system down...『止まった世界の小さな旅』

チビスケ

人が消えた街

人が消えた街1

陽炎の立つ人のいない閑静なビル群ーーその中をドドドドドと、リズムよく音を立て進む乗り物の姿があります。その乗り物は装輪装甲車の天井をとっぱらい、後方には手作り感あふれるステキな荷台がついた、たいへん不格好で、奇妙な物でした。


その乗り物には、10代半ばに見える少女2人乗っています。




「レナー、ひまー」




そう言っで荷台から運転手に愚痴をこぼすのは、褐色の肌を持ち、黒い髪を後頭部で結った小柄な女の子です。




「ソラ、コレで31回目だ、ちょっとぐらい辛抱しろ」




そう答えたのは、レナと呼ばれた女の子で、白く綺麗な肌と金色の肩まである髪が特徴的です。


ソラは、タンクトップに薄手のトレンチコートを羽織り、七分丈のカーゴパンツ。それに、ゴツゴツとしたミリタリーブーツで身を包みサバイバルでもしているかのような風体をしています。


レナも似たような格好で、違いと言えばトレンチコートの代わりに少し大きめで、薄汚れたグレーのパーカーを身に着けています。


面倒くさそうに返事を返すレナをよそにソラはあくび交じりに愚痴を続けるのでした。




「ビルばっかでつまんない」


「仕方ないよ、もう少し進んだらオフィス街を抜けられると思うから、そうしたらご飯にしよう」


「おふぃすがい?」


「こういうビルばっかりの所を昔はオフィス街って呼んでたんだって」


「ふーん」




たわいのない会話をする2人を乗せた奇妙な乗り物は、ビルの谷間をゆっくりと走っていきます。




しばらく進むと、見上げれば首が痛くなるような高層ビルが少なくなり、比較的小さめの建物が増えてきました。


そこから少し走ったあたりで、一定のリズムを刻んでいたエンジンが止まりました。




「よし、ここら辺で昼食にしよう」


「ごはん!?」




それまで荷台で仰向けに寝ていたソラが聞き返しました。




「ほら、早く準備しろ」




車多の軋む音と共に、レナが乗り物から降りて言いました。




「りょーかい!」




ソラは車体を揺らしながら飛び降り、返事をします。


食事の準備といっても簡単なものです。数日前に汲んでおいた水を鍋に入れ、組み立てたシングルバーナー(キャンプで使うようなバーナーコンロ)にかけます。沸騰してきたら固形化させたスープの素を入れ、しばらくするとスープの完成です。あとは非常用の乾パンを荷台のリュックから出したら出来上がり。




「かんせいー」


「こんなメニューでよくそんなに喜べるな」


「だってきょうのスープは、いつもとちがって“なぞにく”がはいってるからな!」


「狩りが上手くいってよかったよ」


「わたしのうでが、いいからだな!」




狩りとは、食材や資材調達のことです。といっても本当に動物を狩ったり、木を切るわけではありません。地面15mほど上空を飛んでいる運搬用のドローンを落し、無理やりこじ開けて、その中身を回収することです。ソラの言った「腕がいい」というのはドローンを落とすのが上手いという意味なのです。




「しっかし、いいもの手に入れたな」




レナがスープをすすりながらソラのわきに置いてある武器を見ながら呟きました。それはボウガンのような形をしていました。今は矢のかわりにドローンを落とす用のロープのついたフック状のアンカーが装填されています。




「えへへ、ボウちゃんっていうの」


「安直だなぁ…」


「なまえなんてテキトーでいいの!それより、このあとはどっちにいくの?」


「そうだなぁ……さっき見た案内板によると、この先に大きめの公園があるみたいだし、そこを目指そうかな」


「きょうは、そこでねるの?」


「うん、もしビルが崩れても安全だからね」


「そんなことありえないでしょ」


「そうとも限らない……と言いたいところだけど、ありえないだろうね」


「たくさんいるもんね」


「多いな」




2人の視線の先には、複数の整備ロボがビルの修復をしています。大きさや形は様々で、それぞれの作業に応じた造りになっているようです。道路工事やビルの修復・修繕など危険を伴う作業の大半は自動化され、人がいなくなった今も問題なくその役割を果たしているようです。


昼食を食べた2人は、使ったものを荷台に戻すと、自分たちも乗り込んで公園に向けて走り出しました。










目的地の公園はとてつもなく広く、10mぐらいの木と膝下まである草におおわれています。


整備用の園芸ロボは配備されていなかったようで豊かな自然がそこにはありました。見たところ遊具もなく自然公園のような場所だったのでしょう。




「なんだかもりのなかみたい」


「ほんと、この公園だけ別世界みたいだ」




かつて遊歩道だったであろう場所を2人を乗せた奇妙な乗り物が進みます。




「どこまでいくの?」


「少し進んだところに芝生エリアがあるはずだからそこまで」


「しばふかー……じゃあ、ばんごはんはカレーあじのスープだね」


「芝生とカレーにどんな関係があるんだよ」


「えー…カレーがよかったー」


「また今度な」


「こんどっていつ?」


「そうだなぁ……ソラがおねしょしなくなったら!」


「なっ……」


「冗談だよ、でも今晩はコーンスープにしよう」


「ちぇー」




そんな会話をしていると目的の芝生エリアに着きました。




「ほら、いつまでも拗ねてないでテント立てるの手伝ってよ」


「……」


「ソラ?」


「……ぐー」


「こら、起きろ」




そう言いながら軽く小突くとソラの頭からはコツンという”すっからかん”な音がしました。




「いたっ、なにすんのさ!!」


「寝てる暇があったら、水くんできて」


「えぇー」


「仕方ないだろ、朝くんだ分は誰かさんのパンツとシェラフを洗うのにつかったんだから」


「ゔっ……くんできます」


「いいこいいこ」


「まったく、レナはひとづかいがあらいなぁ……」




ソラがぼやきながらいくつかの入れ物を持って水を汲みに行ったのでレナはテントを立てます。ワンタッチで開く簡単な構造なのでものの数分あれば1人でも簡単に設営できます。


でもまずは休憩です。ソラの居ない間に1人でする休憩がレナの密かな楽しみだったりするのです。


目を閉じ、耳をすますとビルを吹き抜ける風や小川のせせらぎ、さっきまで動いていたエンジンから聞こえるカラカラという機械的な音までいろんな音がレナの鼓膜を揺さぶります。


初めは気にならなかった太陽の光もまぶたと眼球の間を真っ赤に染め上げ、全身が熱をおびているのを感じさせるのです。


それらを聞き、見て、感じることがレナにとってはとても幸せに思えるのようです。

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