D.D.G. -Hope to Live, Want to Kill-
透々実生
Sequence 1. Worst Buddy.
1.
「げ、えっ……!」
少女
彼女の横には、アタッシュケースを持つトレンチコート姿の男2人。彼らは自身の首筋に刺さった
「
男は唾を絡生に吐きつけた。既に埃と脂で艶のなくなった黒髪に、赤の他人の唾液が上塗りされる。
「
もう一発絡生の横腹を蹴る。軋む音が少女の体内に響く。激痛の衝撃で息が上手くできない。
その惨状の遥か上空を、物資高速輸送モノレール『トランスポーター』が無関心に通り過ぎていく。
「酷えもんですなぁ。こんな汚くちゃ、
「全くだ」
下卑た笑い声が絡生の鼓膜を打ち鳴らす。
彼女の頭の中には今、過去の記憶が駆け巡っていた。
――酷い人生に、なってしまった。
元々
両親は報道記者だった。他者の悪を暴いて飯の種にする仕事。彼らは
今は情報社会――情報が価値を持つ社会。高価値の情報を持たぬ者は生活はおろか身分すらも差別される――そんな『
だけど、命の危険を冒してまでご飯を食べさせられたくはなかった。ただ両親と生きて、一緒に笑って暮らしたかったのに。
生きてこその人生だ。
死んだら、如何なる情報も更新されなくなる。
……両親は調査開始から数日後、コードを首に接続した状態のまま机に突っ伏して動かなくなった。政府の手によってウイルス感染させられ、精神破壊されて発狂死したのだ。
その体は、
後は急坂を転がるが如く――付け焼き刃の擬装技術で
そこまでは良かったが、スラム街にて待ち受けた生活は苦痛だった。情報を持てない彼らは物を奪う、命を奪う。平然と、或いは心を殺して奪わねば生き長らえられない。
私には無理だった。罪悪感と後悔に苛まれるばかりで、慣れようにも慣れなかった。
そんな生活から抜け出すべく、
――
殺されるのかな。
殺されるだろうな。
でもそれは嫌だ。死んでも嫌ではなく、死ぬのが嫌だ。
ここから逃げたい。生きたい。無様でも何でも、生きてこその人生だ。
両親みたいに「
生きたい。生きていたい――!
【そんなに生きてェか】
……絡生は、とうとう自分の頭が可笑しくなったと思った。
男2人とも違う声で、しかも男達には聴こえていない様子だったから、単なる幻聴だと思ったのだ。
だが。
【おいおい、よく見ろよ。目の前にいるだろ?】
声は続く。いよいよ自分は
何かの拍子に落ちたと思しき1本の
……まさか。
【そう、そこにいる】
そんな馬鹿な。やはりこれは幻聴――!
【混乱してる場合か!】
【まどろっこしいんだよ! 此処は悠長にお前の考えが纏まるのを待っちゃくれねェ! お前の目の前にあるのは2択だ! さっさと手ェ伸ばしやがれ!】
謎の
畳みかける様に声は迫る。
【生きてェのか! 嬲られて穢されて死にてェのか! どっちなんだ、お前は!!】
――そんなもの。
絡生の肚は既に決まっていた。
「……き、たい」
指で地面を掴む。
「生き、たいっ!」
その叫びに漸く男達が気づく。何事かという怪訝な表情は、絡生が掴んだ
「テメェ! それを返せ!」
【構うな、俺様をお前の首に差し込め!】
絡生にはもう選択の余地は無い。幻聴でも何でも知ったことか!
自分の首筋に触れる。肌色の蓋が開く。接続口だ。
「なっ……!
そりゃ、元々
心の中でだけ答え、
刹那。
がくり、と絡生の顔が項垂れた。体が痙攣して手足が変哲な動きをし始める。
しかし、より強烈な変化はここからだった。
髪が――あれだけ黒かった髪が、徐々に
「――は」
そして。
「ぎゃっははははははははははははははは!!!」
下品な哄笑を放った。
まるで、少女の決意を嘲笑うかの如く。
To be continued.
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