第47話 アルマイルのお願い?
「まあまあ、そんな睨まんといてや。ワイ、自分の脚治すために来たんやで?」
あーと、なるほど?
「すみません。そもそも俺······私、何でここにいるのかも分かってないんですけど」
「ほんなら教えたるから、それで気ぃ悪いの直したってや。あと、普段使いが俺ならわざわざ私って言い換えんでええよ」
笑いたくなるようなエセ関西弁でアルマイルが語り始める。その内容は聞けば納得できるものであった。
―――アルマイルの言葉を信じるなら、子供の身体で半日も死地にいた無理が祟ったのか、俺はあれから丸二日寝続けていたらしい。
その間にシュナイゼルは俺の脚を治す算段を付けたのだが、相手も国が抱える魔術師なだけあってスケジュール管理が忙しく、寝続ける俺を待つことは出来ない。
寝たままでも治療は出来るため、取り敢えず俺を王城に運んで今に至るのだとか。
「そういうことだったんですね。でも、そしたら王女殿下がいらっしゃったのは何故でしょう?」
「さあ、そこまでは知らんよ。ただなぁ、今ここは人払いされとるから、意図的に来たんなら隠れたい理由でもあったんやないか?そこを護衛に見つかった、的な?」
ううむ。一応納得は出来る推測だなぁ。
とはいえ俺はクレセンシアのことをなにも知らない。これで決めつけるのは止めておこう。
「事情は分かりました。ありがとうございます」
「ええってええって」
「それで、どなたが俺の脚を治して下さるのでしょうか?」
期待も込めてアルマイルの目を見ると、ニコニコと微笑まれた。
「当然ワイやで」
よっし!これはいい流れだぞ!
強い魔術を習得するために、強い魔術師を師に仰ぎたい俺にとって、これ以上の人選はない。
アルマイルはアルクエで多少の人となりを知っているから、不安も少なくて済むしな。
なんて一人で喜んでいると、アルマイルが驚愕の一言を放った。
「ちゅうか、もう治ってるで?」
「えっ!?」
慌てて脚に目をやるが、そこにあるはずのモノはまだ再生していない。
「あ、すまん。嘘やったわ」
「ちょ、冗談でも止めてくださいよ」
「すまんすまん。まあでも、ホイ」
ホイ、などという軽い口調で、アルマイルは右手を俺にかざした。さっきジジイの記憶を消した時と同じ。詠唱をすることなく、彼女は超高難易度の魔術を弄ぶ。
膨大な、俺の総量を容易く上回るほどの魔力の胎動。攻撃魔術に転用すれば数百人は一度に殺せそうなそれを用いて、アルマイルは聖属性第九階梯魔術、《リザレクション》を発動させた。
俺の全身を銀色に輝く光が覆う。やがて光は失った右脚付近に集中し、そして―――
「す、げぇ」
あっという間に、カサンドラに奪われた右脚が治っていた。
おお、動く!すげぇ!マジでにょーんって生えてきた!気持ち悪!でも俺の脚だよなこれ!
これが、魔術師団長の腕前か。
この一年、死ぬ気で回復魔術だけを学んできたミーシャが、限界を超えて回復魔術を掛けても治らなかった怪我が、こんな簡単に。
思わず感動すら覚えてしまう。お礼を言うべく脚から視線を外してアルマイルを見ると、彼女は―――
親指と人差し指で輪っかを作っていた。端的に言うと、金寄越せのサインである。
俺の感動を返せ。
「なんやノルウィン。好きな女脱がしたら全身毛むくじゃらで萎えたみたいな顔しとるで」
「あの、仮にも俺六歳なんですけど。その例えはどうなんでしょう」
「この例えの意味が分かっててなおかつその反応すんなら大丈夫やわ」
確かにそうだけど。いやそうじゃなくて!
「ごほんっ、話を戻しますけど!脚を治して貰った後に言うのは卑怯かもしれませんけど、でも俺そんなお金持ってないです」
「知っとるよ?ちゅうか代金はシュナイゼルからもぎ取っとるし」
「じゃあいいじゃないですか!」
なんだよ。俺はからかわれてたのかよ。
ホント、よく分からない人だ。
「ちゃうちゃう。それとは別に、自分とワイで契約せんっちゅう話や」
「はい?」
突然の提案で話が見えてこない。アルマイルは何が言いたいのだろうか。
「なあ、ノルウィン―――」
アルマイルは、真剣そのものの表情で懐から布切れを取り出した。よく見ればそれは絹のように滑らかな質感で、相当高価なものであるとうかがえる。
「ここに、ノルウィンが大好きなクレスたんのハンカチがあんねん。勿論バッチリ使用済み。これで口を拭いてたのをワイが確認しとる」
ほう?
「これで買収したるから、一個ワイのお願い聞いてくれへん?」
「勿論ですとも」
「ほんまか?」
やっぱりな!アルマイルって良いやつそうだなって思ってたんだよ―――って、
「んな訳あるか!」
「おお、キレイなノリツッコミやな。でも残念や。このお願いを聞いてくれへんと、最悪クレスたんが死んでまうかもしれへんのに」
え?
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