やけくそ

(もうどうにでもなれ……!)


「……分かりました」


━━━ それから数分間のゼノの壮大な言い訳タイムの後、全てを話すと、ルーメンは深くため息をつく。


「なるほどなぁ……まあんな事はどうでもええわぁ!」


(えぇ!?さっきまであんな深刻そうな感じだったのに!?)


「ボクとしては今のキミはOCO正規の手段で試験を受けて合格した以上、問題は無いと思うねん」


「えぇ……そんな感じで良いんですか……」


ルーメンはゼノの怪訝そうな顔をみていつもの笑顔を見せる。


「安心しぃ、これでもボクはD3やで?キミの事はボクが保証したる」


「保証って……」


ゼノは困ったような表情をするとルーメンが頰杖をついて笑う。


「言ったやろー?ボクは情報部門も責任者みたいなもんやって、キミの事はボクの権限である程度OCO内で好き勝手出来るようになってるんよ」


「……そんな事して大丈夫なんですか?」


「もちろんや!泥b……大船に乗った気持ちで過ごし〜」


(……職権乱用でしょ、これ)


そんなことを思っていると、ふとルーメンが真剣な表情になる。


「ま、ボロは出さんことやな。バレたらタダじゃすまんで〜」


「えっと……参考までにバレたらどうなるんですか?」


「んー……──」


ルーメンは顎に手を当てしばらく考えてから口を開く


「ポイッ!や」


「……はい?」


「だから、ポイッやってポイッ!!」


そんな適当な対応にゼノは思わず怒りが込み上げてくる。


「いや、真面目にお願いますよ!!ポイッて何ですか!?ポイッて!?」


するとルーメンはおどけながらも裏表無い態度で言う。


「えぇ!?ボクはふざけた事言ってへんで!?『狭間』に放り投げ出されるんやって!ポイって」


「へっ?」


(おふざけじゃなさそうだしガチめにやばい奴じゃん……)


「僕が言うのも何なんですけど……そんな適当な処理で良いんですか?」


するとルーメンはゼノの肩を優しく叩く。


「大丈夫なんやな、これが」


「なんでですか……?」


ルーメンは遠い目をしながら天井に向かって指を向ける。


「まず一つ目、いくつかの前例がある」


「……えぇ、どうなっちゃたんですか」


「聞かん方がええで?」


「えっと……もう一つは?」


するとルーメンはドヤ顔で窓の外を指さす。


「……基本的に『門』を使わないと『狭間』経由では他の世界に行けないからやな」


「追放って訳ですか、コスパ良いですね」


「……キミ意外とドライやなぁ」


そう言うとルーメンはちゃぶ台の上に置かれた空になった湯呑みをお盆に乗せて立ち上がる。


「さ、長居もあれやし……そろそろ大丈夫やで」


「色々とお願いします……」


ゼノがそう謝るとルーメンはひらひらと手を振る。


「ええよええよ〜キミの事は心配あらへんからゆっくり休みや〜」


「はい……それでは失礼します」


ゼノはそれだけ言うと退出する。


(少し不安だけど……まあ何とかなった……のか?)


そう思いながら長い廊下を歩いていると曲がり角で人影と鉢合わせになる。


「わっ!ごめんなさい!」


「……危ないのだ!ちゃんと前を見て歩くのだ!!」


その人物は毛先にかけて水色掛かった白髪をカントリースタイルのツインテールと少し変わったOCOの制服に付属するネクタイを揺らして頬を膨らませている。


「のだ……?」


ゼノが思わず不思議そうに言う。


「何か文句あるのだ?」


「いえっ!そんな事は……!!」


「所で……お前は確か異動部の新人なのだろう?」


ゼノが頷くと少女はポーズをキメながら名乗りを上げる。


「私はインウィンクティビリス、OCOで『無敵』の統制官なのだ!!皆からはイウィンと呼ばれるのだ!!」


その時、インウィンクティビリスの後ろから大きな声が響き渡る。


「ハッ!!!『無敵』だと?戦いを避けるだけのビビりな能力だろ?」


ゼノが声のする方を見るとそこには、OCOの制服を着崩して、毛先にかけてかなり赤みがかった黒髪にサングラスを載せて、ニヤッとした笑顔を浮かべている男が立っていた。


(うわぁ……なんか面倒くさい事になりそう……)


「あ?何か言ったのだ?フォルティ」


するとイウィンは明らかに不機嫌な声色でフォルティに向かって喧嘩腰で言う。


「ハッ!言っておくがオレはお前の能力の影響下でも勝てるがな、過去の戦績がそれを物語ってる」


「ふーん……今日はやってみなきゃ分からないのだ」


そう言うと、イウィンとフォルティはそれぞれ何かを取り出そうとする構えを取る。


(あれ?これ逃げないとやばい?)


まさに一触即発の状態、ゼノは何を思ったのか声を張り上げる。


「あの!!」


声に反応し、イウィンとフォルティがゼノの方へと視線を向ける。


「や、やるなら訓練場の方が……」


(うわあああ!何言ってんだ僕!?殺される!!)


「「…………」」


両者が沈黙する。

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