<共通ルート分岐点> 三章 王国魔法研究所

 フレンさんが家に来てから三日目となった今日。借りていた本を読み終わったが結局手がかりを見つけることはできなくて。何か他に方法はないかと姉と手分けして街の中で情報を探してみる事となった。


「とはいったものの……手がかりなんてなかなか見つからないのよね。はぁ~……やっぱり魔法国家である隣国にでも行かないと難しいのかな?」


「! ……そこのお嬢さん。少し宜しいですか?」


手がかりも見つからないし市場で買い出しして帰ろうかと思っていた時に誰かに声をかけられる。


「え? 私……ですか?」


「はい、そこの貴女です。……う~ん」


驚いて振り返ると優しい笑顔が素敵な男性が立っていた。しかし彼は私を頭の先からつま先まで見やると困った様子で唸る。


「?」


「いや、失礼。仕事をしてくれそうな大人の女性を探していたのですが。見たところ貴女はまだ幼いようですから、依頼主の条件に合わないなと思いまして。……呼び止めておきながらすみません」


不思議そうにしていると男性が苦笑して説明してくれた。


「それよりも、何かお困りのようですが、どうかされたのですか?」


「ええっと……」


男性の言葉に如何しようか迷ったが何か情報がつかめるかもしれないと思い口を開く。


「実は私魔法や魔法使いについて調べてまして……」


「魔法や魔法使いについて……ですか? また珍しいものを知りたがりますね。どうして調べているんです」


私の言葉に彼が不思議そうな顔をして尋ねる。そりゃ隣国でならともかく魔法が浸透していないこの国でそんなのを調べていたら気になるわよね。だけどフレンさんの事は話せないし。嘘をつくのは親切に話を聞いてくれるこの人には申し訳ないけどどう説明したら……。


「それは……」


「……まぁいいでしょう。お困りのようですし私が知っている事でよろしければ教えて差し上げます」


「本当ですか?」


言葉を探している私の様子に男性が柔らかく微笑むとそう言ってきた。私は思いっきり話に食らいつく。


「えぇ。ただしタダで情報を教えることはできません。情報と同じだけの価値がある物と等価交換するというのならば教えて差し上げましょう」


「等価交換?」


彼の言葉の意味が解らなくて不思議そうな顔をする私に男性がそうかといった感じの顔をして再び口を開く。


「情報を得るためにはそれと同等の価値がある物と等価交換するのが普通なんです。貴女が持っているものの中で情報と同じ価値があると思うものと貴女が欲しがっている情報を交換する。それが等価交換です」


(情報と同じ価値がある物と等価交換か……私何か持ってたっけ?)


分かりやすく説明してくれた言葉で理解はできたが何か物を持っていただろうかと財布の中を見るも情報と同等の価値があるとは思えない小銭が数枚しか入っていなかった。


(せっかくのチャンスなのに……仕方ない。とても大切なものだけど、フレンさんを助けるためならば。お父さんごめんなさい。でも、お父さんも人を助けるためなら許してくれるよね)


私は首にぶら下げていたペンダントを男性へと差し出す。


「これでどうでしょうか?」


「どれどれ……こ、これは!?」


差し出したペンダントを受け取り観察した途端彼の顔色が変わった。


「う~ん……」


(なんか困っているみたいだけどもしかしてあのペンダントそんなに高価な物じゃないのかな?)


何事か考えこむように悩む男性の様子に私はハラハラしながら様子を見守る。


「……これはお返しします」


「え?」


数分ペンダントを見ていた彼だったが私へとそれを差し出し返してきた。それに私が驚いていると男性が口を開く。


「貴女の熱意には負けました。本来なら等価交換しないといけませんが、今回は特別にタダで情報を教えて差し上げましょう」


「いいんですか?」


彼がそう言って微笑む。その言葉に私は本当にいいのかと尋ねた。


「ええ。それに……見たところそれはとても大切にしているもののようですし。そんな大事にしているペンダントを差し出すほど知りたい情報なのでしょう。ですから特別に今回は教えて差し上げます」


「あ、有難う御座います!」


にこりと笑い言われた言葉に私は嬉しくてお礼の言葉を述べる。


「王国魔法研究所へ行きなさい。そこにいるヒルダという女性が魔法や魔法使いについて詳しく知っているはずですから」


「王国魔法研究所?」


魔法研究所なんて聞いた事ないけどそんな所が存在しているのかな?


