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「ねえ、俺やっぱアルバイトするよ、ガソリンスタンドかどっかでさ」

 最後の十セント硬貨ダイム広口瓶ジャーに放り込んで俺は言った。

「しけてるよなあ、二十ドル札だってないんだぜ」

「みなさんの善意をそんなふうに言うものじゃない。お前ひとり分くらいはどうにかなるさ」

「そうは言うけどさあ、俺、クリスの三倍は食ってるよ」

 実をいうと、俺はこの教会に――クリスに厄介になっているのだ。

「それはしかたないだろう、育ち盛りなんだから」

 クリスはやさしい。俺は首をふった。クリスはべつに少食ってわけじゃないし、俺も食い意地が張ってるわけでもない。五フィート二インチ〔165㎝〕、十三ポンド〔58㎏〕っていったら、太ってるうちに入らないだろ? ただ、俺がの三倍は食うってだけで。

 そのせいで、ただでさえゆたかとはいえない教会の財政は傾きかけているのだ。献金皿に入った金も、俺たちより困っている人――シングルマザーとかホームレスとかの食糧支援に回すから、そっくりそのままいただくってわけにはいかない。

「お前が気にすることじゃない。今は勉強に集中することだよ。私はお前にちゃんと高校は出てもらいたいと思っているんだ。その先の人生のためにね」

 人生のために――か! なんともいえないフクザツな感情に、鼻の奥がツンとする。

「お金のことはなんとかなる……アルバイトの件もね。それに……このあいだみたいなことになったら困るだろう?」

「うーん……」

 このあいだのこと、というのは、〈ワイルド・グース〉ってアイリッシュパブで働かせてもらっていたとき、店の裏にゴミを捨てに行ったら、ラテン系の大男に尻を触られてブチ切れて変身しかけた話だ。

 運悪く満月だったのも災いした。目が黄色に光って鼻と口が突き出し、犬歯がほんものの牙になって、黒い毛に覆われた耳が伸びていくのを目にした男は腰を抜かしてその場にへたりこんだ。

 たまたまクリスが様子を見に来てくれなかったらどうなっていたことやら――

 ……そう、なにを隠そう俺は人狼なんだ。

 それも不完全な。

 自分の意志で変身することはできないし、おまけに完全な狼――いまどき間近で本物を見たことのあるやつなんてイエローストーン国立公園のレンジャーぐらいだろうから、ふつうの人間は「ばかでかい黒い犬」だと思うだろう――にもなれない。やたら毛深い、狼と人間のできそこないみたいなのができあがるだけだ。

 どうして俺がクリスに世話になっているのか詳しい話は省くけど、とにかくクリスは俺を受け入れてくれた。

 店員が犬に変わるところを見たなんて話は酔っ払いの幻覚だって誰も信じなかったが、俺はそのままバックレたってことで初日で店を辞めなきゃならず、ムリをいって紹介してくれたクリスの面目は丸ツブレだった。

「こういうとき、贖罪符を売ってもいいと思うんだよな。腹をすかせた狼の仔にご飯を食べさせてやるためなら、神様も許してくれるかもしれないだろ?」

 俺は世界史の授業を思い出して言った。

「そしてもうひとつ新しい宗派を作る気か? じゅうぶん間に合ってるよ。人はパンのみで生きるにあらず、だよ」

「わかってる。ステーキと、つけあわせにポテトも必要だよね」

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