最強女魔法使い『疾風』!! アイドルデビュー大作戦!!!!

ネオ・ブリザード

第一話! 疾風、アイドルを目指し、旅立つ!!


 いせかーい、異世界の事でした。


 ある所に『疾風はやて』という、女魔法使い(15歳)がおりました。



 実はこの疾風、【魔法使い】という職業に就いた自分を、とても嫌っておりました。



 何故ならこの世界では、生を受けた時点で今はやりの『スキル』とかいう能力が与えられ、それが将来の職業に大きな影響を受けてしまうからです。



 例え、子供の頃に「小説家になりたい!!」と夢を見ても駄目なのです。想像力や発想力より、筋力や剣技が上回ってしまうのですから。



 大人からすれば、向いている職に就かせようとするのは、ごく自然の事なのかもしれません。



 そういう事もあり、ほとんどの人は他の職業になるのを諦めてしまいます。



 しかし疾風は違いました。


【炎属性】の中でも、最強の部類に入る【業火】というスキルを与えられたにも関わらず、畑違いの職業に就くことを夢見ていました。



【スキル】という呪いに抗おうとしていたのです。




 そんなある日の事でした。


 疾風は、生まれ故郷である小さな村【チサイ村】の中を、親友で幼なじみの『マウ』と歩きながら会話をしておりました。



「……はああぁぁ……アイドルになりたい……」


「また言ってるの? 疾風?」



 このマウは疾風と同い年の女の子で、与えられたスキルは【混合魔法】でした。混合魔法とは、色々な属性の魔法を掛け合わせ、新たな魔法を生み出せるスキルの事です。


 因みに、氷属性と風属性を掛け合わせると【吹雪】ができます。



「ねぇ……疾風、どうしてそんなにアイドルになりたいの?」


「……そんなの解りきってるでしょ!? みんなにちやほやされたいからよ!」


「でも疾風なら、アイドルにならなくてもそのスキルのお陰で、十分みんなにちやほやされるじゃない?」


「……それ、本気で言ってるの……?」



 そうなのです。疾風のスキルはあまりにも強力過ぎる為、周りの人達にドン引きされてしまうのでした。特にファイヤーマウンテンに住む火属性のファイヤードラゴンを、業火のスキルで倒してしまった時の村民の引きっぷりは、それはもう凄いものでした。



「あの時の私、何て言われたか覚えてる!? 『属性ブレイカー』よ? 『属性ブレイカー』!! 『属性ブレイカー疾風』よ!!!!」



 疾風は、左腕をマウの胸元に差し出す様に伸ばすと、余った右腕を頭の上で振り回し、大声で叫ぶのでした。



「は、疾風……三回言わなくても解るよ……」


「何言ってんのよ!? 大事な事だから三回言ってんじゃない!?」



 疾風は、大声で叫びながら言葉を続けます。



「大体さぁ、マウ! 私の気持ちが周りのみんなに伝わったことってある!?」


「そ……それは……」



 マウは押し黙ってしまいました。



「でしょ!? この前なんてさぁ!? 初めて男の人と付き合えたのに、ちょっとイフリートを倒して戻って来たら……あの野郎……」



 疾風は、振り上げていた右腕と差し出していた左腕を握り拳に作り替え、自分の胸の前でわなわなと震わせます。



「『君、強さが過ぎるわ。別れよ?』とか言いやがって!! それ知った上で付き合ってたんじゃねーのかよ!? ふざけんな!!」


「……は、疾風……ちょっと落ち着いて……? ね……?」



 マウは、胸元に持って来た両手の甲を自分の方に向け、一歩引きながら疾風を宥めます。




「でもね、疾風……いくら頭にきたからといっても、片手剣を振り回しながらその男の人を追いかけちゃ駄目だよ……」


「仕方ないじゃない! 村の中では魔法使うのは絶対禁止事項なんだから!!」


「消し炭も駄目だよ……疾風」



 マウはさらに一歩引きながら、優しい口調で話しかけます。

 すると、疾風は振り向きざまにマウに指を差し、思い出したかの様にこう言いました。



「そういえば、マウ! あの時、後ろから私の事を羽交い締めにしたでしょ!? なんで止めたのよ!?」


「しょ……しょうがないじゃない! あんな男の為に、疾風を犯罪者になんて出来なかったんだから!!」



 その言葉を耳にした疾風は腕組みをすると、頬を紅く染め照れ臭そうに顔を反らします。



「あーそれはどうもありがと! とても嬉しいわ!!」


「……いや、その……どう致しまして……」




 疾風とマウがそんな会話をしながら歩いていると、ふたりは村の中心地にやって来ます。中心地といっても人通りはまばらで、今も道の脇に設置されている立て看板に、新しいお知らせが書かれた紙を貼りだしている男性職員がひとり、いる程度でした。





