愛の告白

「アガッ……ご、ごめんなさい」


ゼノは口から血を垂らしながら腹部に刺さったクナイを引き抜こうとするが力が入らないのか弱々しく、小刻みに震えるだけだった。


「……」


それを見たルーメンは構えを解き、そっとフォルスの手を握る。


「ボクなぁ……あんさんの事好きなんや」


「……は?」


突然の告白にフォルスは戸惑いを隠せない。


すると、ゼノも薄れゆく意識の中でそんな事を聞かされて思わず目を見開く。


(……は?)


そんな事を考えてはいるが体が付いて来ず頭も回らなくなっていくのが分かる。


(ちょっと!?この状況で告白するとか何考えてるんですか!)とゼノは脳内でツッコミを入れるが口や肺から大量の血が溢れておりどうあがいても何も出来ない状態だ。


(死ぬ前に人の告白を見なきゃならないって……どんな状況よこれ)


ゼノが思わずツッコミを入れて意識をなんとか繋ぎ止めていると、ルーメンはフォルスを抱き締めた。


「ふえッ!?」


急に抱きつかれたフォルスは一瞬倒れそうになるがなんとか踏みとどまる。


「あ、あ、あの?き、き、貴前はな、何を!?」


フォルスが動揺しながら問いかけるとルーメンはゆっくりと口を開く。


「……サラマンドラは何も教えてくれんかったんやな?」


そう言うと、ルーメンは抱き着いたままクナイでフォルスの胸を刺す。


「あ……」


「ゆっくり休みぃ」


すると、フォルスの全身から力が抜けた様にへたり込んでしまう。


「悪いなぁ……『不運』にも死んでくれや」


そう言ってルーメンが地面に寝かせるとフォルスは最期の力を振り絞り口から血を垂らしながら声を上げる。


「騙したな……だが、終わりじゃ」


その瞬間だった。海賊船が開けた場所に出る。


その巨大な円形の部屋の中心にはやや空色がかった虹色の光を放つ光柱が魔法陣から生み出され、逆に昇る滝の様な景色になっていた。


「ここは……この船のコアか、こんな早く着くとはなぁ……」


その時ルーメンの脳内に声が響き渡る。


『る、ルーメンさん……航行管理部長のマリナです……急にすいません』


「なんやー?マリナちゃん」


ルーメンは頭の中で声を浮かべてマリナと会話を続ける。


『あ、あの、コアに何かが侵入したみたいで……このままだと、ちょっとまずいことになるので……か、確認をお願いしたいのですが……』


「ええでぇ!……なんなら今そこに……」


その時ルーメンの瞳にある人物が映る。


『はい?今なんて……「ごめんなぁ、マリンちゃん」


彼は口を開いてそう言うと刀に手をかける。


「急用がはいって……な」


その時の彼の声はいつもの飄々とした態度は無かった。


━━━━━━━━━━━━━━━


「よろしいんですか……?最高司令官殿」


若い白髪の修道女は薄灰色の瞳をピクリとも動かさずに本棚に背を向ける男へと向ける。


その男は薄汚れた焦げ茶色のローブを揺らしながら本を新しく取り出しているのが後ろ姿からもわかる。


「ネズミ数匹が入り込んで好き勝手……これ以上の船体への被害は抑えた方が無難かと」


深緑色のコートを着て、くすんだシアン色のネクタイを着けた黒シャツで深い焦げ茶色ロングの女性が端末を見ながらその背中に語りかける。


「最高司令官殿……どうか、彼等に赦しを与えるお許しを……彼らは救われるべきです」


修道女は声を震わせながら頭を深々と下げる。


「まだ、その時では無い」


最高司令官と呼ばれた男は静かな声でそう言うと本をパタンと閉じる。


「今、この時にこそ"巣"を特定する……これは計画成功の為だ」


彼は無限に続く天井に、それに続くように積み上げられた本がびっしりと詰まった本棚へと本を戻すとその部屋の中心ある木製の机に付属する椅子へと腰掛けると、机の引き出しを開けて中から剣の柄程の長さの機械を取り出し、机の上に置く。


「炙り出したその時には、私も出よう」

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