第49話 試験!?

「師匠としては不甲斐ないから、せめて魔術が伸び悩んでる自分の力になりたいんやってお願いされてなぁ」


「そうだったんですか」


 シュナイゼルがそこまで考えて俺のために行動してくれていたのは素直に嬉しいな。

 にしても不甲斐ない、か。

 俺的には不甲斐ないどころか、肝心な場面で絶対に勝ちをもぎ取る最強戦力って認識なんだけど。


「あ、今の内緒にしとけ言われた話やねん。おもろそうやからゲロったんやけど。ワイが言ったって言わんといてな?」


「おい」


 思わずため口で突っ込んでしまう。アルマイルは愉快げにヘラヘラと笑うのみであった。


「まあまあ、ええやん。人の好意は知っても嬉しいだけやろ?」


「そうですけど」


「そーいうわけで、話戻そか。自分はどないすんねん。今から魔術の練習みてもええよ」


「随分と急な話ですね」


「そりゃあな。脚は治っても今日は絶対安静やで。動けんのやし、この時間有効活用せえへん?」


 百理ある話だな。

 このようにふざけ倒しているアルマイルだけど、彼女も暇な時なんてほとんどないはずだ。 

 俺のために時間を作ってくれた今、魔術を見て貰うべきなのだろう。


「ではお願いします」


「ほいほい。ワイに任しーや。この国で一番の魔術師は間違いなくワイやからな。あ、世界では知らん。多分五指には入っとるやろ」


「そこは自信持って下さいよ」


「まだまだピチピチの二十代やねん。上の世代のバケモンには敵わんて」


 冗談に聞こえるけど、事実なんだよなぁ。

 実際その言葉通り、アルクエのとあるルートにて、アルマイルは敵国の魔術師との戦闘で命を落とすのだし。


「んじゃ始めよか」


 そうして、アルマイルとの魔術の訓練?が始まった。








「とりあえず、自分、どんだけ魔術出来るん?」


「どれだけ······」


 主要五属性である火、水、風、土、光の第一、第二階梯魔術を全て習得しており、なおかつ光属性以外は無詠唱で発動出来ること。

 聖属性も第一階梯までなら発動出来ること。

 そして恐らく自分の得意属性が風と土であることを伝えた。


 この際、第三階梯魔術も使える点は伏せた。

 ゲームの知識からそれを知ってはいるが、本来第三階梯以降の情報は秘匿されており、特別な許可がなければ学ぶことが出来ないからだ。

 強い魔術を求めるなら第三階梯は必須になるが、それを学ぶのはだいぶ後になるだろう。


「なるほどなぁ。ほんなら、今後は第三階梯からやるか」


「マジすか!?」


「マジよマジ。ただまあ、簡易的な試験は受けて貰うで?それ合格したらワイが直々に第三階梯の学習を許可したるわ。こう見えてもワイ、それくらいの権限はあるねん」


「ありがとうございます!」


 まさかこんな棚ぼたがあるとは思っていなかった。

 試験を合格するという条件付きとはいえ、本来ならより複雑で面倒な過程をこなさなければならないところをスルーできるのだ。

 これはシュナイゼルに感謝しなければならないだろう。

 隠れて訓練しなくて済む分、今まで以上に効率よく学べることになる。


「んで試験内容やけど、そんなムズいもんやない。ちょいと手ぇ出してや」


 頼みに従って右手を差し出すと、アルマイルはそれを握り締めてきた。


「あの、何をするおつもりで?」


「感覚共有の魔術をな。だいぶ違和感あるやろうけど我慢したってや。ワイがどんな風に魔力を操作して魔術を発動しとるか、直接教えたるから」


 そう言うが早いが、アルマイルは火属性第一階梯魔術、《フレイ》を発動させた。

 それ自体は俺も簡単に発動出来る魔術だ。なんなら無詠唱で、同時に二つだって行えるだろう。


 ただ、それは『出来るだけ』であったことを、俺はこの瞬間思い知らされた。


「―――ッ!?」


 感覚共有、右手を通じて流れ込むアルマイルの魔力操作の情報は、これまでの常識を全て引っくり返すような内容であった。


「どうやった?」


「い、や。これはっ、その」


「ははは、言葉にならんか。まあ仕方無いわ。みーんな最初はそういう反応をするねん。同じフレイでも、工夫一つで全然ちゃうやろ?」


 虚空には白仮面達が用いた強力な魔術にも引けを取らない火力を秘めた《フレイ》が浮かんでいた。


 それを握り締めて鎮火させ、魔術師団長は不敵に笑う。


「一般的な魔術っちゅうんは、体内か体外で種類ごとに決められた魔力操作を行うことで発動出来るようになってんねん。詠唱はその補助やな。魔力操作が下手な実力の無い奴ほどそれに頼って、結果として抜け出せなくなっとる」


 それは原作通りだ。

 魔力操作の補助となる詠唱に頼りすぎた結果、それなしではなにも出来ないという魔術師が大半であった。無詠唱は実力者の証である。


「いや、詠唱を馬鹿にしとるわけやないで?過去にめっちゃ賢い奴らが大勢集まって、あーでもないこーでもないって言いながら作り上げた立派なモンや。でもなぁ、詠唱をしてまうと、それによって決められた以上の効果は発揮できん。ワイのは、その制限から解放された方法や」


 そう。魔術における重要な点は、詠唱は便利であるがゆえにそれに縛られるという事。多少の融通は利くが、効果の大部分は固定されてしまう。

 だからこそ俺は早々に詠唱を捨てた―――いや、嘘です。たまたま好き勝手訓練してたら詠唱が要らなくなっただけです。はい。運がよかったです。


 ―――今の説明から分かる通り、従来以上の火力を持つ《フレイ》は、詠唱を用いない、かといって俺の発動方法とも異なる、特殊な方法で成り立っていた。


「感覚共有で、今のワイのやり方は理解出来たやろ?それを2週間で自分のモノに出来たら、第三階梯の許可を出したるわ」


「今の、理解は出来たんですけど、再現はほぼ不可能だと思うんです。せめて一ヶ月は欲しいんですけど」


「あかんわ。それじゃ武術大会に間に合わへん。まあ無理なら無理でまた別のメニュー考えとるけど、どないする?」


「······」


 そうか。俺が今のを習得した上で、敵の襲撃に備えて欲しいのか。

 それなら確かに二週間がデッドラインだ。

 いや、でも、それでも今の方法は、これまでの魔術の鍛練が全て無駄になるような、それほど革新的な技術であった。


 二週間で出来るか?


「あの、やってみます。やってみます。でももう一度だけ感覚共有をして貰いたいんですけど、ダメですか?」


「なんや、全然構わへんよ」


 そうして再びアルマイルの神業を我が身で体感し、その魔力操作における特徴を細部まで完璧にメモしてから、俺の新たな訓練が始まった。


 期限は二週間。


 この試験の結果次第で、俺の成長速度は劇的に変化するだろう。絶対に失敗できない。






―――――――――――――

訓練って言ったのに試験になってて草

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