第19話 2日目

朝。体が軋むような感覚がして起きれば、そこは昨日よりも少し明るい洞窟内だった。

そういえば、異世界に来ちゃったんだったな…なんて思いながらふと下を見れば、まんまるな目と視線がぶつかる。ぱちぱちと瞬きをし、いまいち状況が把握できていないようだ。


「おはよう、ヴィト。」

「…おは、よう マサヨシ…」

「昨日は池で汚れを落としたところまでは覚えているか?あの後、あの子ウサギのママさんに寝床まで案内してもらったんだ。って、こんな状態だと何もできなかったよな、すまん。」


包んでいたタオルを取れば、すぐに膝から飛び降りて自分の体をチェックするヴィト。その場で伸びをしたりくるくる回って自分の状態をチェックしたりしている様はとてつもなくかわいい。朝から癒されるな…

空間ボックスにタオルを戻しつつ、俺も立ち上がって伸びをする。背中や肩がボキボキといい音が鳴っている。軽く体をひねったり腕を回したりして体を動かせば、腹がぐうと鳴った。そういえば、昨日は昼におにぎりを食ったっきりで、なにも口にしていなかったな。腹は空いているしヴィトにも食わせてやりたい…が、だがしかし今はできるだけ金は使いたくない。


「ヴィト、今日は街へ行こう。まずは飯と言いたいところだが、街へ入る際に金が必要かもしれないし、いくらかかるかもわからないからな。とりあえず街へ向かってから考えよう。と言っても、ここからどれくらいの距離に街があるかわからないけど。ママさんなら知ってるかな。」

「ん、わかった!」


ヴィトの元気いっぱいな返事を聞いてうんうんと頷く。昨日よりも元気じゃないか?いっぱい寝て元気が出たのかね。いいことだ。元気が一番。

緩くなる口元を引き締めつつ、スーツの土を払う。そういえばこの服装も浮くだろうし、街で買いたいな。スーツはできれば向こうに帰る為に取っておきたいが、背に腹はかえられん。いくらになるかはさておき、売れるなら売りたい。とりあえず街、次に情報。あとは金だな。


周りを見渡せば、皆すでに起きて毛づくろいをしているようだったのでママさんたちに声をかけに行く。


「ママさん、ありがとう。野晒しよりも随分と快適だったよ。」

「ありがと!」

「ヨク ネムレタカ?」

「ああ、おかげさまで。それで、俺たちは街に行きたいと思ってるんだが、街がどのあたりにあるか知ってるか?できれば、えーっと……ヴィト、逃げてきた街はどっちにあるかわかる?」

「んと、んと、あっち!」

「あっち以外の方角にある街だと嬉しいんだが。」


そういうと、ママさんは少し悩んでグルルと鳴いた。


「マチトイウノハ、ワカラナイ。ダガ、ヒトガタヲヨクミカケルバショナラ、アル。」

「そうか!お世話になりっぱなしで申し訳ないが、どのあたりか教えてもらえないだろうか。」

「イイ。フクザツナミチ デモナイ。カリバノサキダ。ソコマデデヨケレバ、アンナイデキル。」

「十分だ、ありがとう!」


いい人…いや、いい魔獣?に出会えてよかった。さっそく向かうのか、ママさんと数匹のゴツモフが動き始める。子ウサギはお留守番のようで、手を振りつつママさんたちについて洞窟を出た。

ついでに池で水分補給をしていくようだったので、俺も顔を洗って口をゆすぐ。日の光を浴びて昨晩よりも澄んで見える水は、やはり冷たく気分をシャキッとさせてくれる。今日も今日とて妖精の赤ちゃんがふわふわと漂っているのを見て、そういえばこの水はおいしいんだっけか…と一口飲んでみる。すぐは冷たく突き刺す痛みはあるが、味はまろやかで甘く感じられた。日本でペットボトルで買ってた水よりもうまい。そりゃ魔獣たちもこの池に集うわけだわ。入れ物があれば持っていきたかったけど、残念ながら今手元にはない。次までには水筒は絶対に準備するぞ、と心に書きとどめた。

ヴィトを見るとヴィトも必死に飲んでおり、その必死さがかわいくて見つめていると俺の視線に気づいたのかこちらを見てヘニョリと照れたように笑った。必死なところを見られて恥ずかしかったらしい。見た目犬なのに表情が豊かだな…


口の周りと胸元の毛が濡れていたのでタオルで拭こうとしたが、その前にうまく魔法を使って乾かしていた。ヴィトさん、思ったより上手に魔法使いますな?こっちの世界の住人はこんなもんなのかね。

ヴィトを観察していると、ママさんたちも満足したのか再度歩き始める。てっきり道なき道を行くのかと思っていたが、獣道よりも広い道を歩くようだ。そういえば狩場と言っていたな、と思い出す。結構な頻度で通っているのかもしれない。土はそれなりに踏み固められ、草木も適度に払われていた。そして何より俺よりもデカくてゴツいのが通れるような道なので、それなりに広く感じられた。


そして15分ほど歩いていると、くるりとママさんたちが振り返る。どうやらこの近辺が狩場らしい。


「アチラノホウヘモットアルケバ、ヒトガタガデル。」

「わかった。何から何まで、ありがとう。元気でな。」

「またねっ」

「アア。キヲツケロ。」


手を振ってママさんが指した方向へ向かう。先ほどよりも歩きにくくはあったが、人に会うためだ。

躓かないように気を付けながら、まっすぐ歩いて進んだ。

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