
「······」
「狙いはクレセンシア王女殿下ではなく、敵の中で浮いたガルディアス大将軍かアルマイルさんのどちらかなんですよ!そして僕が敵ならアルマイルさんを狙います!」
「坊主。俺だって理屈は分かってんだよ。もし殺すなら、俺っていう代わりがいる大将軍じゃなくて、唯一無二のアルマイルだ。だがな、分かった上でも俺は動かねえ。二人を信じて―――」
「シュナイゼル」
それまで黙って俺たちのやり取りを聞いていた国王陛下がゆっくりと、それでいてはっきりと、会場全体に響く声を発した。
「こ、国王陛下?」
「行きたまえ」
「は、はい!?何を仰って!?」
「そなたの懸念もよく分かる。国というのは国王がいなければ成り立たんからな。だが、代わりが利くという話ならば、余にもそういった存在はいるだろう?」
チラッと他の王族や大貴族たちを見て、国王は含み笑いを浮かべる。
王という絶対的な権力の真下で熾烈な権力争いを繰り広げる彼らは、奇しくも玉座を得るに足る能力を備えているのだろうか?
「今この国で最も失ってはならないのはアルマイルで間違いない。ゆえに行きたまえ。万が一彼女を失えば、アルカディアの魔術は百年は遅れるぞ」
「ッ。そういうことでしたら」
話を終えたシュナイゼルが、一陣の風となって会場から飛び出していく。
それを見送る俺には、もう何も出来る事がなかった。
どんなに魔術を鍛えても、槍を覚えても、六歳という制限が俺を上のステージに上がらせてくれないのだ。
もっと大きくならないと。もっと強くならないと。
じゃないと何の役にも立てない。我を通すことすら出来ない。
「······ぁ、あの。助けてもらった、んですよね?」
「いえ。助けただなんてそんな。このために身に付けた力ですから」
「ぁ、その、ありがとうございます」
ぎこちなくも俺に礼をするクレセンシアを見て強さへの渇望が強まる。
その思いは―――アルマイルとシュナイゼルが疲労困憊な様子で戻って来るのを見て、より一層強くなった。
パッと見は無傷だが二人して満身創痍の表情。恐らくは回復魔術で傷を癒したのだろう。
彼らが二人してこうなる相手といえば、アルジャーノかヴェルドラしかいない。
そして今回は、
「いやぁ、死ぬかと思ったわ。今回ばっかりは天下無双のワイもお仕舞いやと。あんの魔術師、強すぎやろ」
アルジャーノで間違いない。
俺が直接知る戦士と魔術師の最強が、まとめてやられてしまった。
アルクエの既出情報によれば、最低でも数百年は生きているアルジャーノ。既に完成されている彼に発展途上の二人が負けるのはしょうがないのかも知れないけど、それでも大きな衝撃が残る。
今の俺に何が出来る?十年後の俺に、何が出来る?
改めて自分がやろうとしている事の難易度を思い知らされた。
あと十年足らずでアルジャーノを、彼に並ぶ猛者を、彼に及ばずとも十分に強い者達を、敵に回すことになるのだ。
―――もっと、もっと力がいるだろ。
壇上でクレセンシアのそばに立ちながら、俺は己が無力を噛み締める。
⚪️
襲撃から三日が経過した。
その間、俺たちは大変な日々を過ごしながらも、襲撃が収まった後にどういった処理が行われたのか、詳細を知ることは出来なかった。
これまで多くの権力者と絡めたのは、武術大会の延長線上で俺に関わってくれたから。
その枠を越えた瞬間、今の俺になにかを動かせる程の力は無いのだろう。
見聞きした情報によれば、アルカディア側の被害は甚大で、百戦錬磨の警備達が百人単位で討ち取られ、なおかつアルマイルが王城に張り巡らせた結界も全て破壊されたとか。
向こうの襲撃により、こちらは足りない部分を丸裸にされたというわけだ。
今後は破壊された箇所の復旧と、人員の補充が行われるのだろう。それに加え、先日ふら~っと屋敷に訪れたアルマイルが―――
『今後は魔術の授業一変させたる!コテンパンに負かされながらも、ワイはしっかり技術盗んでやったからなぁ!はっはっはっ!死ね!絶対あいつをギャフンと言わせたる!』
とか言って悔しがっていたから、少なくとも魔術は大きく進化を遂げるんだろう。
既に固定観念が凝り固まった上の世代がそれに対応出来るかは分からないけど、これからの世代はアルマイルの新たな観点から来る技術が基本になるはずだ。
そして武術の方はと言うと―――
「シュナイゼル。この都市は俺に任せて各地の戦場を巡ってこい。この数年でさらなる経験を積み、俺を越えて見せろ」
なんと、襲撃の数日後にシュナイゼルの屋敷を訪れてきたガルディアスが、そんな命令を下してきた。
それも軍団長以上の権限を与えるから、各戦場で指揮官として立ち回れという。これは明らかにシュナイゼルを大将軍に据えるための準備である。
原作ではここまで早い準備は行われていなかったから、これは確実に俺がもたらした変化だろう。目に見える成果を嬉しく思う。
早いうちからシュナイゼルの力や権力が高まってくれれば、その下にいる俺も多大なる恩恵を受けられるのだから。
ただ、シュナイゼルが屋敷を空ける時間が増えるなら、今後は鍛練の効率は確実に低下してしまう。それ用のスケジュールを組み直す必要はあるだろう。
そんな風に考えていた俺にも、なんとガルディアスは声を掛けてきた。
「ノルウィン。お前もシュナイゼルについて世界を回るのだ」
「え?」
「武術大会を通して分かったが、お前は間違いなく将の器だ。思考の深さ、広さ、瞬発力。それを個人の武に活かすのも十分だが、戦術を扱えば間違いなく歴代の大将軍を越えられる逸材だ」
「え、と」
「王女殿下の護衛になれば、自由な鍛練は出来なくなるぞ。ゆえに、それまでに多くの経験を積んでおけ。実戦を知らぬ者が訓練だけで実戦以上の経験値を得ることは出来ないが、その逆は有り得る。実戦さえ知っていれば、それを想定した訓練が出来るはずだろう?」
そこまで言われれば、俺に拒否するという選択肢は無かった。
そんなこんなで、武術大会が終わった途端に、俺は新たな力を得るために世界へ羽ばたくことになったのだった。
―――――――――――――――
次回で長すぎた武術大会編は終わり!
その次の章は、戦火に包まれる主人公アーサーの故郷にシュナイゼルとノルウィンが出張するお話の予定です。
ではでは!
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