「この国は魔法国家であるザールブルブ王国と友好関係を結んでいます。魔法使いをこの国に派遣しこの国は魔法について勉強し誰もが扱えるようになるための研究をしているのです。そしてオルドラ王国からは代わりに武術にたけた剣士を送り剣術についてを隣国に教えている。それが二つの国の外交の一環なのですよ」


「知りませんでした」


不思議そうにしている私に男性が説明する。ルシアさんもルキアさんもお仕事の内容についてはいくら信頼している私達にさえ一切教えてはくれない。だから外交でそんなことを取り組んでいるだなんて初めて知って驚く。


「まぁ。一般人にはあまり関係のないことですからね。知らない人も多いでしょう。……自己紹介が遅くなりましたね。私はカーネスと言います」


「私はフィアナです。カーネスさん有難うございました」


「いえ、では私はこれで失礼します」


見ず知らずの私にタダで情報を教えてくれるなんてカーネスさんてすごく優しい人だな。あの人この町では見かけた事のない人だけれど外交の事に詳しいしもしかしたらお城で働いている人なのかもしれない。


王宮で働いている人なら会った事なくても当然だし……というよりこの国に住んでいながら国王様の顔すら知らないからね。ルシアさんもルキアさんも王宮に民間人を入れることはできないから近づくな。用があるなら別館に来いっていつも言ってたから。この国の民としてそれでいいのかな? って時々思うこともあるけれど、ルシアさんやルキアさんが働いているから私達は少しだけ関わりがあるだけで、日常生活をしている限り一般人が王宮の人達と関わることはないものね。


「っと、そんな事よりも早く帰ってお姉ちゃんたちに教えないと」


私は言うと市場で買い物を済ませ自宅へと急いだ。


「お姉ちゃん、フレンさん。有力になりそうな情報を手に入れたよ!」


「え?」


「それは本当か?」


リビングへと駆け込むとすでに家に帰ってきていた姉とフレンさんへと私は言う。二人は驚いた顔で私を見てきた。


「うん。あのね、この国に王国魔法研究所ってところがあって、そこにいるヒルダさんって人が魔法や魔法使いについて詳しく知っているらしいの」


「凄い! フィアナすごいじゃないの!」


「だが、その情報は確かなのか?」


私の言葉に手を叩いて喜ぶ姉とは対照的に冷静な態度でフレンさんが尋ねる。


「帰りに雑貨屋によってルチアさんに聞いたんだけど、王国魔法研究所ってところはたしかに存在しているし、そこにヒルダさんていう魔法使いの女の子がいるのも確かだって」


「ルチアが言うなら間違いないわね」


「そうなのか?」


私が説明すると姉が嬉しそうに笑い頷く。その言葉にいまだに疑っているのかフレンさんが尋ねて来た。


「だってルシアとルキアからある程度の情報は聞いているルチアが言うんだもの間違いないよ」


「そもそもそのルシアとルキアって何者なんだ?」


姉の言葉にフレンさんが鋭く追及してくる。どうしてそこまで疑うんだろう? そもそも魔法をかけられたって言っていたけど、フレンさんはどうして魔法をかけられたりしたんだろうか。それが慎重になる理由なんじゃないだろうか……。


「えっと、ルシアさんは国王陛下に仕える主幹で、ルキアさんは王国騎士団の隊長を務めているの」


「だからその二人から話を聞いているルチアの情報は信じていいと思うの」


なんて考えていてもしかたないので説明すると姉も拳を握り締め力説した。


「……そうか。それなら信頼できる情報だな」


「「?」」


なぜかあっさり納得してくれたフレンさんの言葉に私達は疑問に思ったが深く追求しないことにする。


「明日早速そこへ行ってみようと思うんだけど」


「私も行くわ」


「待て、これは俺の問題だ。だから俺も一緒に行く」


こうして私達は翌日皆で王国魔法研究所に行くこととなった。


翌日。私達は王国魔法研究所へとやって来たのだが、動物を中へ入れることはできないと言われフレンさんだけ敷地の外で待っていてもらうこととなり、姉と二人で中へと入っていく。


