第21話 お兄ちゃん、碧の王宮へと出向く

 さて、今更だけども、僕は、碧の国、ウィスタリア王国の公爵令嬢である。

 この大陸にある3つの国の中でも、このウィスタリアは海に面した割合が多く、他の大陸の国々との貿易がかなり盛んに行われている。

 ここ十年ほどで、造船技術の進歩や氷魔法による食物の長期保存技術等が確立されたこともあり、国はかなり潤っていると言って良いだろう。

 そして、貿易国ならではというところか、この国の王族は、長期の間、国を留守にすることが多い。

 王族自らが外交の先陣に立っており、諸国を漫遊しては、様々な国家間の取り決めを結んでいるのだ。

 公爵である父は、王族不在の間の政を受け持つ立場にある筆頭貴族の一人であり、日々忙しいそうに奔走している。

 まあ、前置きが長くなったが、僕が聖女候補になってから、はじめてこの碧の国に国王陛下が帰ってきた。

 つまるところ、挨拶に行かねばということで、僕は父に連れられ、ウィスタリア城へとやってきていた。

 カーネルのやや無骨で堅牢そうな城と比較すると、こちらの城は、見た目重視で、他国の建築様式なども取り入れられた絢爛豪華なものになっている。


「ふぅ、緊張したぁ……」


 聖女候補になったことを国王様に報告した後、僕は、あてがわれた客間で、ふぅと息を吐いていた。


「堂々とした態度でした。セレーネ様」


 そう声をかけたのは、アニエスだ。

 彼女には、傍付き侍女として、今回の謁見に随伴してもらっていた。

 ちなみに格好はあのミニスカメイド服だ。

 侍女としてはやや露出の多い格好に、胡乱気な視線を向ける輩も多少はいたが、スカートが短い以外は、別段おかしなところもないので、あえて指摘してくる者もいなかった。

 まあ、この碧の国は、比較的他国人も多く、文化的にも多くのものを受け入れられる大らかな性格の人が多い。

 砂漠の国からの移民が作った地域なんかでは、もっと露出の多い格好をした踊り子なんかも普通に闊歩しているというし、アニエスの格好くらいだったら、まあ、セーフだろう。


「国王陛下へのご報告も終わったし、とりあえずはこれで帰れるのかしら?」

「いえ、王子殿下との謁見もこの後控えております」


 あー、そうだった。

 碧の国の王子、エリアス様との謁見が控えているのをすっかり忘れていた。

 エリアス様は、この国の第1王子で、私と同じ12歳。

 実は今回が初対面だったりする。

 王族と公爵家のパイプはそれなりのものなので、不思議に思うかもしれないが、これには実は理由がある。

 それは、エリアス様が、王位継承の権利のトップになったのは、ごく最近の事だったからだ。

 およそ3年前の事だ。

 国王様の長男で、第一王位継承権を持っていたフェリックス王子が突然失踪なされた。

 フェリックス様は歳若い王子だったが、知性にも魔力にも非常に優れた才人であり、まだ10代にも関わらず、国王の名代として、外交を任されるまでになっていた。

 そして、とある国のパーティーへと出席した帰り、姿をくらませたのだ。

 前触れもなく、突然の事だった。

 護衛として同伴していた騎士達の話では、帰国の道中において、突然王子が海へと飛び込んだのだという話だった。

 当日は嵐であり、捜索もろくに叶わなかった。

 以降、何度も捜索隊が送られることとなったが、未だに王子は見つかっておらず、すでに誰もが、心の中では死亡したものと思っている。

 明確な死亡確認が取れなかったため、長らく王子は第一王位継承権を持ったままだったが、3年が経過し、さすがに国としても、次の世継ぎを見つけなければならない状況になったというところだった。

 そこで、第一王位継承権を持つことになったのが、エリアス様だ。

 エリアス様は、現国王のはとこにあたる。一応、第一王位継承権を持つ立場にいるが、他にも、候補者は何人もおり、カーネルのレオンハルト様のように、確実に王になるだろうと言われている状況とは少し異なっているのが現状だ。


「どんな方なのでしょうか」


 一応、父から聞いた話だと、理知的な方ということだったが、若干言葉を濁したところがあった。


「レオンハルト様の話だと……物静かな方、だと」

「ほう」


 理知的で、物静か……うん、なんだか言葉を選んでる感が半端ないな。

 と、そこでドアをノックする音が。


「セレーネ・ファンネル様。エリアス王子の準備が整いました。ご案内いたします」


 さて、どんな人物だろうか。

 王子というからには、攻略対象である可能性もあるし、できる限り仲良くしないと。 

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