学校一のおデブ君は無自覚イケメンなのでモテるのも当然です
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 学校一のおデブとイケメンと美少女と
「おい見ろよ。豚の方がまだ痩せてるぜ」
「あははは。あれで細田なんだから笑えるよね」
「弁当でけー! もはや餌だろ!」
ギャハハハハ!
柳津高校二年一組の教室である。
クラスのイケてるグループに笑われても、
だってご飯が美味しいから!
唐揚げ、卵焼き、草鞋みたいなトンカツにハンバーグ、色とりどりの野菜に梅干しが三つ並んだ二合分の特盛ご飯。
身長180センチ、体重140キロ、バスト140センチ、ウエスト140センチ、ヒップ140センチのドラ〇もん体形。
細田の名字に反して、仁はどこに出しても恥ずかしい丸々太ったおデブちゃんだった。
なぜ?
食べる事が大好きだから!
三度の飯よりご飯が好き!
隙あらば食べ、暇あれば食べ、とにかく食べてこの通り。
学校一のクソデブ君に育ってしまった。
それで仁はデブのふとしとか呼ばれてバカにされている。
悲しいけれど、ご飯を食べている時だけは幸せだった。
でも食べ終わったしまった。
そしたら途端にみんなの陰口が聞こえてくる。
「デカくて邪魔なんだよ」
「恥ずかしくないわけ?」
「見てるだけで暑苦しくなるぜ」
「確かにその通りですが、人の身体的特徴をバカにするのはどうかと思います」
真面目で美人な委員長はフォローしてくれるけれど、圧倒的多数派の前にはあってないようなものだ。
実際仁もその通りだと思う。
おデブでごめんなさい。
一人で沢山酸素を吸ってごめんなさい。
僕がいたら暑苦しいよね。
仁は気の良いおデブだった。
あっという間に特盛弁当を食べ終わると、心無いクラスメイトに気を使ってのそのそ教室を出ていく。
デザートに甘い物が欲しくなったので購買に菓子パンを買いに行くのだ。
メロンパンにしようかな、アンパンもいいな、マーガリンの入ったジャムパンも食べたいな。じゃあ全部買おう。
バカにされて悲しい気持ちも食べ物の事を考えるとどこへやら。
大福みたいな丸顔を愛嬌たっぷりニコニコさせて歩き出す。
「うわ、でかっ」
「なにあいつ」
「知らないの? 学校一のクソデブの二年のふとしだよ」
「やばっ」
知らない人にもそんな事を言われて、仁はまた悲しくなった。
本当の事だから仕方ないけど。
でも、やっぱり悪口を言われたら悲しい。
教室で菓子パンを食べてたらまたみんなにバカにされる。
菓子パンをどっさり買い込むと、仁は屋上に向かった。
屋上のドアは鍵がかかっているので、そこに上がる階段は利用者のいない学校の隠れ家的スポットになっている。
静かにお弁当を食べたい時など、仁はしばしば利用していた。
でも今日は先客がいた。
「なんでだよ。俺はこの通り、学校一のイケメンだ。学校一の美少女の胡桃にはお似合いの彼氏だろうが」
「タイプじゃないし性格が無理。それ以前になん股もしてる男とか普通にイヤだから。いい加減に諦めて。もう告ってこないでよ」
とんでもない所に出くわしてしまい、仁は固まってしまった。
屋上に上がる階段の踊場では、学校一のイケメンと言われている田中ジュリオが、学校一の美少女と言われている
同学年で有名人なので、仁も二人の事は知っていた。
学校一のイケメンと呼ばれるだけありジュリオはモテモテで、何人もの恋人を侍らせてハーレムを作っていた。そのくせ胡桃にも目をつけて、何度も告白しては振られている。
一方の胡桃もモテモテで、いろんな男に告白されているのだが、どういうわけか彼氏を作らずに全部お断りしているという。一説には女が好きだとか隠れて付き合っている幼馴染の彼氏がいるとか、好き勝手噂を立てられている可哀そうな子だ。
ともあれ気まずいところに出くわしてしまったので、仁は可能な限り存在感を消して後退った。
さて、読者諸君に質問だ。
果たして 身長180センチ、体重140キロ、バスト140センチ、ウエスト140センチ、ヒップ140センチの人間に存在感を消すなんて事が可能だろうか?
