<共通ルート フレンルート> 五章 動き出す思惑

 翌日私達は王国魔法研究所へと訪れる。今日は変装したフレンさんも一緒だ。


(変装って言っても帽子をかぶって顔を隠しているだけなんだけれどね)


それにしても隠し切れない気品のせいでお父さんの服がぼやけて見えてしまう。


(やっぱりフレンさん用に服を一着用意しておくべきだったか?)


今日一日だけだから服を買う必要はないというフレンさんの言葉に私達は代わりにお父さんの服を貸してあげたのだけれど王子である彼のオーラはまったくと言っていいほど隠しきれていない。やはりフレンさんに似合う服を見つくろってあげた方がよかったのだろうか……などと考えていると王国魔法研究所の中へ通される。


「やぁ、ティア。フィアナ。本当にオレに会いに来てくれるなんて思ってなかったよ」


「貴方に会いに来たのではなくて、わたし達に用があってきたのだと伺ってますけれど?」


しばらくするとレオンさんとヒルダさんがやって来た。彼から受け取った紙切れに書いてあった住所がここだったのでここに来たのだけれど、まさか本当に王国魔法研究所にいるとは思わなかったな。


「そ、それで……わたし達に何の御用でしょうか? もしかしてこの前のお話の事で、何か困った事でも?」


「あ、いえ。違うんです。今日は私達が用があるのではなくて、この人がお二人に聞きたい事があるということで」


「聞きたい事? って、何?」


ヒルダさんの言葉に姉が答えるとレオンさんが不思議そうに首を傾げる。


「ちょっと聞きたい事があるのだが、お前達は隣国から来たのだろう。なら、二人なら何か知っていることがないかと思って――」


「っ!?」


「っ! あんたは……なんでここに?」


フレンさんがわざと帽子を取りそう言って話しかけると二人は明らかに驚き動揺した。


フレンさんの言っていた通り、この二人は何か知ってるんだ。


「どうした? 何を驚いている。まるで幽霊にでもあったような顔だな」


「……本当に生きていたんだな。もしやと思い探し出すよう命じられていたけれど……まさかあんたからわざわざ会いに来てくれるなんてね」


彼の言葉にレオンさんが見たこともない鋭くて冷たい眼差しをフレンさんへと向けると急に空気が変わったように感じる。どうしてか分からないけれど体が勝手に震えてきた。


「ち、ちょっと。レオン待ちなさい。ここは王国魔法研究所よ。そんな所で騒ぎなんて起こさないで。それに……っ!」


「「「「!?」」」」


ヒルダさんが止めるように話していたかと思うと何かを決心した様子で腕を掲げる。すると辺り一面が真っ白に染まり私達はあまりの眩しさに目を閉ざした。


「……逃げられたか」


「今のも魔法なの?」


再び瞳を開くとそこに二人の姿はなくなっていてフレンさんが呟く。姉も何が起こったのか分かっていないといった顔で尋ねる。


「あぁ、転移魔法だろう。おそらくもうこの近くにはいない。探し出すことも可能だが、あまり外をうろついていると俺の命を狙うやつらに見つかる可能性がある。ここは一度家に戻ろう」


「でも、これではっきりしたんだね。本当にあの二人はフレンの命を狙った黒幕と繫がっていたって」


彼の言葉に姉が未だに震える体をごまかすかのように話す。


「俺が行方知れずとなった時期と同じタイミングでこの国に潜伏してきた。俺が万が一生き残った場合身を潜めるのに一番安全な場所はこの国だからな。と考えれば自然と答えが導き出される。……今すぐここで命を狙われなかったのはよく分からないが、どちらにしろ相手から仕掛けてくるしかない状況にはなった。となれば後は俺達はただ待つだけでいい」


