第87話 最終局面へ向けて

 ハイアンとの修行を終え、翌日。


 今日は三回戦が行われる訳だが、八強手前まで残った選手は皆が強者揃いであった。


 そもそも、武術大会幼少の部に参加する時点で、戦いに興味を持った特殊な人間なのだ。

 その中でここまで勝ち上がった者が弱いはずがない。


 残ったベスト16は全員が若い世代を今後牽引していく存在となり得る。


『さあ本日執り行われる第三回戦!なんと第一試合からノルウィン選手の登場だぁ!』


 主審の進行で沸き立つ大歓声。優勝候補と目されている俺は、対戦相手が可哀想になる程の熱狂を巻き込みつつアリーナへ昇る。


 向かい側からやって来る選手は顔面蒼白になっていた。

 彼の試合は昨日見た。堅実な槍を扱う良い選手だと思うけど、万に一つも俺が負ける道理はない。

 彼もその実力差を把握しているのだろう。なおかつ俺が生んだ大歓声に気圧され、既に戦意が折れかけている。


 結局、この試合を俺は一撃も貰うことなく完封し、無事ベスト8に進むことが出来たのだった。


⚪️


 その次の山では、俺が勝手にウルゴール邪教団の構成員だと決め付けた少年も、ベスト8へと駒を進めた。


 まだ実力を隠すつもりなのかギリギリの勝利を演出していたが、よく見れば敵の攻撃を全て見切った上で完勝していたのが分かる。


 副審として控えるガルディアスとシュナイゼルがあいつの実力に気付かないはずもないし、俺も全力で潰しに行くし、あいつは次で終わりだろう。


 それから―――


『圧勝!圧勝です!またしても戦斧の一薙ぎ!リーゼロッテ選手が対戦相手を蹴散らし、八強に駒を進めました!』


 俺たちと反対側の山では、当然のようにリーゼロッテが勝ち上がる。ここまで全ての試合を一撃で仕留めてきた彼女は退屈そうにアリーナを去った。


 しばらくして貴賓席に戻ってきたリーゼロッテは、座るサラスヴァティを見おろして笑う。


 リーゼロッテが望むのは血で血を洗う闘争である。武術大会を通して一つ成長したサラスヴァティからは、微かにその気配がするのだろう。


「楽しみにしておるぞ」


「当たり前よ。絶対に吠え面かかしてやるわ」


 皇族相手に一歩も引かぬ物言い。不敬とも取れるそれをリーゼロッテは豪快に笑い飛ばし、俺たちから少し離れた場所に座ったのだった。


 その後、吠え面をかかすという宣言通り、サラスヴァティは対戦相手を軽く蹴散らして八強に進出した。


 気合い十分、身体も万全。サラスヴァティは次の試合を最大の山場と捉え、そこに最高潮の自分をぶつけられるよう力を高めているように感じる。


 普段から騒がしいサラスヴァティが、今だけは静かに力を溜め込んでいる。例えるなら嵐の前の静けさだ。それを発散させた時、どれ程の強さを発揮するのかはまだ分からない。


 これなら、リーゼロッテの連勝が途絶える可能性もあるんじゃないか?


 ―――そして、最後。


『強い!強い!これほどまでに強いのか!ルーシー選手が、優勝候補の一角を秒殺した!』


 リーゼロッテかサラスヴァティ。そしてその後の俺との戦いを見据えた準備運動。少しだけ本気を出したルーシーが、俺たちを除いてほぼ最強クラスの選手を試合開始数秒で地面に沈めていた。


 これまでのお遊びとは違う。目標を見据えて、少しずつ自分を仕上げているのだ。その一歩目で、既にこの強さ。


「······」


「私が勝つってか?」


 アリーナから貴賓席を見上げても、そこにいる人間は豆粒ほどの大きさにしか見えないだろうに。

 しかしアリーナからこちらを見上げるルーシーは、確かに真っ直ぐ俺を見つめていた。


 交錯する視線が、絶対の自信に満ち溢れている。彼女は自分が勝つと確信しているらしい。


 上等だよ。その鼻っ柱へし折ってやる。


 これで八強が出揃った。


 ―――次からは、いよいよ死闘が始まるのだ。

 




―――――――――――――――――

総合日間ランキング一位取れましたぁぁぁぁぁあ!!!!!!!

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