……。
…………。
………………。
そう、否だ。
「あぁ? デブのふとしかよ。なに見てんだ。見せもんじゃねぇぞ!」
「ごめん、田中君……」
ジュリオに見つかり、仁の肩がプルンと震えた。
ジュリオとは一年の頃に同じクラスで、なぜか目の敵にされている。
仁をデブのふとしと呼び始めたのもジュリオだった。
「田中って呼ぶんじゃねぇって言ってんだろ!? 脳みそまで脂肪が詰まってんのか!?」
そんな事を言われても、別に仁はジュリオと友達ではない。
むしろ苦手なので、下の名前で呼ぶ筋合いなんかないのだった。
「でも田中君。脳みその60%は脂肪で出来てるんだよ? 脂肪が足りないと、脳の回転が遅くなっちゃうんだって」
「ぷっ、あははは。なにそれ。ふとし君っていうの? 君、面白いね」
胡桃が吹き出した。
仁としては冗談を言ったつもりはなかったのだが。
「ふとしじゃなくて仁だよ。一組の細田仁」
「あ、ごめん。仁君ね。ひーとーしーっと。覚えた」
掌に書いて飲み込むと、胡桃がニッコリと笑いかけた。
学校一のイケメンと違って、学校一の美少女はいい人なんだなと感心する。
「おい胡桃! なにふとしといちゃついてんだよ!」
「はぁ? 別にいちゃついてないし。ていうか、あたしが誰と仲良くしようが勝手でしょ! もう、本当うざい! 友達でもないんだから、偉そうに指図しないで!」
べー! っと舌を出すと、胡桃が階段を下りた。
「――っざっけんな!」
乱暴にジュリオが手を伸ばす。
避けようとした胡桃が階段を踏み外した。
「――きゃっ」
「あぶないっ!」
とっさに仁は前に出て、丸々太った丸太みたいな両腕で胡桃をキャッチした。
「大丈夫?」
「……お、おかげさまで」
怖かったのだろう。
青ざめた胡桃が目を白黒させる。
「お、俺のせいじゃないからな! お前が勝手に転んだんだ!」
その横を、血相を変えたジュリオが逃げ去った。
「どう考えてもあんたのせいでしょうが!? もう、本当最悪!」
「可愛すぎるのも大変なんだね」
胡桃を両手に抱えたまま、仁は言った。
日頃から140キロの重りをつけて生活している仁からすれば、胡桃の体重なんかないようなものである。
「本当だよ! 身体目当てでバカな男子が群がってくるし、女子には嫉妬されるし、いいことなんか全然ないんだから!」
ひとしきり怒ると、胡桃はハッとした。
「ていうかあたし、重くない?」
「ううん。僕に比べたら全然だよ」
「ぷっ、あははは! もう、仁君面白すぎ! ていうか、力持ちなんだね。それに、フニフニしててすっごい気持ちいい。ねぇ、触ってみてもいい?」
「いいよ」
減るもんじゃない。
むしろ増え続けるお肉である。
どうぞご自由にという感じだ。
「では遠慮なく」
もちもち、むにむに、胡桃の手が仁の腕をあっちこっちつついたり揉んだりする。
どうやら二の腕の内側が気に入ったらしい。
「わー! めっちゃ気持ちいい。おっぱいみたい」
「そうなんだ」
「おっぱいよりも気持ちいいかも」
「触ったことないからわかんないや」
「触ってみる? 助けてくれたお礼」
「ううん、いいや。そういうの変だし」
「……ごめん。下心ないか試しちゃった。本当はそんな気なかったの。軽い女だって思わないでね? そういう男ばっかりでつい……」
胡桃が申し訳なさそうにしょんぼりする。
「白玉さんは軽いと思うけど」
「そういう意味じゃなくて!」
「うん。冗談だよ」
胡桃の目がパチパチした。
「もう! からかったな!」
ムニュムニュと仁の胸を叩いた。
「わ、すごい! おっぱいある! 触ってみていい?」
「それはだめ」
「えー、ちょっとだけ。エッチな事しないから! 好奇心! 先っちょだけ!」
「先っちょ以外ならいいよ」
「あはははは」
楽し気に笑うと、胡桃は恐る恐る仁の雄っぱいを揉んだ。
「うわぁ。変な感じ。下手したら、女子のおっぱいより揉み心地良いかも」
「そうなんだ」
「そうだよ。なんかモチっとしてて、揉みごたえがある感じ。でもあたしは二の腕の方が好きかな」
「もう下ろしていい?」
「ごめん、怒っちゃった?」
「ううん。白玉さんを抱いてたら菓子パンが食べれないから」
仁の腕にぶら下がった大きな袋に気づいて、胡桃は爆笑した。
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ちょっと旬を逃した感があるのですが、おデブブームに乗っかっておデブがおデブのままモテるラブコメを書いてみようかなと。
こちらは特にストックはないので、反響次第の不定期更新となります。
こんなのも書いてます。
夏休み初日に知らないギャルと付き合う事になった話
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