第79話 ノルウィン対レイモンド1
『さあ武術大会幼少の部は本日から二回戦が行われる訳ですが、早くも第一試合から優勝候補がぶつかり合います!』
アリーナの右端に立つ俺は、向かい側で槍を持つ少年を見た。
レイモンド=フォン=アイゼンブルク。
武においてバルトハイムと双璧を成すアイゼンブルク侯爵家が誇る天才。まさか彼とこんな早くに当たることになるとは。
『まずはこちら、ノルウィン選手!予選から他を寄せ付けぬ圧倒的な実力を見せ、ここまで楽に勝ち上がりました!その全力は未だ計りしれず、ここも容易く抜いていくのか、それともようやく底を見ることがかなうのか!?』
そんなに囃し立てなくても、嫌でも見せることになるだろうよ。
ふぅ、落ち着け。落ち着け。レイモンドの速度域で戦うならミスは許されない。冷静に、普段通りでいこう。
『そしてもう一方、レイモンド選手!予選から全試合を神速の槍で勝ち上がり、憐れ対戦相手はなにも出来ずに沈んでいった!彼の速度がノルウィン選手を越えるのか、それともここで止まるか!読めない、全く勝敗が読めない対戦カードだァ!』
怒号のような大歓声が沸き起こる。しかし今の俺にとってそれは無駄なモノに過ぎない。
必要なのは、己と槍、そして対戦相手のレイモンドだけ。
その他は、意識から削ぎ落とす。
「はっ」
どうやら向こうも同じ感覚らしい。極限の集中力、彼の全神経がこちらに降り注ぐ。
「ノルウィン君。ごめん。僕が勝つよ」
「いーや、俺だね」
「そっか」
「この言い合いは平行線だな」
「そうだね」
だから、槍で優劣を付けよう。
そう言うかのように、レイモンドは槍を緩やかに握る。構えはない。構えという堅さは、超速度の持ち味を殺してしまうから。
だからこそ、その速度域で戦うと決めた俺もまた、構えをしなかった。
審判の指示に従って定位置に着く。レイモンドとの距離は凡そ五メートル。はぁ、これもずるいよなぁ。だってスタートと同時に踏み込んでくるだろ。流石にそれは妨害できないぞ。
向かい合い、見つめ合う。今はこの場に俺達が二人。他は全て不純物だ。
沈黙のなか、緊張感が際限なく高まっていき、そして―――
『試合開始!』
合図と同時に、レイモンドが全力で地面を踏み込んだ。
⚪️
「
残像を纏ってレイモンドが駆ける。あまりにも速すぎる踏み込み、恐らくは無意識下で身体強化まで使ってるのだろう。
振り抜かれた一閃を槍で受けると衝撃で身が浮いた。速さはそのまま力になる。例えレイモンドが非力な少年でも、勢いに乗ればこうまで化けるのだ。
「ヤバッ!?」
そして身が浮いたと思った次の瞬間には、槍を引き戻したレイモンドが追撃を放っていた。あまりにも速く鋭いコンビネーション。
槍での防御は間に合わない。故に俺は迫り来るそれを片足で蹴飛ばし軌道を逸らす。
「うそ······あ、そういうことか」
俺の蹴りに驚いたレイモンドだが、次の瞬間には全てを悟って冷静さを取り戻していた。
筋量の差で腕よりは足の方が強い。それで弾かれた槍は引き戻すのに時間を要するだろう。
しかし、だから俺が有利―――とはならない。ただでさえ身を浮かされた状態でさらに蹴りを放てばこちらも体勢が崩れるのだ。
どちらも崩れたら、先に立て直すのはより速いあっちの方だろう。
レイモンドは、その流れ全てを一瞬見ただけで把握しやがった。
でも、これはどうだ!?
早速立て直して神速の突きを放つレイモンドに対し、倒れ行く俺は地面に槍を突き立てることで第三の足とし、またしても蹴り技で対応する。
それから槍で地面を叩いて身を起こし、起こした勢いにさらに体重移動まで乗せて、上段から全力で槍を振り下ろした。
「あぶな!?」
それを容易く回避したレイモンドが数歩下がって冷や汗を拭う。
「ホント、とんでもない反応速度だなオイ」
「見てからの攻撃なら、大体全部避けられるよ」
つまり俺の攻撃は通じないってことか。
ならどうする、と考えるまでもない。
見て避けるタイプの相手には偽りを見せてやればいい。
フェイントは俺の十八番だ。
今度はこちらから踏み込んだ。そして視線、重心、槍、全てにフェイントを仕掛ける。これで少しでも揺らげばいいが、
俺が詐術的な構えを取った瞬間、レイモンドはあえて速度を落として『見る』ことに徹した。
どの動きがブラフで何が本命なのか、直前まで引き付けて判断しようという視線。
普通なら引き付け過ぎるのは間に合わない。それでは攻撃が近すぎて、フェイントを見切った後に回避する余裕がないのだ。
だが初動から全速力を出せるレイモンドなら―――
「うん。見える」
後の先、見てから容易く対応された。そして俺の突きに対してカウンターを放ってくる余裕っぷりまで見せてくる。
「は、マジかよ」
これは、ヤバイなぁ。いや、戦えてはいる。レイモンドも真剣な表情をしているし、接戦ではあるのだ。
しかし、接戦から崩すには相当な労力がいるだろう。
はぁ。俺って槍だけだとこの程度なのね。
魔術使いてぇ。使ってさっさと終わらせてぇ。
でも駄目だ。ここで見せれば、後の強者はそれに対応してくるどころか、俺の魔術全てを警戒してくるだろう。それは今後の選択肢を大きく削ぐ行為だ。
勝てるうちは、手の内は隠す。
「ふぅ」
技量や力で拮抗する相手と戦う時はどうやって勝つか。
以前そう聞いた俺に、シュナイゼルはこう答えた。
『そりゃ消耗戦だろ。テメェのスタミナに絶対の自信があるなら、振り回して疲れさせればいい』
俺は、同年代の中でなら一番身体を動かしている自信がある。スタミナは豊富な方だろう。
「よし」
「続き、やるの?」
「勿論。次は消耗戦だ」
「いいね、それ」
俺達は互いに獰猛な笑みを浮かべて、再びアリーナの中心で衝突した。
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サラ虐をする私ですが、コメント欄で一部の過激派読者様から10話だの20話だの更新しろって作者虐をされていますwwwクッソwww
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