第23話 なんかすごそう

鋼鉄の斧たちと出会ったあとはただ真っ直ぐと道を歩いた。しかし森の中とは打って変わって、結構な数の馬車や冒険者とすれ違う。センドーガは思ったよりも大きな街なのかもしれない。

また、ハギルさんが言った通りスーツを着て1人で歩いている俺がよほど珍しいらしく、こちらの様子を伺う視線ばかりだった。警戒しているというよりは、興味があるような視線だ。

そんなに気にされてしまうと、なんとなく居心地が悪い。それに常に人の目がこちらを向いていたので、森に入ってヴィトを休憩させてやることができなかった。仕方がないので途中からは元の大きさに戻ったヴィトをタオルで包み抱えて歩く。パッと見は小さな生き物を抱えているとしか見えないので、問題ないだろう。

あの美人…メディシアさんは白いリスザルを連れていたし、魔物や魔獣を従える人も普通にいるってことだ。ヴィトには狭い思いはしてほしくないし、いつかは一緒に横を歩きながら街を巡りたいと思う。

少し希望を胸に抱きながら、半日以上をかけて俺たちはセンドーガに到着した。


ーーーーーー…


「はぁ、やーっと着いた~」


以前よりも体が疲れにくくなったとはいっても、さすがに半日歩きっぱなしは疲れた。

それにずっとヴィトを抱えていたおかげで、腕も痛い気がする。これは筋肉痛だ。


センドーガは高い壁に囲まれた街のようで、中に入るためには門を通る必要があるらしい。見ると、ハギルさんとは違う風貌の鎧を纏った人が2人、扉の前に立っていた。門は少し厚みがあるようで、中にもう1人いる。皆、そこで手をかざしたり何かを提出したりしている。あ、あとコインも渡してるっぽいな。やはりお金がいるのか。足りるかな…

少し不安になりつつ、入場のための列に並ぶ。と言ってもこちらは徒歩専用のようで、5グループほど並んでいる。皆鎧やら武器やらを装備しているので、冒険者だろう。俺の背丈くらいある剣を背負ってる人もいて、本当にあれを振り回すのかと驚いてしまった。


徒歩専用の入り口には少し大きめな扉が1枚、隣の馬車が出入りするであろう入り口には両開きのでかい扉が付いている。

この両開きの扉は日中は常に開きっぱなしなようだが、門兵が立っているためそこから入ろうとしてる徒歩の民はこちらに誘導されていた。


あっちこっちと眺めていると、とうとう俺の番が来る。

空港のゲートを通る時、悪い事はしてないし何も持ってない筈なのになぜか緊張してしまう…その緊張と同じものを今感じている。ドキドキしながら前の人達が終わるのを待っていれば、ふと門兵と目が合った。日本人のサガか、目が合えば反射的に頭を下げてしまう。ペコリとすれば、彼らは胸に拳を当て俺に敬礼をした。これ、俺知ってる。命を捧げよのポーズだ。しかし、なぜ今俺に?他の人たちにはしていなかった…あ、もしかしてスーツ効果だろうか。

考えを巡らせていると、片方が話しかけてきた。


「名をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「マサヨシです。」

「マサヨシ様。冒険者名『鋼鉄の斧』より、お話を伺っております。どうぞ中へ。」


え?鋼鉄の斧?何のことかもう少し話を聞きたかったが、おとなしくついていく。


「ようこそ、センドーガへ。冒険者名『鋼鉄の斧』よりお話を伺っております。精霊の加護を受け、転移してしまっただとか。」

「はい。本当は住んでいた場所から出るつもりはなかったんですが…なので、身分証明になるものを持っていなくって。」

「貴方の村には帰る予定ですか?」

「できれば帰りたいとは思っています。」

「そうですか…では、この街に登録するよりは冒険者になったほうがいいですね。ギルドに行き登録を完了すれば、冒険者になることができます。その際に冒険者カードがもらえますが、そのカードは身分証の代わりにもなるし、冒険者である証明にもなります。冒険者のみの免除などもありますので、その際に必要になりますね。」


