第1話 なにがなんだか
気が付いたら、見知らぬ森にいた。
気が付く、という表現は少し間違っているかもしれない。
ぼーっとしていたわけでもなく、何かに気を取られていたわけでもない。
さっきまで俺は、外回り営業のペアでもある仲の良い後輩と昼飯を食べ、人混みに揉まれながらもやっとの思いで会社に帰ってきたばかりだった。そしてちょっとばかし人体の神秘にお呼ばれしたので、後輩に先に戻るよう声をかけトイレに向かったのだ。
珍しく人気のない廊下を歩き、男子トイレのドアを開けたら突然、目が開けてられないほどの真っ白な光がバッと視界いっぱいに広がったのである。
俺は思わずドアノブから手を離し、両腕で顔を覆ってしまった。
それから目がチカチカするものの、先ほどまでの眩すぎる光が収まったことを確認し、そっと腕を下ろして見るとそこは、見知らぬ森だった…ということだ。
何を言ってるかわからないと思うが、俺もわからない。
そしてびっくりしすぎて尿意がどこかに飛んでいった。
意識も共にどこかに飛んでいきそうになっていたが、なんとか歯を食いしばり意識を保ちつつあたりを見渡した。
しかし、その場でぐるりと一周してみても木しか見えない。
俺の今立っている場所は少し開けており、下を見ると土も見えるが左右に10歩も進まない距離からは既に木と草しか見えないのだ。
こんなに木に囲まれた場所なんて、小学生の頃に学校行事で行ったキャンプ先しか知らない。
どうやって会社に帰るべきか…と悩みつつ視線を前に戻すと、ずっと先に黒色のモコモコのような何かがあることに気がついた。
「なんだ、あれは」
ぬいぐるみか何かが落ちてるのかと思い、近寄って見るとそのモコモコが黒だった為わかりにくかったが、土埃と赤黒いカピカピとした何かが付着していることがわかった。
思わず俺はソッとそれを拾い上げる。
と、そのモコモコは生きていたのか、ビクッと大きく揺れた。
まさか生きているとは思わず、こっちも大きく肩を揺らしてしまう。そしてその反動に、生き物を手から落としてしまった。
「あっ!す、すまん」
咄嗟に声に出して謝ったが、モコモコは落ちたと同時にヨタヨタしながら俺から3mほど距離を取った場所に逃げていく。
歩き方といい、付着してるものといい、そいつが大怪我をしていることが見て取れる。
俺としてはそんな弱っているモコモコ、もとい動物を放っておけないのだ。たとえ、そいつが見たことのない… 子犬のような見た目なのに、額に小さなツノのような突起がある、生き物だとしても。
「な、なぁ。お前、怪我してるんじゃないか?
少し、俺に見せてくれよ。こうみえても、高校まで獣医を目指してたんだよ。ほら、俺、怪しい者じゃない。お前に危害は絶対に加えない。
手当がしたいんだ。」
出来るだけ怯えさせないように地面に膝をついて持ってる鞄を地面に置き、両手を下げながら手のひらを見せた。
「お前が、心配なんだ。」
言葉が通じているかはわからないが、ゆっくりと言葉を発する。
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