前夜
ディヴェデ本部『忘れ去られた世界』
この世界は見渡す限りの荒野と砂埃、そしてぽつりぽつり立つかつてここに文明があったことを思い出させる廃墟郡があった。
その中を一人の薄汚れた軍用コートを着た人物が進んで行いた。
その人物が廃墟郡の隙間から生える枯れた大木にもたれかかり、ぐったりとしている人影がサングラスに写る。
「……」
その男は人影に近付くとその顔を覗き込み名前を言う。
「……グラキエス」
男に抱き抱えられたグラキエスは目を開けると涙を流して言う。
「ボス……フォルスが……」
その一言を聞いて男は何かを悟ったような表情を見せると優しくグラキエスの頭を撫でる。
「後は俺がやる……少し休め」
「……はい」そう言ってグラキエスは気絶すると男のコートがフワリと風になびき、黒いニット帽からはみ出した真紅の髪が見え隠れした。
「ここまで来るのに、随分かかったな……」
そう呟くいて、ゆっくりと立ち上がると廃墟郡を歩き出した。
しばらく歩くと小さな丘に出る。そこからはディヴェデ本部が隠されている2つ廃墟都市『ソドム』と『ゴモラ』が一望できた。
その男はポケットから煙草を取り出し、咥えると火がひとりでに着く。
「……これで、ようやく世界をあるべき姿に戻せる」
そう呟く男の視線はふたつの都市の間にある巨大な魔法陣のような、科学的な記号のような何かに向いていた。
男は煙草の灰を携帯用の灰皿落とすと。
「後は"分断"あるのみ」
そう呟いて、砂丘を滑って下って行く。
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収容区画 フォルスの房。
フォルスは相も変わらず、厳戒態勢の監視の元で拘束されていた。
しかし、彼女は笑っていた。
「目的の品の所在は掴んだ、後は……」
その時、突然収容区画が闇に包まれると同時にドスッとした音と共に暗闇の中で何が動き回る。
「来たのじゃ……?」
フォルスがそう呟くと同時に房の扉が開く。
「手間をかけさせたのぉ、ストゥルティ」
巨大な黒いスライム塊のようなものはフォルスの拘束具を破壊すると、彼女の服の中からも黒いスライムのような液体がコップ一杯分程こぼれ落ち、巨体なスライム塊に吸い込まれていく。
この液体はいつフォルスに仕込まれたのだろうか。
それは、尋問の時である。
ゼノの持ってきた書類ケースに液体が仕込まれていたのだ。
そして、フォルスの『幸運』の能力の残滓を使い、書類を地面に落としゼノの目線も落とす。
その隙にケースに仕込まれた半分の液体がフォルスの服の中に、もう半分はゼノの後ろを通ってダクトに侵入し、電気系統に干渉。
それによって、収容区画の電源を全て落としたのだ。
(その時をずっと待っておったのじゃ)
フォルスは恍惚とした表情を浮かべているとスライムは壁に穴を開け、フォルスを壁の間の隙間に案内する。
「さぁ……行くとするかのぉ」
━━━ 数分後、収容区画は騒然としていた。突如電源が落ちてしまった為か警報装置すらならない始末。
「これは……何が起きているんでしょうか?」
テラが保安部のメンバーを連れて重々しい扉の前で足止めを食らっていた。
「それが、扉の緊急開閉装置がへし折られていて……」
看守の一人がそう言うと、テラはため息を吐いて大鎌を取り出す。
「仕方ありません。中の方々も心配ですのでこじ開けます」
そう言うとテラは鎌を振りかざし、扉に向かって思い切り振り下ろす。その衝撃に扉が悲鳴を上げて押し開かれると中から何か液体のような物がダクトを通じて流れ出す。
「これは……!?」
テラがその正体に気づくのとほぼ同時に保安部のメンバーが反応する。
「テラさん!あの液状物質は内通者の……!?」
すると、流れ出す液体の中に他のスライム塊のような物も見受けられることに気づくとテラは大きくため息を吐く。
「……大変な事になりましたね、ひとまず『門』の区画をロックダウンしてください、大至急!」
看守の一人が端末で連絡を入れているのを確認すると、テラは口を開く。
「それから、最優先事項を変更です」
彼女はそう言うと真剣な顔で鎌を持ち直す。
「何として守り抜きます」
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