葛藤
「よぉ、ユビキタス」
ユビキタスはゆっくりと視線をあげるととそこにはOCOの制服を着崩して、毛先にかけてかなり赤みがかった黒髪にサングラスを載せて、ニヤッとした笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「……フォルティか、相変わらず元気だな」
「ハッ!お前は相変わらずシケたツラしてんな」
「そうだな」ユビキタスはそう言いながら缶コーヒーを飲む。
フォルティはユビキタスの隣のベンチに座っていつの間に買ったのか、炭酸飲料を開けると一気に飲み始める。
「……プハァ!まあ、色々と話は聞いてるぜ、大変らしいな?」
「そうだな」
ユビキタスはコーヒーを飲んでいるとフォルティはニヤリと笑いながら言う。
「もうじき戦闘だろ?この"最強"が手貸してやろうか?」
「……大丈夫だ」
ユビキタスがそう言うとフォルティは少しムッとした表情をする。
「何だ?俺じゃ力不足ってか?」
「いや、それはない。"
ユビキタスは煽る様にそう言うと、フォルティは少し機嫌を良くして言う。
「は!そうだろうな!」
「……ただ」
ユビキタスは持っているコーヒー缶を少し力を入れて握ると続ける。
「万が一の時は頼む」
その言葉にフォルティは一瞬硬直すると、すぐに笑い飛ばす。
「ハッ!お前にしては面白い冗談だな、笑えたぜ」
フォルティスはそう言って立ち上がり、ユビキタスを見下ろして言う。
「ま、他でもないお前の頼みなら聞いてやらんこともねェよ!」
そう言うとフォルティは振り返ることなく手を振りながら去っていく。
ユビキタスはコーヒーを飲み干すと缶を握りつぶす。
(頼る時が来ないのが一番だがな……)
そう思いながらベンチから立ち上がると、端末が小刻みにバイブレーションしている。
ユビキタスは端末を操作して電話をとる。
『レプス三等官です、サルベージの準備が整いました』
「報告ありがとう、今から向かう」
『お待ちしてます』
通話を終了すると、ユビキタスは能力で缶を握りつぶす。
(さぁ、どうなる)
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ゼノは少し日が傾きかけた街を1人で歩く。
『サランともお別れだ、挨拶しとけよ』
スイッチの声が脳裏で何度もこだまし、別れの寂しさが込み上げてくる。
理屈は理解出来るが、人間の感情というものは理屈では何とも出来ないものである。
わずか数日とはいえ、サランとの冒険はゼノの空っぽの記憶に彩りを与えてくれた。
そんな、仲間に別れを伝えなければならないのはやはり辛い所がある。
ていうか寂しい。
「はぁ……どうしよう」
そうこう考えているうちにゼノは街から少し離れた小高い丘の上で日が沈みゆく中で街を見下ろしていた。
「ここにいた」
ゼノは声をした方に振り返ると、そこには普段着のサランがいた。
「サランさん」
「……」
サランは何も言わずにゼノの横に立つと、街を眺めながら言う。
「ねぇ、ゼノ。私、初めて会った日のこと、昨日の様に覚えてる」
サランはゼノの方を向いて少し微笑みながら続ける。
「いきなり森で出会って、洞窟で遭難して、お父様を暗殺ギルドから救って……ほんと私の人生で間違いなく1番大変だったけど、楽しかった」
「僕もです」
サランは少し笑ってから少し息を吐くと、意を決した様に言う。
「ねぇ……ゼノ」
「はい……」
ゼノはそのサランの声色と神秘的な雰囲気に鼓動が高鳴る。
「もし、さ。お父様のお許しを得れたら、私も冒険に連れって」
サランはゼノの手を握ると続ける。
「ねぇ、どう?」
サランはきまり悪そうな顔をしながら少しだけ頬を赤らめて言う。
「……それは、」
スイッチの言葉が脳裏によぎる。
『いいか、サランは物語のメインキャラクターの先祖だ!』
……出来ない。そう言うだけなのにその四文字を口から捻り出せない。
「駄目……かな?」
サランは寂しそうな顔で言う。
ゼノは申し訳なさそうな顔をしながらも意を決して言う。
「ごめん……なさい……」
「……そう」
ゼノがそう言うとサランは一瞬目元をさする。
「……ならしょうがない」サランは無理に作った笑顔でゼノに言うと、後ろを向いて歩き出そうとする。
「……ッ!待って!」
しかし、それを遮りゼノがサランの腕を掴み彼女と向き合う。
「また、ココに戻ってきます」
「えっ……?」
ゼノの言葉でサランは不意をつかれる。
「何年かかっても必ず戻ってきます、だからその時はもう一度冒険に行きましょう!」
「……わかった、楽しみにしてるわ!それまで私はずっと鍛錬するから、覚悟する事!」
「はい!」
「じゃ、着いてきて!今日は色々用意しといたら」
「用意って……?」
「それは着いてからのお楽しみ」
二人は街へとゆっくりと歩き出す。
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