「お、お待たせしました……わたしがヒルダです」


館内に入り受付の前で待っていると奥からメガネをかけた小柄な体格の女の子がこちらへと近寄って来ておどおどした態度で話しかけてきた。


「貴女がヒルダさん。あの、本物の魔法使いなんですか?」


「は、はい。……その、一応隣国では名のある魔法使いの弟子として経験を積んできましたので、ある程度の魔法なら扱えます。その……どんなことをお知りになりたいのですか?」


姉の言葉に彼女は小さく頷き話す。


「実は魔法の失敗で動物になってしまった人を元に戻す方法について調べているんですが、何か知ってますか?」


「魔法の失敗で動物にされてしまった人を戻す方法……ですか。あの……どうしてそんなこと知りたいんですか?」


私の言葉にヒルダさんは探るような目で私達を見てきた。


「そその、詳しいことは話せないんですが、カーネスさんからあなたなら魔法や魔法使いについて詳しく知っているって教えていただいたので、何か分かるんじゃないかと思い」


「カーネス……そう、貴女あの人の事知ってるの。……魔法の失敗で動物になってしまった人を戻す方法なんて簡単です。かけられた魔法が何かが分かればそれを解除する魔法と魔法の効果を打ち消す魔法を組み合わせた融合魔法をかければ動物になった人を元に戻すことができます」


カーネスさんの名前を聞いた途端彼女の雰囲気が変わったように感じたのだけど気のせいかな?


「これで、宜しいでしょうか?」


「はい。有難う御座います」


ヒルダさんの言葉に姉がお礼を言って頭を下げる。私も心からのお礼の気持ちでお辞儀した。


「それでは、わたしは研究室に戻らなくてはいけませんので、これで失礼します」


「お話し聞けて良かったね」


「そうね。さ、フレンの所に戻って元に戻る方法が分かった事を話さなくちゃ」


立ち去っていく彼女の気配が遠のいたのを確認すると私はそう言う。それに姉も頷くとフレンさんの元へと戻って行った。


「それで、何か分かったのか?」


「うん。ヒルダさんからちゃんと元に戻る方法を聞いてきたわ。あのね、話しによると魔法の効果を打ち消す魔法と、素の魔法を解除する魔法を融合させた魔法を使えば戻れるらしいの」


そうして家まで帰って来るとリビングで輪になって先ほど聞いた話をフレンさんへと教える。


「なるほど、それなら俺でも解けそうだ」


「解けそうって……フレン魔法を使えるの?」


彼の言葉に姉が驚いて尋ねた。


「あぁ。ある程度の魔法なら扱えるからな。ちょっとやってみるからそこで見ていてくれ」


彼がそう言うと目を閉ざし集中する。魔法を使えるなんてフレンさん隣国から来た人なのかな?


「「!?」」


フレンさんの周りに光が集まったかと思うとその光の中へと彼は包まれる。私達が驚いてみているとそれが治まり犬ではなく見知らぬ男性がそこに立っていた。


「ど、どうだ? 元の姿に戻れているか?」


「「……」」


不安そうな顔で尋ねる美青年の姿に私も姉も声も出せず呆気に取られて見惚れていた。フレンさんこんなカッコいい男の人だったんだ。……ど、どうしよう。急に恥ずかしくなってきた。


