お兄ちゃんは悪役令嬢~妹と取り違えられて乙女ゲームの世界に転生してしまった兄ですが、たま~にもらえる助言を頼りに、破滅エンド回避に向けてがんばります~
GIMI
第1話 お兄ちゃん、聖女候補になる
「セレーネ様!! セレーネ・ファンネル様!!」
誰かが名を呼ぶ声に、僕はゆっくりと目を開く。
そこは、公爵家の儀礼室だった。
赤い絨毯の敷かれた採光豊かな大広間。天頂から降り注ぐ幻想的な光が、僕を照らしている。
周りを確認するように首を振ると、視線が一人の男性の顔を捉えた。
メガネをかけた十代後半くらいの青年だ。
老人の白髪とは違う、艶のある長い銀髪を首の後ろでくくり、純白の僧服に身を包んだ美男子。
僕は、この人を知っている。
若くして司祭の地位を持ち、この地域の巡回神父を任されているルカード様だ。
銀髪のイケメン神父は、僕が目を覚ましたのに気づくと、その柔和そうな顔をホッと綻ばせた。
「良かった。セレーネ様、お身体は大丈夫ですか?」
「ルカード様……」
ゆっくりと身体を起こす。
うん、大丈夫。
別にどこかが痛かったり、立ち眩みをするなんてこともない。
頭も体もいたって平常運転。
ただ、一つ変わったところがあるとすれば……。
(前世の記憶、思い出しちゃった……)
心の中での一人称が"
部屋にあった豪奢なソファに座らされた僕は、ボケーっと虚空を見つめながら、自分の境遇に想いを馳せていた。
僕の名前は"セレーネ・ファンネル"。
碧の国"ウィスタリア王国"の公爵家の一人娘だ。
12歳の誕生日を迎えたばかりの僕は、今日、巡回神父であるルカード様の手で、"魔力解放の儀"を行った。
この国では、諸々の事情で、12歳までは魔力を解放することを禁止されている。
だから、皆12歳になって、初めて自分の魔法の才覚に気づくわけなのだが、僕はどうやら、魔力が解放されると同時に、前世の記憶までもが解放されてしまったらしい。
そして、前世で僕は、れっきとした男だった……。
(いや、しかし……)
白磁のような肌をした細い手足に目を向ける。
うん、女の子の身体だ。
いや、もう12年この身体と付き合ってきた記憶はあるわけなので、今更何も感じることはないのだが、自分が元男だったという事実にどうしても違和感を禁じ得ない。
頭の中では、貴族令嬢セレーネとしての12年余りの記憶と、前世で男子高校生の日常を過ごしていた記憶が、グルグルと混ざり合って、なんだか気持ちが悪い。
「やはり、体調が優れないようですね……」
僕が難しい顔をしていると、ルカード様が心配そうに顔を覗き込んできた。
マジマジと僕を見つめるその顔は、あまりにも整っている。
もし、前世の世界にこんなイケメンがいたら、すぐさま芸能界にスカウトされるのは間違いないだろう。
「あ、いえ、大丈夫です。少しだけ、なんだか頭がボーっとしてしまって」
「無理もありません。セレーネ様は……どうやら、卓越した才覚をお持ちのようですので」
一瞬言葉に詰まったように感じたが、僕の気のせいだろうか。
「セレーネ!!」
その時だった。
バンッと大きな音がして、部屋へと入ってきたのは、僕の父親であるヒルト・ファンネル公爵だ。
まだ、三十になったばかりの年若い父親で、僕の母である公爵夫人を早くに亡くしてから、男親一人で僕を育ててくれた(といっても、身の回りの世話をしてくれたのは乳母や侍女達だけど)。
僕の事を溺愛している父は、その端正な顔に涙を滲ませながら、大仰な仕草で僕を抱きしめた。
「おお、可愛いセレーネ!! 良かった!! 無事、目を覚ましたのだな!!」
魔力解放の儀の際に、僕が倒れたと聞いて、執務中にも関わらず、すぐに駆け付けてくれたらしい。
とはいえ、さすがに、こんな姿を家の外の者に見られるのも恥ずかしい。
「お、お父様、司祭様が見ておられますから……」
「あ、ああ、そうだったな……」
父は、コホンと咳ばらいをすると、立ち上がった。
「ルカード様。状況は、侍女達から聞いた。もしや、娘は……」
「はい、おそらく」
なにか、わかったような顔で、美形の2人は頷き合う。
な、なんだろう。なんだか、少し怖いんだけども……。
「セレーネ、落ち着いて、よく聞きなさい」
諭すようにそう言う父に、僕も神妙な顔で頷き返す。
すると、ルカード様が口を開いた。
「セレーネ様。私は、先ほど、貴女には、卓越した才覚があるかもしれない、と申し上げました」
「あ、はい……」
うん、確かに、そう言っていた。
「その才覚とは、他でもありません。魔力の性質についてのことです」
「魔力の性質?」
「そう、貴女が持つ魔力は、ウィスタリア人が多く持つ"碧"でも、隣国であるカーネルに多くいる"紅"でもありません。貴女が持つ魔力は"白"。白の魔力なのです」
「白の……魔力……」
聞いた事がある。
肉体を司る紅の魔力と自然を司る碧の魔力。そのどちらにも属しない、特別な魔力があることを。
そして、その魔力を持つ者が、どういう存在であるのかも。
ハッと、目を見開いた自分を見て、ルカード様は頷いた。
「そうです。セレーネ・ファンネル様。貴女は、次代の"聖女"となるべきお方かもしれないのです」
唐突に告げられたその事実に、ただでさえ突然蘇った前世の記憶のせいでパンクしかかっていた僕の頭は、許容量を完全に超えたのだった。
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