3 太郎の捜索

「おらたち、太郎さんを迎えに行ってくるよ!」


 子どもたちは海に向かって駆けだしてゆをきました。


 子どもを海で亡くした母親は、みんな龍宮城の夢を見るのでしょうか。

 子どもの帰りを信じて永遠に待ち続けるのでしょうか。


 三人が波打ち際まで駆けおりると、なんとまあ、あの大亀がのんびりとうずくまっているではありませんか。


「捕まえろ!」


 子どもたちは甲羅の下に丸太ん棒を突っ込むと力を合わせて押したので、大亀は仰向けに転がりました。テコの原理でした。


「太郎さんを返せ! 人さらい」


「下から炙って、生きたまま亀汁にするぞ」


 胸に淀んでいた、やり場の無い怒りのすべてを、子どもたちは亀にぶつけました。


「やめて、やめて!」


 仰向けになった亀は、ひれをばたつかせて頼みました。


「亀汁は、勘弁して下さい」


「――しゃべった」


 子どもたちは驚きました。


「ここまでされたら、そりゃあ、しゃべりますよ」


 亀は憤然として言い返しました。


「太郎さんなら、ついさっき送り届けたじゃないですか」


「どこに」


「元の浜ですよ」


「元の浜って、ここじゃないか」


「ありゃあ?」


 亀は裏返ったまま首を傾げました。


「似たような浜辺ばかりだから、間違えたかな」


 子どもたちは黙って甲羅の下に乾いた薪を積み始めました。


「待って! いま思い出すから! 待って!」


「太郎さんを置いてきた浜に、いますぐ連れていってよ!」


「分かりましたから。ご案内しますから、勘弁してくださいよ」


 甲羅を長い縄でくくられた亀は、子どもたちの乗った舟を牽いて沖へ出ました。こうして眺めると、青い岬と松林のある浜辺がいくつも並んで、規則的な海岸線を描いていました。


「亀さん、目印とか、ないの?」


「目印ですか? ああ、そうだった!」


 甲羅の隙間から出したインカムを装着して、亀は誰かと話し始めました。


「――お疲れ様です。こちら亀です。なるはやでお願いします。――ええ、そうです。昨日お見えになった浦島太郎さんの現在地を――」


子どもたちは耳をそばだてました。


「え? 反応無し。それって、どういう意味――。え、最後に破壊音が聞こえて、それっきり? ――そりゃまずいなあ」


 インカムを切ると、亀はいかにも参ったふうに首をひねりました。


「どうしたの?」


「いえ――ちょっと」


 亀は黙って泳ぎだしました。そして景色のよく似た別の浜に上がると、亀は子どもたちに頭を下げました。


「太郎さんをお連れした場所はここです。それでですね、今どこにいらっしゃるのかは、分かりかねますです」


 三人は無言で亀を裏返しました。

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