「ど、どうした? まさかまだ犬の姿のままなのか?」


「い、いえ。人間の姿に戻ってますよ」


「う、うん。良かったら鏡で確認してみて」


黙り込んだままの私達に不安に思った彼が再度尋ねてくる。それに我に返ると私は答え、姉も手鏡を持ち出しフレンさんの顔を映し出す。


「! ……どうやら成功したようだな。二人には今まで迷惑をかけたしお世話になった。本当に感謝している」


「そ、そんな。私達が好きでやった事なので気にしないで」


鏡に映る己の姿に彼も驚いたようだが嬉しいのか笑顔になり私達へとお礼を言って頭を下げる。その姿に姉が慌てて答えた。


「……それで、二人には聞いてもらいたい話があるんだが、聞いてくれるか?」


「「は、はい」」


フレンさんが改まった態度で話しかけてきたので私達も神妙な面持ちで頷き座り直す。


「二人には俺が魔法をかけられたことに対して身に覚えがないと言ったが……あれは嘘だ。本当は大体の見当はついている」


「え? どういうこと?」


彼の言葉に姉が驚いて尋ねた。フレンさん見当がついてるって……それならなんで黙っていたんだろう。


「驚かないで聞いてくれ。実は俺は……隣国の王子なんだ。本当の名前はフレイル・レオン・ザールブルブ。隣国の第一王子にしてゆくゆくは国王となる王位継承者だ」


「「え?」」


彼の言葉に私達の思考は停止する。フレンさんが隣国の王子様で王位を継承し王様になる存在だったって……それって。良いところのお坊ちゃまどころの話じゃない。雲の上の存在ってことで、その人が今私達の目の前にいるってことで……。


「先日国王が亡くなり俺は王位を継承するため留学していた学校からザールブルブへと戻るため船の中にいた。しかし俺が乗った船は何者かの手によって細工され難破した。それとともに俺の身体にも異変が起こった。光に包まれたと思ったら姿が犬に変わっていた。つまり、何者かが王位を継承する俺の命を狙い、船を事故に見せかけ沈没させ、魔法の力で俺の命を狙った……そう考えた方のがすっきりするだろう」


「ち、ちょっと待って! そんな大事な話しを私達にしちゃっても大丈夫なの?」


混乱している私をよそにフレンさんが話を続ける。その言葉に姉が待ったの声をあげた。


「犬になった俺を助けようと必死に動いてくれた。見ず知らずの俺のためにな。少なくとも俺は人を見る目は持っているつもりだ。だから俺はお前達姉妹の事を心から信頼している。ここで世話になりながらいつかは真実を話さないといけないと思っていた。元の姿に戻れた今を逃したら他にないと思って……だが、迷惑だったか?」


「迷惑だなんて思ってないけど、でもちょっと驚いちゃって」


「私も、まさか王子様だなんて思っていなくて驚きました」


困った顔のフレンさんへと私達は安心させるように微笑み答える。


「それで、話しに戻るのだが。ザールブルブにいち早く戻ることも考えたが、相手は俺が死んだものだと考えていると思う。だから気が緩んでいる。その隙をついて情報を集めようと思っている。だからもう暫くお前達姉妹の家に居候させてもらえたら助かるのだが……」


「そんなの、勿論よ」


「はい。私達もその情報収集のお手伝いをします」


彼の言葉に私達は顔を見合わせ頷くとフレンさんへと話した。


「待て、いいのか? 少なくとも王位継承者の命を狙ったとなると大きな陰謀に巻き込まれることになるんだぞ。俺に力を貸していたらお前達の命も狙われるかもしれない。そんな危険な目にお前達を巻き込みたいとまでは考えていない」


「でも、フレンさんが堂々と外を出歩くことはできないですよね」


「見つかったらすぐにまた命を狙われるかもしれないもの。だから私達が代わりに情報を集めてみる。そのほうのが安全だと思うから」


慌てて説明するように語る彼へと私達は答える。


「そ、それもそうだな。……ティア、フィアナ。迷惑をかけて申し訳ないが、これからもよろしく頼む」


「任せて」


「それじゃ、早速作戦を考えないといけませんね」


フレンさんの言葉に私達は言うとこれからの事について語り合った。


*****


≪ザールブルブ王国宮殿≫


「まだ、王子の行方は分からないのですか?」


「尽力を尽くしましたが王子の行方はいまだ分からず……これ以上は我々だけではどうにもなりません」


「隣国まで範囲を広げて探しているのですが、いまだ王子の行方は分からずじまいです」


女王の問いかけに騎士団隊長と魔法使いの男性が答える。


「女王様、恐れながら申し上げます。もはや我々だけでは難しい状況ですので、友好関係を結ぶ隣国にも協力を仰ぎ王子捜索の範囲を広げてみてはいかがかと」


「……分かりました。王子の姿を確認できない以上仕方ありません。隣国にも協力してもらいましょう。ただし、他国に知られることのないようにできるだけ内密に使者を送るのです。よいですね」


「「御意」」


騎士団隊長の言葉に女王が決断を下す。それに二人が返事をする。


こうしてザールブルブから隣国であるオルドラへと使者が使わされることとなった。

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