第50話 複雑な気持ち
本日9月27日は2話更新しています。これはその2話目にあたります!まだ1話目を読んでない方はそちらからお願いします!
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「二週間後にシュナイゼルん家に寄るで」
そう言ってアルマイルは去り、その後しばらくして俺もシュナイゼルの屋敷に帰った。
王城から馬車で帰ってきた俺を出迎えたのは、シュナイゼルの副官らしき人物であった。
確か名前はヴァーゼルだったか。俺を送るために王城から付いてきたそこそこ偉そうな人がペコペコ頭を下げているから、この人も偉いのだろう。
「ミーシャとかいう君の専属が帰りを待っていたぞ。行ってやるといい」
「分かりました。あ、これから二週間は魔術の訓練に集中したいので、稽古場に顔を出せないかも知れません」
「了解した。何かあればそう伝えておこう」
ヴァーゼルとの短いやり取りを済ませ、俺は自室に向かう。見慣れた、だけど久し振りに見る気がする自室は、いつも通り埃一つなく掃除がなされていた。
布団はシワ一つなく畳まれ、勉強机には俺が学び途中の本が綺麗に整頓され、クローゼットも丁寧に服が仕舞われている。
不器用かつ面倒臭がりな俺がこんなに出来るはずがない。やったのは全てミーシャだ。
毎日俺のために過ごしやすいよう整えてくれているのだろう。
ドアを開ける音に振り返ったミーシャが、俺の脚を見て安堵を顔に浮かべた。
「ノル、お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
「足はもう大丈夫なんですか?」
「はい。信頼できる方にちゃんと治療して貰ったので。一応、しばらくは激しい運動をするなって言われてるんですけど、他は特には」
「良かった。本当に良かったです」
もうお前は一歩も歩くなと言わんばかりに俺を抱き抱えたミーシャは、そのままベッドに腰を下ろして俺を膝に座らせた。
後ろから抱き締められるような体勢。色々と当たるものがあるし、女の子の甘い匂いがヤバい訳だが、何故だか下心は沸いてこない。
むしろ安心感というか、背後から身体全体で抱き締められるのは、心が落ち着くのだ。
とはいえ、こうしている時間すら今は惜しい。
「あの、ミーシャさん?やりたいことがあるので離して貰いたいんですけど」
「勉強ですか?」
「いえ、魔術の訓練をしようと思いまして」
「それって今すぐじゃないと駄目なんですか?」
「いや、今すぐって訳じゃないですけど、時間は無駄にしたくないなぁって。あ、その、ミーシャさんといる時間が無駄って訳じゃないですよ?でもほら―――」
「ふふ、分かってますよ。ノルが頑張ってるのは私が一番近くで見てるんですから」
そう言って小さく笑うミーシャ。しかし離してくれる気配はない。何となく気まずくて取り敢えず黙っていると、少しして再び話し掛けられた。
その声は、僅かに震えていた。俺を抱き締める身体も震えていて、抱き締めるより離れていく俺を引き留めるような、そんな感じがした。
「ノル。もうあの頃と違ってノルは自由なんですよ?もっと楽にしたっていいじゃないですか」
「······」
「もう、軟禁から抜け出すために力をつける必要もないんです」
「そうですよね」
「私はノルの事が好きです。私が何とかしてあげないとって、最初は同情みたいな気持ちでしたけどね。でも今は弟か、まだいないので分からないですけど、子供みたいに大切に思ってます。だからノルが危険な目に遭うのは、とても胸が痛むんです」
震える声を絞り出すように、ミーシャはゆっくりとそう言った。
その言葉が指すのは今回の脚の件だけではないのだろう。ミーシャと共に過ごしてからずっと、俺は何かしら危険に身を侵してきた。
それは、最初こそ軟禁から逃れるために必要なものだったけど。ミーシャは、でも今はそうじゃないだろと言いたいのだろう。
そうだよなぁ。
普通に考えて、一切の遊びもなく鍛え続け、休みの時間すら無駄にせず勉強してる六歳児ってヤバすぎる。
俺目線ではクレセンシアという絶対の推しを救うためという目標があり、なおかつ自分が強くなるのはゲームをしているようで楽しさすら感じている。
おまけに引きこもりだった俺にとって、なにかに打ち込める時間って新鮮だ。
でもそれを知らない人から見たら、俺という人間はハッキリいって異常なんだよな。
これをどう伝えよう。共に過ごして来たミーシャだからこそ、クレセンシアに惚れていてそのために全力を尽くしたいだなんて言えない。これまでの生活の中で、この気持ちをミーシャに匂わせてすらいないのだから。
今は、隠すしかないのかな。
「すみません。当分この生き方を曲げる気にはなれないです。その、心配されているのは分かっているんですけど、でも―――」
「はぁ。私はだめだめですね」
「そんなこと無いと思いますけど」
「いえ。一人で危ない事をしちゃうノルが怖くて、こうして抱きとめてないと安心出来ないんです。束縛なんて、嫌な思い出しかないはずなのに」
これは、一体どうすればいいのだろう。
クレセンシアを救いたい気持ちがある。シュナイゼルの弟子という立場がある。
軟禁から抜け出すために得た立場だけど、これは俺を危険へと誘うモノでもあるのだ。
今さら嫌と言えるものではないし、クレセンシアを巡る戦場へも、既に足を踏み入れつつある。
でも、ミーシャの心配を無碍にもしたくないのだ。
「本当に駄目な保護者ですね。小さい子に弱音を吐くなんて。それを受け止めてあげるのが私のやることなのに」
「そんなこと、ないです。俺はミーシャさんがいてくれて凄い助かってます」
数秒、沈黙が場を満たす。きっとそれがミーシャの迷いなのだろう。
「それなら安心です。はぁ、しんみりするのはやめにしましょう!はい、ノル。魔術の勉強をしていいですよ。私は仕事に戻りますので!」
空元気で俺を解放したミーシャに、俺はどんな言葉も投げ掛けることが出来なかった。
彼女がやめろと言う方へ自ら進んでいく俺は、どうすればいいのだろう。
曖昧な状況に答えを出せないまま、俺たちは日常を再開する。
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ちょっとミーシャにスポットを当ててみたり。
このままミーシャ回と魔術の訓練をごちゃ混ぜにしたカオスな話が進む予定です。もう忘れられてると思いますが、あと数日でミーシャの誕生日ですしおすし
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