「でも、ヒルダさんとレオンさんがどうして……そして二人に命令を出している黒幕って一体誰なんでしょうか?」


フレンさんの話を聞きながら私はあの二人が彼の命を狙う黒幕とかかわりがあることが未だに信じられなくて尋ねる。


「……普通の人では逆らえない人。だから命令に従うしかない。そう考えれば辻褄は合うだろう」


「フレンさん?」


なぜか悲しそうに瞳を揺らしながら話す彼の言葉に私は首を傾げた。


「いや。まだそうだとはっきり決まったわけじゃない。……とにかく一度家に戻るぞ。それから相手の出方次第ではなにか作戦を考えておかないといけないからな」


フレンさんはそれだけ言うと歩き出していってしまう。私と姉は顔を見合わせたが答えがわかるわけでもないので後を追いかけて行った。


それから家に帰ると張り詰めていたものが一気にほどけて私と姉は盛大に息を吐き出すとその場に脱力して座りこんでしまう。


「大丈夫か? 危険な賭けに出たが、やはり二人はこの家で待っていてもらった方がよかったか」


「うんん。そんな事ないわ。フレンだけだったら命を狙われていたかもしれないし」


「そうですよ。危険だと分かっている人達の所にフレンさんだけで行かせられるはずないです。だから私は危険だと分かっていてもフレンさんと一緒にどこまでも付いていきます」


「ティア、フィアナ……有り難う」


彼の言葉に私達は笑って答える。それを聞いたフレンさんが嬉しそうに微笑みお礼を言った。


さて、ヒルダさんとレオンさんが何時仕掛けてくるのか分からないし、ずっとこのまま腰を抜かしているわけにはいかないよね。


「さぁ、作戦会議をしなくちゃ。二人がどんな手を使ってくるのか分からないんですから」


「なんだかフィアナ。頼もしくなったわね。……いつまでも世話の焼ける妹だと思っていたのに……フレンのおかげかしら」


立ち上がりそう宣言した私へと姉が何事か呟いていたがうまく聞き取れなかった。


それから作戦会議を始めてありとあらゆる手を考えつくしいつでも迎え撃つ心持で待っていたのだがお昼になっても夕方になっても何も起こらなくて気が付いたら夜遅くになっていた。


「「ふ……ふぁあ~」」


「ティア、フィアナ。眠いならねむってきていいんだぞ」


「いいえ、何が起こるか分からないんだもの。気を緩めてなんていられないわ。フレンだけにした途端襲ってくるかもしれないじゃない」


思わずあくびをしてしまった私達へと彼が優しく言い聞かす。そんなわけにはいかないと姉が言うと私も力強い瞳で彼を見詰めた。


「それなら交代で仮眠をとろう。ティアかフィアナが先に休んでくれ。俺は最後で構わない」


「ならお姉ちゃんが先に休んで。私はもう少しだけ起きていたいから」


「フィアナ……分かったわ。それじゃあ少しだけ休ませてもらうわね」


フレンさんの言葉に私が姉へと声をかける。その言葉に姉が了承するとリビングのソファーへと横になって目を閉ざした。


そうして一時間が経過したころ。私もついに睡魔が襲い始めて舟をこぎ出す。


「フィアナ。眠いなら寝ていいんだぞ」


「! いいえ。大丈夫です」


声をかけられ私は慌てて目を開くと答える。


「その……俺一人では人間の姿に戻ることもできないまま途方に暮れていただろう。だからそのことに関しては本当に感謝している。……お前達姉妹を巻き込んでしまい本当に申し訳ないと思っている。本当は怖くて仕方ないだろう。二人の事は必ず俺が守り抜いてみせるから、だから安心してくれ」


「フレンさん……私達は巻き込まれたから仕方なく助けているんじゃありません。フレンさんの事を本当に助けたくてだから協力しているんです。フレンさんが死んでしまうなんて嫌なので、だから……」


「フィアナ……」


申し訳なさそうな顔でそう語りかけてきたフレンさんへと私は素直な気持ちで答える。そんな私の顔をじっと見つめて彼は何事か考えているようだったが、決意した様子で再び口を開いた。


