腐っててもいいじゃない!
雪幡蒼
第1話 高校生活、その始まりは……?
高校受験も無事終わり、市宮音乃は志望校に合格したことで、新しい新生活に心を弾ませていた。
3年間を過ごした中学校も卒業になり、義務教育が終わった。
音乃は高校入学までの春休みにとうとう念願の女子高生になれるということにわくわくしていた。少女漫画やドラマなどでは大抵女子高生というのは青春真っ盛りの年頃だ。
音乃は子供のころから女子高生というものに憧れを持っていた。そして自分がいよいよその女子高生になれるということにも。
「どんな出会いがあるかなあ」
音乃は春休みの間、ずっと新生活を心待ちにしていた。
来る4月5日、いよいよ高校の入学式だ。
新品の制服を身に着け、教師の挨拶から始まる堅苦しい話の入学式を迎える。
桜の咲き乱れる生徒玄関で掲示板に貼られたクラス発表を見て音乃は自分の名前を確認する。
音乃は1年5組だった。どんなクラスになるかと、音乃は教室に行くのも楽しみだった。
教室に行こうとした際、女子が話しかけてきた。
「ねえ、同じクラスだよね?一緒に教室行かない?」
ショートカットで可愛らしい瞳、音乃と同じく新品の制服に身を包んだ女子だった。
「あたし、久保田綾香。1年5組なんだ。よろしくね」
明るい声で自己紹介をする。こんな可愛い子が同じクラスなんて楽しくなりそう、と音乃は思った。
「私、市宮音乃。え、と久保田さん? よろしくね」
「これからはクラスメイトなんだし、綾香でいいよ」
教室に行くまでの間、綾香と話をする。
どこの中学校だった、や高校では何をやりたい? などいかにも入学したばかりの会話だ。
教室に入り、担任教師と生徒の自己紹介ののち、休み時間に音乃は再び綾香と喋った。
「綾香は趣味とか何が好き?」
「私はアニメとか見るの好きなんだー」
「ホント? 私と一緒だ!」
音乃も中学時代はよくアニメを見ていた。
三年生になる頃には受験一色だった為に、しばらくアニメからは離れていたものの、やはり今でも好きだ。こういう気が合う女子が同じクラスにいてよかった、と思った。
「どんなのが好き?」
「ゼロ式回戦とか、鬼丸の刀とか」
「それ、今すっごく流行ってるよね!」
受験一式だった音乃でも、たまにニュースなどで話題を聞くタイトルは知っていた。
「私にも何か面白いアニメ教えて! せっかく受験も終わったことだし、色々アニメ観たいな」
音乃と綾香はオススメのアニメについて語り合った。
「よかった。こういう話ができる気の合う子が同じクラスで。あたしさーちょっとオタクっぽいとこあるから高校で友達できるかなって不安だったんだけど」
「それは私も同じだよ。高校って中学校より少し大人だからこんな子供っぽい趣味は恥ずかしいかな、とか思ってた」
「そんなことないよ。今の時代は大人だってアニメ観るんだから、むしろあたしたちなんて若い方だよ」
音乃と綾香はお互いに笑いあった。
入学直後から新しい友人ができたことに、音乃は快い高校生活がスタートしたのだと新生活を喜んだ。
入学式も終わって数日後。
その日、音乃は夜遅くまで宿題をやっていた。
「ふー、高校の宿題って多いなあ」
高校入試は終わったものの、入学式の翌日の第一週目から授業が始まれば、当然ながらすぐに宿題も多くなる。
4月の第2週、この時期になれば、だんだんとクラスの仲良しグループも固まってくる。
音乃は最初は綾香とばかりいたが少しずつ他の中学校出身のクラスメイトと話すことも多くなり、高校生活は順調だった。
宿題を終えると、時刻はすでに23時50分を回っていた。
そろそろ寝なくては、と思う音乃だったが、なぜか眠る気にもなれなかった。
ふと部屋にあるテレビが目に入る。
「そういえば受験の時はテレビとかゆっくり見てかったなー」
音乃は中学3年生になってからはなるべくテレビを見ないようにしていた。
受験勉強が忙しく、いっそのこと志望校に合格するまでは潔くしばらくテレビを見ないと決めたことにしていたのだ。
志望校に合格してからも、高校の入学式までの間は新生活の用意などで忙しく、テレビを見ている余裕もなかった。
「この時間って何やってるんだろ?」
しばらくテレビをゆっくり見ていなかった音乃は現在放送中の番組をよく知らなかった。
ましてや新生活が始まったばかりのこの時期は明日の備え、早くに寝る習慣をつけている音乃はこの時間帯に起きていること自体が全然ない。
この日はたまたま宿題が多くて寝るのが遅くなっただけだ。
音乃は、自室にあったテレビの電源を付ける。
テレビコマーシャルが流れると0時になったと同時に何やらアニメの映像になる。
「あれ? 何このアニメ?」
綾香と話していたように、音乃は中学時代はアニメを見ることはよくあった。
深夜アニメで話題作は見たりしていたものの、受験生になり、すっぱりとテレビ絶ちをしてからはアニメは全然見てなかった。なのでこのアニメは初めて映像を観たのだ。
そういえば深夜0時といえば、深夜アニメが放送する時間帯である。
音乃は今日、まともに眠る気が起きないのできないので、そのアニメを見ることにした。
アニメ映像はオープニングもなく、ただ背景にクレジットが流れるだけだ。
