第165話 修羅地獄

 エルメダが指を鳴らすと、真っ黒な人型が現れた。


 よく見ると、自分自身のような……。


「気づいたか?こいつはおまえ自身だ、ただここに来る前のな」


 それって、スキルもりもりの自分自身って事だよな……、もしかしてこれからそれを相手するのか?


「もしかして、これから相手するのは……」

「そうだ、過去のお前自身だ」


 どう考えても勝つのは無理じゃん?相手の武器が神刀じゃない事を祈りつつ、鞘と柄に手を添え居合の構えになった。


「まずは、お前自身に勝てるようにならないとな」


 “まずは”と言った。という事は段階的にレベルが上がっていくという事か……。


 自分自身ならどう来る?

 考えろ、自分自身が相手というのが勝てるポイントだ、行動速度上昇、縮地これは間違いなく使ってくるだろう。1手目は左側に抜けつつ居合斬り、背後に回りつつ背後からざっくりと行くだろう。


「よっし、やれ!」


 エルメダがそう言うと同時に目の前にいる自分が消えた!


 それは読んでいた。

 刀を半分ほど抜き、相手の刀の軌道上に刃あたるように縦にした瞬間!なにかを斬った感触があったが、その瞬間自分の胸に激痛が走った。


 痛みがはしる胸を見ると、黒光りの折れた刃が胸に刺さっていた。そして次の瞬間、背中に痛みが走った。


「それまで、居合に合わせることが出来たのは自分自身ならと考えたからか?」


 エルメダが“それまで”と言った瞬間痛みが引いた。


「そうですね、自分ならと思って対応しました」

「良い判断だったが甘かったな、刃の角度を工夫していればダメージを受けなかっただろうが、今のお前では振り返った所で斬られているだろうな」


 それは同感だ、行動速度上昇を使っているんだ、あっちの方が何倍も速い速度で動いている。これ勝てる時が来るのか?


「そうですね……」

「まぁ初日だ、あれに余裕で勝てるようになる、敗北は気にするな」


 負けた事が気になるというよりは、行動速度上昇無で倒せる気がしない事が気になっていた。


「はい……」

「さて、これからお前の武器が折れるまで戦い続けろ」


 それだけ言うと、エルメダの姿が消えた。


 この武器オリハルコン製で強度上昇10がついてるんだけど、折れるときが来るのか?折れない限りはエンドレスって事か……?


 エルメダの姿が消えてしばらくすると、周囲の風景がどこかの平原の風景になり、足元に草が出現し、さらには辺りに無数の黒い人型が現れた。


 もしかして、こいつらの相手をしないといけないのか?


『こいつらは無限に湧くからな、出来るだけ長く戦ってみろ、武器を構えろ』


 構えたら始まるんだろうなと思いつつ刀を抜いた。流石に1VS複数で居合は向いてないだろうと判断したからだった。


 案の定、刀を抜いた瞬間襲って来た。


 いつだかのアイアンゴーレム戦を思い出す。

 あの時はダンジョン内だったがここは平原だ。油断すると囲まれる、すこし下がりながら斬り伏せていく、即死ダメージになると消滅するらしいが、そうじゃない場合は残るらしいそんなことを知りつつ相手にしていた。


 しばらくすると異変に気付いた。動き回っているせいで疲れが出てきて、自分自身でも動きが悪くなってきているのを実感していた。


 ここで絶対健康がない影響が出てきた。失ってから気づく絶対健康のありがたみをしった。絶対健康が無かったら1対1ならともかく複数は本当にキツイ。


 黒い人型は武器を持っていないのが救いだった。脇差も抜き二刀流で戦い続けた。


 どれだけ戦い続けたのだろう、今は体中が痛い、もう何度も攻撃を受け気力だけで刀を振り回しているだけだ、1つ思ったのはギリギリ動けるだけの体力がずっと維持されているきがした。


『まだやるの?』


 突如ヒスイが声をかけてきた。


『どれくらいやってるの……?』

 

 ヒスイの声よりも、自分の心音がうるさいくらいに頭に響いている。


『どれ位かなぁ?ただ、既に600は斬っているね』


 これだけ身体が痛いし体力の限界が近い状態なのにまだ600なのか、すでに1万位はと思っていた。これが現実だよな、チートスキルがない状態で600はがんばったほうだと思いたい。


 正直辛い、さっさと倒れて楽になりたいとさえ思う。ただ意図して倒れると強くなりたいと思う自分の気持ちに嘘をつくような気もして倒れる事は出来なかった。

 

 そしてこのまましんどい状態で戦い続けた。


 しかし、終わりは突如訪れた後ろから後頭部を殴られ意識が暗転した。

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