なるほど、このあたりは一応漫画や小説などで予習は済んでいるため、理解はできる。


「冒険者に登録すると、街に滞在している冒険者として門まで情報が送られてきます。その為、再度こちらに登録に来て頂かなくて結構ですので。その他の詳しいことはギルトで聞いてください。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「いえ、これが私たちの仕事です。それに、あのハギルさんが頼むと仰っていたので、お人柄は保証されていますから。」

「ハギルさんたちって有名なんですか?」

「この街に住んでる人で知らない人はいないでしょうね。この後は冒険者ギルドに行かれますよね?きっと彼らはギルドでも声掛けをしていると思うので、そちらの方が詳しく教えてくれますよ。」


よくわからないが、なかなかすごい人達なのかもしれない。


「はい、わかりました。それで、あの…」

「ああ、すみません。ついおしゃべりを。センドーガへの入場料は大人一人300リンです。ただ、そちらの…包みは、魔物でしょうか?」


どきりとした。


「ええと、はい。実は私の従魔で…街の方々の従魔に対する印象がわからなかったので、こういう形で運んでいました。」

「なるほど。契約はお済みですか?」

「はい。」

「従魔を見せていただいてもよろしいでしょうか。一応、規則としてどのような魔物が街へ入るか記録をしないといけなくて。」

「わかりました。」


本当はヴィトを見せることはとても不安だ。しかし、断ることはできないようだし、まぁ…なるようになるか。ヴィトがフェンリルの亜種であることを説明することも考慮に入れ、そっとタオルをめくる。


「………すみません、長い間抱えて歩いていたので、その…暇だったようです。」


タオルの中ですぴすぴと眠るヴィト。周りにバレないよう、あまり話しかけることはなかったし、ヴィトも察してくれたのか大人しくしてくれていた。そりゃ暇だろうな…それに、タオルに包まれてほどよい振動があれば寝ちゃうのは仕方ない。鼻を鳴らしながら寝ていて、ちょろりとベロが出てる。あまりにもかわいい。自然と口角が上がってしまうが、いけないと首を振って門兵に視線を向ける。が、どうやら門兵もそう思ったようで、ウッと声を上げ心臓を抑えていた。その気持ち、わかります。

俺の生暖かい視線に気づいたのか、ごほんと咳ばらいをして話を続ける。


「魔獣、ですかか。あまり見たことがない種類ですね。」

「ええ、だからか別の街で散々追い払われたようで。」

「……なるほど。しかし、良い主人に会えたようで何よりですね。契約している魔物が暴れた際は、主人の責任になるのでお気を付けください。また、入場料が200リンかかります。併せて500リンですね。」

「はい。」


頷いて、空間ボックスから500リンを取り出す。頭の中で500リンを出したい想像をすれば手が勝手に硬貨を握った。そしてそのまま出せば、銀色のコインを5枚握っていた。銀貨1枚で100リンか。


「空間ボックスですか。珍しいスキルをお持ちですね。はい、確かに。」


彼は500リンを受け取ると、さっと拳を胸に当てて敬礼してくれた。


「門を出て、まっすぐあるけば大通りに出ます。その周辺に冒険者ギルドもありますので、まずは向かってみてください。では、良い1日を。」

「はい、色々とありがとうございました。」


門兵さんに頭を下げて門をくぐる。とりあえず、心配していた街に入れないという状況は免れたので安心した。

なんやかんや朝から数時間歩き、そこから半日ほどかけてセンドーガまで歩いたおかげか、もう夕暮れも過ぎてしまう。今日最低限やるべきことは、宿をとることかな。


「冒険者ギルドは明日朝イチで行こう。とりあえず今日の休む場所がないのは困るからな。」


ふと顔を上げると、そこは中世ヨーロッパのような街並みがあった。あまり都会のようにも見えないが、過ごしやすそうな街である。家々に柔らかな光が灯り、見せはclosedと下げ札が下がっている。

きっと昼間に来たら活気がすごいんだろう。


兎にも角にも、宿屋探しだ。

大通りに出たら何かあるかななどと考えながら、歩みを進めた。

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