「あ……ねぇ、看板見て行かない? お知らせが新しくなったみたい!!」



 男性職員が古い貼り紙を回収し、去って行くのを見たマウは、早速、新しくなったお知らせを見に行こうと疾風に声をかけます。ですが、疾風は乗り気ではありませんでした。古いお知らせと、同文そのままであることが多かったからです。


 それでもマウは、何か面白い知らせが出ていないかと期待し、立て看板の前まで駆けていきます。



「どうせ大したこと書いて無いわよ……」



 疾風はそう言いながらも、マウの背中を追いかけて行きました。



「えーと、なになに……」



 立て看板の前まで来た疾風とマウ。ふたりは早速、張り紙に目を通し始めます。

 すると、新しいお知らせが出ていました。



「……『路守蛇ろすださんの家の子犬が行方不明』……知らんわ!!」



 子犬探しでした。



「疾風、探してあげたら?」


「……気が向いたらね」



 疾風とマウは、立て看板に出ているお知らせに次々と目を通していきます。



「……『みんなで祝おう! チサイ村収穫祭』」


「……『○○図書館に、本の寄付を!』……この前したわ!!」


「……やっぱり、前とあまり変わらないね……」



 疾風とマウは、前回とほぼ同じ内容に気落ちしながらも、新しいお知らせに目を通し続けます。


 ……と、その時でした。ふたりの目に、とても珍しい文字が飛び込んで来ました。






【王都からのお知らせ】






「王都からのお知らせ!?」



 マウは、滅多に来ること無い王都からのお知らせに、思わず声をあげてしまいます。

 そこには、こう書かれていました。






【王都では、魔王の軍勢の度重なる攻撃により、我が軍は疲弊している。このままでは、王都が陥落するのは時間の問題だ。

 誰でもよい、魔王を討伐してくれないだろうか?】






「……王都って今、大変な事になってたんだ……私達の住む村は魔物に襲われないから、解らなかった……」



 マウは、王都からのお知らせを読んで、自分が外の世界にとんと無頓着だということを思い知らされます。



「これは、いよいよ危機的状況かもねー」



 疾風は、胸の前で腕を組みながら他人事の様に言います。



「……何とか……出来ないかな……」



 マウは、お知らせを見つめながら呟きます。



「何とかって?」


「え? だから、その……魔王を……倒す、とか……」



 疾風は、マウがしどろもどろに口にした言葉を、ばっさりと否定します。



「止めときなさいよ、マウ。無駄死にするだけよ」


「……そ、そんなあ……」



 気落ちしてしまうマウ。



「……私達が責任を感じる事なんて無いわ。大体、困った時だけ村人に助けを求めるなん……」



 その時でした。疾風の目に、ある一文が飛び込んで来たのは。




「……ど、どうしたの? 疾風……?」




 マウは、お知らせを見つめたまま動かなくなった疾風を心配して、声をかけます。



「……こ……これよ……」


「……へぇ……?」


「これなのよぉー!!」


「きゃああぁぁーー!!」



 突如、疾風は立て看板に向かって右手を突き出すと、貼ってあった紙を豪快に破り取り、それを高々と掲げます。



「と、突然どうしたの!? 疾風!?」


「マウ! 私、今から魔王討伐に行ってくる!!」


「え!? 魔王討伐は無駄死にするだけだから止めとけって言ってたのに、何があったの!?」


「さっきはさっきなのよ!!」



 疾風はそう言うと、くしゃくしゃにしたお知らせの紙を両手で開き、王都からのお知らせの最後の一文に指を差します。



「ほら、ここを見て!」


「……ここって言われても……えーと……」



 マウは、疾風の指差した所を一言一句丁寧に読み上げます。



「【魔王を倒した者には、その報奨としてひとつだけ望みを叶えてやろう】……って、まさか!!」



 疾風は右手でぎゅっとお知らせの紙を握り潰すと、全てを悟ったマウにこう言いました。



「そうよ! 私は魔王を倒して、その報奨としてアイドルになるの!!」


「えぇー!? 本気なのぉ!?」


「本気も本気よ!! 待ってなさいよ、魔王! 今行くからねぇー!!」


「あ、待ってよ! 疾風!! ひとりじゃ危ないよぉ!」





 ……こうして、疾風とマウのふたり旅が始まったのでした。

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