かちかち山 ザ・サイキック極道
ムネミツ
かちかち山 ザ・サイキック極道
俺の名はウサギ、先代から組を継いだばかりの新米組長だ。
「親父と姐さんは、田舎暮らしかあ♪」
極道にも老いはある、家の先代もそうだった。
俺は襲名した日の事を思い出していた。
「ウサギ、跡目はお前だ♪ しっかりやれよ♪」
紋付き袴姿の髪は白いがガタイはガッシリした老人が俺に語りかける。
外見は気の良い好々爺、性格も普段は人情派の好漢。
だが、敵対する者や下手を打った手下は容赦なく縄で縛って吊るしてボコる。
『縄の翁』の伝説は消えやしねえ。
そんな人から、肩を掴まれて微笑まれた時は笑顔がひきつったぜ。
俺がそんな物思いに耽っていると、組長室の電話が鳴り響いた。
「親父、大変です! 先代の家が! ニュースを!」
「……どうした、何が起きたっ!」
部下からの電話に、俺は慌てて部屋のテレビを付けた。
流れて来たのは臨時ニュース、その内容は俺にとって信じられない物だった。
「……あ、姐さんが! こ、殺されただと~~っ?」
強盗殺人のニュース、被害者の名は先代組長の妻である姐さんの物だった。
「……まずは葬儀の手配だ、組を上げて盛大にお見送りするぞ」
俺の新米組長としての初仕事が、こんな形で始まるとは思わなかったぜ。
「……うおおおっ! ば、ばあさ~~~ん!」
葬儀の日、久しぶりに会った先代は棺の傍で大泣きしていた。
「……あ、姐さん! 何でこんな事にっ!」
俺も泣いた、俺みたいな奴でも孫のように面倒を見てくれた現代の聖母のようなお人だった。
誰だ、誰がやりやがった! 絶対に許さねえっ!
俺は必ず姐さんを殺した犯人を殺す事を誓った、血は繋がってなくても家族だ。
そして守るべきカタギに手を出されたとあっちゃあ、極道の名折れなんだよ!
「おやっさん、姐さんを殺したのは誰なんですかい?」
俺は落ち込んだ先代に尋ねた。
「……ウサギ、犯人はタヌキだ! 間違いなくタヌキの奴だ!」
先代が俺に叫ぶ、タヌキの名を聞くとは思わなかった。
「タヌキって、破門されたあいつですかい? それがなんで?」
「ばあさんが雇った家事代行サービス、それが奴のシノギだったんだ!」
先代が悔しそうな顔で言葉を絞り出す。
「まさか、家事代行で家に潜り込んで情報を半グレに売ったりチャチな悪さする輩がいるってのは聞いてましたが!」
俺も悔しかった、タヌキの野郎は馬鹿な奴ほど可愛いってんで姐さんに世話になってただろうに!
「わかりましたおやっさん、この一件俺が仕切ります♪」
俺は先代にタヌキの野郎をぶち殺す事を誓った。
姐さんの葬儀と初七日が済んだ頃、俺は仕事を開始した。
組員を使いタヌキの情報を探らせた所、奴の動きを掴んだ。
「山の高級ゴルフ場で、接待ゴルフだ~~~? 良い身分じゃねえか♪」
タヌキの野郎、昔先代のクラブを壊してヤキを入れられたのに悪事で稼いだ金で自分がゴルフとは良い根性してるじゃねえか♪
俺は奴が利用するゴルフ場を組で買い取った。
「オ~♪ ナイスショット♪」
醜く太った体に高いゴルフウェアを着た中年男が、同じように肥えた一緒に回る相手の男を褒める。
オイオイ、相手の方も家の敵対組織の頭じゃねえか鴨葱だな♪
俺はキャディに変装して奴らに付いて行く、タヌキも相手もどっちも殺す。
「キャディさん、五番アイアンにクラブ変えたいんだけど? ……って、あんたはウサギの兄貴っ!」
タヌキが俺の変装に気付いて慌てる。
「よ~♪ タ~ヌ~キ~く~~~ん♪ 楽しんでるか~~~い♪」
俺はキャディらしく笑顔でご挨拶。
「な! なんで! ウサギの兄貴、なんで!」
タヌキの野郎、アホみたいにリアリティショックを起こしやがった(笑)
「何で? そりゃこっちの台詞だよ、お前こそ何で姐さん殺したの?」
組にいた時に飯を食わせてくれていたのも、下手を打ち過ぎて鉄砲玉にもなれず殺される所だったのを破門だけで無傷で組を抜けさせてもらえたのも全部お前に対する姐さんの温情があっての事だったってのによ!
俺は怒りの感情を爆発させつつ、タヌキの奴の尻を! 背中を! 優しく優しく炎を燃やして焼いてやった。
「俺が発火能力者だって知ってるよな、お友達はもう炭だぜ♪」
俺はニヤリと笑う、火傷で苦しむ奴の隣にはすでに焼き殺した敵対組織のボスがいた。
「あ、あばばば~~っ!」
タヌキの野郎、泡を吹いて気絶しやがった。
「よ~し、お前らこいつを連れてけ止めは海だ♪」
俺は待機させていた組員達ににタヌキを捕まえさせた、せかっく買ったゴルフ場だここじゃあこいつは殺さねえ。
「オラ、起きろ!」
俺はボートのデッキの上で、縄で縛ったタヌキの野郎を蹴り起こす。
次に俺が奴を連れて来たのは夜の海、こんな仁義外れな野郎には不釣り合いなナイトクルージングだ♪
「……ウサギの兄貴、助けて下さい! 助けて下さい!」
醜く命乞いをするタヌキ、こいつはとことん馬鹿なんだろう可哀そうに。
「あ? お前、ここまで来て何言ってるの? 仁義外れがどうなるかはわかってるだろ?」
兄貴分として散々教育してやったのに、残念過ぎるぜ。
「姐さんの仇だ、魚の餌になれ♪」
俺は発火能力でタヌキを適度に焼いて、海へと放り込んだ。
「……姐さん、お望みじゃあないでしょうが仇は討たせてもらいやした」
俺は海から登ってきた太陽に、姐さんへの祈りを奉げた。
かちかち山 ザ・サイキック極道 ムネミツ @yukinosita
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