第17話 なんとかならないのかな

翌日から野々花はすっかり落ち込んでいた様子だった。

 いつもつるんでいる友人に距離を置かれ、一人になっていた。クラスメイトにも非難の目で見られる。野々花は学校では誰とも話そうとしなかった。友人達にもあのことをどう話せばいいのかがわからないのだろう。


 それを見て、音乃も野々花に何をすればいいかもわからず。気分が良い気分ではなかった。野々花がああなったのは、半分は自分の責任だとも感じていたから。

 こういう時、部活の先輩なら何か励ましてくれるかもしれない。

 しかし、先輩達には野々花と勝負をしていたことも秘密だ。だから野々花があの行動に出てしまった理由も知らない。そのこともあり、先輩達に相談する気にはなれなかった。

 なので、音乃もまた部室に行くのが遠のいた。そんな気分にもなれないと。

 

 学校で、野々花は日々日々孤立していった。

 女子どころか男子生徒にも何か言われるのではと怯えてる様子にも見えないことはない。

 あの内容を知られてから。クラスメイトに偏見の目を向けられているのでは、と恐れているようだ。


 昼休みになると、野々花はどこかへ行ってしまう。

 恐らく友人達と顏を合わせたくない為にどこかで一人で昼食を食べているのだろう。

(このままじゃほっとけないよ)

 音乃は野々花を探しに行った。しかしどこにいるのだろう?

「そうだ、もしかしてあそこにいるかも」

 音乃は野々花の行きそうな場所に心当たりがあった。


「いたいた。やっぱりここに来てたんだ」

 以前、野々花が勝負の結果を話しに二人で行った体育館裏に、野々花はいた。

 いつも友人と一緒にいることが多い野々花は、今日は一人で階段に座り、本を読んいでた。

 音乃は隣に座り、野々花に話しかけた。

「野々花、最近元気ないよね。やっぱりあの事とか気にしてるの?」

 あの事、というのはもちろん、創作のメモを読まれたことにより恥をかいたことだ。

「だって、最近はツイッターにも何も呟いてないし」

 野々花のツイッターに全くツイートがないことからもういつもの調子ではないのかと心配になっていた。

 野々花は読んでいた本をパタン、と閉じて音乃に言った。

「私はもう、小説を書くことを辞めようと思うわ」

 その瞳には、光が宿っていないようにも見えた。

「そんな……」

「授業中にまであんなことをしていたんだもの。熱中するあまりに大事なものを見失っていたんだから。これ以上学校生活に支障をきたすくらいなら、やめた方がいいのよ」

 野々花はすっかり諦めモードだった。野々花にとって小説を書くことは、楽しくては生き甲斐だったのではないか。

 音乃も小説を書くようになって、その楽しさに芽生えた。

 野々花と勝負をして、その際に野々花の小説を読んだ時も面白いと感じた。創作とは、こんなにも楽しいものなのだと。

ふと音乃は野々花が読んでいる本に目を向けた。どうやらそれは小説の文庫本らしい。

「野々花って、本とかも読むんだね」

「小説を書いてる者に読書は必須よ。こういうのを読んで文章力とか構想を学ぶのだから」

 野々花の文章力や表現力はそういったことから学んでいるからこそなのかもしれない。

「でも、もう自分で書くことはないかもしれないわ。これからはただ読むだけを楽しもうと思うの。自分で書くのって大変だったし」

野々花が読んでいた小説の本で、気になった部分があった。

「そうだ」

 音乃は以前、野々花が言っていたことを思い出したのだ。

「野々花って、この前オリジナル小説も書いてるって言わなかった?」

 音乃が二次創作をしていると知った時、野々花はオリジナル小説も書いていると言っていた。

 野々花の小説を書く力がうまいのには、そういったオリジナル創作の小説も書いていた経験があったからなのではないかと思った。

 昔からそういったものを書いているからこそ、その文才はいいものだと。

「オリジナルも書いていたわよ。二次創作を始める前は、本を読むのも好きで、いろんな小説を読んでいたわ。小学生の頃から本を読むのが大好きで、私もひそかに小説家に憧れていた時もあって、そうなりたいって夢もあった。自分で物語を作るってことが楽しそうだなって」

 野々花が小説を書く腕が凄いのはそういった理由もあったのだろう。

「でも、それももうおしまいね。生活に支障をきたすなら、創作からは離れた方がいいわ」

 野々花の小説を書く力までもを失ってしまうのは惜しい気がした。


 野々花とこれ以上話してもどうにもならないと思った音乃は教室に戻ることにした。

「野々花、本当に小説書くのやめちゃうのかな……野々花の小説、もっと読みたかったな」

 音乃にとって、野々花の書いた二次創作はやはり面白いものだった。

 それをもっと読みたいと思っていただけに、今の状況は辛いものだった。


 音乃は生徒玄関を歩いていると、廊下にある掲示板が目に入った・

 部活の案内や、今後学校で行われる催しに、主にお知らせなどの紙が貼られていた。

 なんとなくそれを見ていると、音乃は掲示板にて、ある張り紙が目に入った。

「あ、これ……」

 音乃はそのある張り紙が、自分にとっていい知らせではないかと目を輝かせた。

「これだ! あとで野々花に教えよう!」

 音乃は掲示板の前に置いてあった机から、その張り紙と同じ内容のプリントを一枚持っていった。


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