「その、ずっと気になっていたんだが。俺が元の姿に戻ってから何だか急によそよそしくなっていないか?」


「よそよそしくだなんて、そんな事ないですよ」


彼の言葉の意味が分からなくて私は疑問を抱きながら答える。


「それならなんで敬語なんだ? 犬の姿の時はもっと普通に話していただろう」


「そ、それはフレンさんが王子様だって知らなかったので」


フレンさんの言葉に私はそう答えた。今から思うと隣国の王子様にとても失礼な事ばかりやっていたのよね。


「こんなことになるならずっと犬のままの方が良かったな」


「え?」


溜息交じりに言われた言葉に私は驚く。


「俺が王子だと知ったから敬語になったのならば、俺は何者でもないただの犬の姿のままの方がよかったという話だ。フィアナに敬語を使われるくらいならただのフレンのままでいればよかった」


「フレンさん……」


フレンさんが王子様だって知って確かに雲の上の存在だと思って、私には到底届かない世界の人だと。側にいてはいけないと分かっている。でも、彼はそうじゃなくていいのだと側にいていいのだと言いたいのだろうか。


「王子ということを抜きにして、俺の事どう思っているんだ?」


「フレンさんはフレンさんですよ」


彼の言葉に私は素直に思ったままを答える。フレンさんはフレンさん以外の何者でもない。私の知っているフレンさんは優しくて、親切で、礼儀正しくて、私達姉妹の事をいつも気にかけてくれる。そんなフレンさんだからこそ私も姉も好きになったのだ。


「……なら、もう敬語はやめてくれ。よそよそしくされるのは好きじゃない。今まで通り普通に話してくれるな?」


「フレンさん……分かった。フレンさんがそうしてもらいたいと思っているのなら、私は今まで通りに普通に話すようにするね」


許されることではないのかもしれない。だけど、神様……今だけは王子様でも何者でもないただのフレンさんの側に……友人として側にいる事を許してください。


「有り難う」


フレンさんが嬉しそうに微笑む。ただこの優しい人を守ってあげたい。命を狙われるかもしれない。それでもいい。自分の命よりも何よりもこの人を助けたい。この気持ちは一体何なんだろう。いつかそれが分かる日が来るのかな?


*****


≪オルドラ王国の路地裏≫ (共通ルート 分岐点)



「おい、せっかく王子を見つけたのになんで逃げたりなんかしたの?」


「あの場所で騒ぎを起こしたら問題になると思ったからよ。それに……あの子達が王子の側にいたのよ。巻き込むわけにはいかないでしょ」


「それは確かにそうだけど……」


人気のない路地裏でレオンが隣にいるヒルダへと話しかける。それに彼女が答えると彼は口ごもる。


「それよりも、なんであの子達王子と一緒にいたのかしら?」


「確かに……って、あっ」


不思議がるヒルダへと彼が思い出したといった感じの顔をする。


「どうしたの?」


「ヒルダの所にあの子達が来た時に聞いてきた言葉だよ。魔法の失敗で動物になってしまった人を元に戻す方法」


急にどうしたのだといった感じで彼女が見上げるとレオンが説明するように話す。


「確かにそんな事なんで聞いてきたのか不思議だったけど……っ! そ、そういうことね。あの人が王子にかけた魔法が失敗して動物に姿が変わっていたってこと」


「彼女達が動物になった王子を助けた……そういうことだったんだ。動物になっていたんならそりゃどこを探しても見つかるはずもないし、探知魔法に反応するはずもない」


その言葉にヒルダも答えに行き付いた様子ではっとした顔になる。彼がそう言うと深刻な顔で黙り込み何事か考えているようだった。


「これからどうするんだ?」


「……王子を見つけた以上は消すしかないわ。でも……」


「オレはあんたの判断に任せる。どのみちオレ等はあの人達にとってただの使い捨ての駒にしか過ぎないんだからな」


レオンの言葉に彼女はまだ何かを迷っている様子。その姿に彼がそう言って笑った。

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