第7話 アプリ
ホログラム画面をよく見てみると、先ほどまでは気が付かなかったがアイコンの下に名前が書いてある。
先ほど開いていた1番左にあるアプリには、しっかりと"ステータス"と書かれていた。
「気づかなかったな…」
こんなにもわかりやすいところにあるのに…と、誰も見てないのに頭の後ろを掻きながら少し顔が熱くなる。
こういう細かいところをよく見逃してしまったり、集中すると途端に別のことには手がつかなくなったりするタイプなため、同期や上司からはよく注意力散漫だと言われた。また、後輩からはしっかりして欲しいと笑いながらも突っ込まれることもあった。
「こんな日本よりもわけがわからない場所に来てしまったんだし、しっかりしないと。生きていけなくなるかもしれん。」
気を入れ直し、再度アプリに目を移す。
アプリにはそれぞれ、左から"ステータス"、"マップ"、"クッキングパッド"、"オーダー"、"アプリストア"と書いてある。
「マップ!」
思わず大きな声を出してしまった。
慌てて子犬を見るが、気持ちよさそうにスヤスヤと寝ている。
危ない危ない、起こすところだった。きっと心身ともに疲れているだろうし、しっかりと寝て英気を養ってほしい。起こさない程度に、背中側をトントンと叩く。たくさん寝て、大きなモフモフになるんだぞ…
「このマップ、RPGゲームとかでよく見る感じのやつだな。上から見たマップか。いきなりゲーム感が出てきたぞ…いや、ステータスとか魔法とかもゲーム感万歳だが。
というかこのマップを見るに、ここら一帯ずっと木しかなさそうだな。さっきの鎧を着た男が進んだ方に人の住む場所があるとは思うが、そっちに行っても大丈夫なんだろうか…」
正直、ああいう文句を言いながら仕事をする輩がいる集落だと思うと、少々心配になってしまう。自分以外に人がいないと判断しての愚痴かもしれないが、仕事中に漏らすのは仕事人としてどうなんだろうか…それに、小さな生き物を探していたようだが。
チラリと腕の中の子犬を見て、まさかな、と思う。
こういう展開はお約束でありそうだし…いやでもさすがにそんな小説の主人公のようなことはそうそう起こらないと信じたい。
「それにしても、ここは静かな森だなぁ。アクティブな生き物が少ないのかもしれないな。」
木々が生い茂るこの場所に先ほどからずっと滞在しているが、あの男以外の生き物が立てる音が聞こえてこず、ただ風でなびく葉や草の音しか聞こえない。
また、あの男は1人なのにも関わらず、ガザガザと大きな音を立てたりブツブツと声を出したりして歩いていた。
ということは、この森にはあまり危険な生物というものがいないのかもしれない。
まぁ、これは憶測にすぎないが。
「次は…クッキングパッド。…なぜ?いや、確かに日本に住んでいた時に大変お世話になったし、俺の携帯にも入れていたが。この5つのアプリに入るほど重要なアプリか?」
タップしてみても、特にいつも使っていたものと変わりはなく。唯一変わるところといえば、ログインという文字が無くなっており、書き込みができずにただレシピを見ることしかできないようになっていた。
「俺は見るだけだったし、特に困りはしないかな。あ、でもお気に入り機能は残ってる。以前作ってみて美味しくてお気に入りしたものがわかる。こっちでも作れたら嬉しいけど、食材とか調味料とかは一緒のものがあるのかわからんから、そこは自分で頑張って探すしかないってことかね。」
ふんふん、とクッキングパッドを一通りみて、他に特に変わったところもないことを確認し、閉じた。
「こう、俺の携帯に元々入れていたアプリから引き継がれた唯一がコレだと考えると、結構愛着が沸くな…これからもおいしいものを俺に食べさせてくれよ。」
特に返事はなかった。
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"堅実に大人しく事なかれは正義"がモットーに生きている男ですが、実は割と雑で「なんとかなるだろう」精神で生きているという、堅実とはかけ離れた抜けた性格です。
しかし本人は真面目に堅実に生きていると思っています。そうです、阿呆です。
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