持続可能な彼女

城谷望月

持続可能な彼女

 ビューラーがポーチに入っているかどうかがあたしたちおんなを分断している、っていうのがよっちの揺るぎない主張やね。

 よっちのポーチにはビューラーもマスカラもリップグロスも入ってない。日焼け止めを塗る日と塗らない日がある。爪には何日も前に塗ってそのまんまのマニキュア。でもいつでも歯はピカピカで口が臭いなんて一日たりともないし、手も食事前にはちゃんと洗う。

 それがあたしの大好きなよっち。

 むろんあたしもポーチにビューラーなんて入れてないよ? でも朝、学校に行く前にまつげをカールさせるくらいのことはしてる。日焼け止めも夏になったら塗る。秋にも、いやそれどころか一年中塗るって人もいるけど、そこまではしてない。

 そういうおなごの小さな違いっておとこの人にはわかるんかな?

 ビューラーがポーチに入ってるけど、食事前に手を洗ったり食後に歯を磨くのができんって人もおる。ちょっとそういうのって怖いって思う。そうじゃない人ももちろんおるけど。

 食堂で食事中なのにスマホ触り続けるとかも、そのたぐい。

「デパコスもそこに入れてくれたら、最高や」

 よっちは丁寧にお茶碗の米粒をかき集めながらコメントする。

「せやな。デパコス」

 味噌汁は粉から溶かしたのが丸わかりの味だけど、ごちそうさま。

「なんやねん、デパコス/ドラコスの二項対立って。ドラッグストアばかにしとんのかって気ぃ悪うなるわ」

 美容成分配合って書いてるし。

「引きこもりが最強やな」

「日に焼けることをせんかったら、それでええんや」

 今のところ、よっちもあたしもシミもしわもない。脂っこいだけ。

「やたらSDGsって言いながらゴミ増やす生活してる人とか」

「あー、おるおる」

 よっちはポケットティッシュで使い終わったテーブルを綺麗に拭く。

「ミニマリストとSDGsって相性悪いと思わん?」

「捨ててしまうからね」

「循環させてるのは結局お金なんやろか」

「持たないけど別のところで払ってるパターンね」

 ガタガタ、と周囲の学生たちがトレイを持って立ち上がり始めた。昼休みもぼちぼち終了。

 ノースフェースのリュックを担ぐ派の男子学生と、トートバッグを肩に掛ける派の男子学生って何が違うのだろうか。

 その違いはわからないが、冷蔵庫を持たないミニマリスト派の男子学生は、外食と中食が多い。

「片付けられない人は、ある日突然ミニマリストになりがちやね」

「なるね」

「教務課に書類出しに行くけど」

「じゃ先に行くわ」

 日傘差して高校時代から持ってるカバンで食堂を出る。それがよっちの持続可能性なんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

持続可能な彼女 城谷望月 @468mochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