いわゆる放送開始新アニメ1話にありがちなオープニングカットのアバンタイトルというものだ。
アニメ映像はどこかの城のような場所で、一人の人物が王様らしき人物の前で何やら儀式を行っているシーンに変わった。
しかし、その人物の顔は影になっていてはっきりと見えない。
「では、本当にいいのだな?」
「ええ、もう決意しましたから」
初めての台詞を発する体格からして青年、いや、まだ少年というべきの年齢の男性か。
「昔から定められられた掟です。僕はそれに従うまでです」
少年は淡々と台詞を言う。
その声はまるでソプラノのような少年声と青年を掛け合わせたような響きだった。
「なに、この美声!」
音乃はまずキャラのその声が気になった。そのキャラクターは声がまさに聞きほれるほどの美声なのだ。声優に詳しいわけではない音乃には、その美声は耳に残るものだった。
アニメの映像には影になっていた青年の顔に光が当たり、青年が立ち上がると全身が画面に映し出された。
青髪のショートヘアーをなびかせ、独自な鎧のような衣装に、腰には剣を携え、赤色のマントをなびかせる。金色の瞳が輝く爽やかな表情だ、
その青年の容姿に、なぜか音乃は釘付けになった。
「かっこいい! なんて名前の人なんだろう?」
サラサラの青髪、特徴的なコスチューム、その容姿は二次元の絵だというのに、妙に音乃の目に焼き付いた。
「では行きなさい ロシウス」
ロシウスと呼ばれた青年は扉の前に立ち、勢いよく扉は開かれ、外の光が室内に立ち込める。
音乃はその少年の動きを追っていた。
「ロシウスっていうだ、このキャラ」
音乃は主人公の名前を知った。
ロシウスというキャラは旅立ちで最初の町に寄り、ギルドと呼ばれる場所に行く。
依頼を受けて近くの洞窟へ行くことになる。
どうやらいわゆる冒険ものというアニメだ。
ファンタジー的な世界を舞台とした内容で、そこで。この主人公が旅をするという。
ギルドの客の1人がロシウスに声をかける。
「あんた、なんでまた旅をしてるんだい?」
客はロシウスに聞いた。
この世界では16才の年を過ぎれば、己を鍛える為に旅に出なければならないという習わしの世界観が説明された。
そしてその旅立ちの日がやってきたというわけだ。
「僕は幼い頃に家族を亡くしました」
そしてロシウスの回想シーンに突入する。
燃え盛る瓦礫の中、1人の少年が泣いていた。銀髪の子供、幼き日のロシウスだ。
そこへ大人が数人やってきた。
「可哀そうに、親を亡くしたんだな」
ロシウスは大人に保護された。ロシウスを城に連れていくと、城で育てることになった。
「ロシウスって悲しい過去があるんだ」
音乃はテレビの前でロシウスに感情移入していた。
その後、ロシウスには新しい生活が始まり、自分を保護してくれた大人達に感謝を返すために、日々修行に励む。
「ロシウスってそういう生い立ちと習わしで旅に出たんだ」
音乃はその世界観とキャラを理解した。
音乃はそのキャラの動き1つ1つに目が離せなくなった。
場面は変わり、ロシウスは最初の洞窟に入った。
奥で魔物に襲われそうになっていた旅人を助ける場面に入った。
普段テレビ番組をここまで集中して見ることのない音乃は時間を忘れるように見入った。
戦闘に入るシーンになると、緊迫した音楽が流れた。
ピンチになり、腰の剣を抜き、ロシウスは剣で敵を薙ぎ払う。
その動きは非常に細かく作画され、まさに戦闘シーンが神がかっている美しい動きだった。
音乃はその戦闘シーンが目を離せなくなった。
1秒1秒の動きを目で追い、画面の端から端までを凝視する。
「凄い、この戦闘シーン」
実になめらかでまるで本当にキャラクターが生きているかのような演出に、音乃は目が馳せなくなった。
戦闘シーンでは敵の数が増え、ロシウスが敵に囲まれる。
「こんなもので僕がめげるわけないだろう
しかし窮地に陥ったというのに、ロシウスは戦闘態勢を変え、何やら構えに入る。
「くらえ、ライトブライザー!」
ロシウスの発する技名と共に剣が光を放ち、一瞬にして魔物を吹き飛ばす。
をの派手なエフェクトは、より一生画面に惹かれた。
「何この技、すっごくかっこいい!」
無事に依頼を達成し、ロシウスは旅人と共に洞窟の外へ出る。
「あの、助けいただいたお礼に何か」
「そんなものはいいよ」
「せめてお名前だけを」
旅人はロシウスに名前を尋ねた。
「僕の名前はロシウス。ラミレスの騎士さ」
ロシウスがそう名乗ると、画面は切り替わった。
アニメ本編の最後に歌が流れる。
第1話にありがちな、アバンではオープニングカットで最後にオープニングを持ってくる方式だ。
「この主題歌、すっごくいい!」
音のはそのオープニング主題歌を気に入った。
世界観とキャラクター紹介を兼ねたオープニングはこれだけで惹かれる魅力があった。
オープニングの最後に「ラミレスの丘」という大きなタイトルロゴが表示されて。
「な、なにこれ……。すっごく面白かった」
夜遅い時間だというのに、このアニメを観て、音乃の心はまるで何かわからない興奮が身を包んでいた。音乃は心の中で何かが弾ける音がしたような気がした。
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